特集 2014年3月31日

書き出し小説大賞・第45回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説第四十五回秀作発表である。

先日、久しぶりにTBSラジオ「たまむすび」に出演し、前回と同じく赤江アナに書き出し小説を朗読していただいた。耳から聞く書き出しもまた違った趣きが出ておもしろい。聴き逃した方はこちらをどうぞ。‪
後半から書き出し小説について語ってます。また 5月24日(土曜日) にはイベント、第二回書き出し小説大賞授賞式も計画中である。こちらも詳細が決まり次第お伝えしたい。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界をご堪能いただこう。
組み立てられたダンボールにとって僕は母であった。
りずむ原きざむ
無論シングルマザーだ。
遅れてやって来た男は、室内の状況を把握するのに十秒ほど費やし、輪唱のしんがりに加わった。
紀野珍
しんがりに加わるまでの心理(笑)
落ちたら死ぬの。スカートを翻し、真夜中の横断歩道を跳ね渡る。
小夜子
轢かれても死ぬよ!
メールを打つ手が止まる。予測変換が私の気持ちを追い越していく。
流し目髑髏
予測変換に見る下心。
春になるとずんげがかしっこうなる。
もんぜん
どこの方言だ?でつづきを読ませる。
パーカーのフードを被せたのは、春一番だった。
ハラセン
猫背あるあるにもなっている。
昨日より蜂蜜が降りてくるのが速かったし、蟻のペアも居る。春か。
人が生きてる
秀逸な観察眼。
霧吹きをかけられた少しの間だけ、丸い石はアシカに似た光沢を浮かせ、ちやほやしてもらえることを覚えた。
人が生きてる
また濡れてえ!
義母の微笑みは押し花の様に乾き、薄く背後の仏壇を透かしていた。
merumo
統一された作品観。
家裁を出ると、生焼けた曇り空の中を飛行機の気配がゆっくりと横切る。
merumo
不穏なジェット音だけが。
虎穴に入らずんば~の、ズンバのリズムで今宵も僕は踊る。もちろん独りでだ。
不眠
窓のカーテンにシルエットが。
丁寧に削るとようやく現れてきたのは固体化した涙の雫だった。
bibi
何千年前だろう。
天然パーマの中で遊んでいると、マリーが来た。灯台守がお出ましね、とウインクした。
ボーフラ
ハエ目線?「灯台守」が効いている。
魚類学者のアイツと呪文屋のオレ、ハタから見たらやってることはたぶん変わらない。
らい麦。
呪文は「ぎょぎょぎょ~」?
下校途中、やどかり売りのおじさんに出会った。大きいもの、小さいもの、すでに死んでいるもの。小遣いを持っていなかったので見るだけだったが、おじさんは何も言わなかった。たぶん両目とも義眼のせいだろうと思う。
おかめちゃん
最後でぞわっ。
ヤモリの白い腹のことばかり考えている。祖母の家の。薄暗い台所の花柄模様のガラスに、向こう側から貼り付いた。
xissa
指の吸盤もかわいいよね。
雪残る、今は寂れた商店街で、錆びついた水色のスーパーカブの、少し上向いたサイドミラーは、街路樹の枝先と澄んだ青空を写した。
丸岡
語呂と句点づかいがいい。

りずむ原氏の作品。ここからの泣けるストーリー展開は読者の妄想次第。紀野珍氏の作品。室内の状況、男の心理、どれを想像してもおもしろい。結もキマった完成度高い秀作!もんぜん氏、おそらくオリジナル方言だと思うが語感が絶妙で、どういう意味だろう?と続きが気になる。書き出しとしては技ありの秀作。人が生きてる氏、両作とも独特の視点でオリジナリティのある世界をつくっている。merumo氏の二作品も情景描写だけで言葉にはできない心理、雰囲気を浮き上がらせた見事な秀作。丸岡氏の情景描写も緻密で、それだけで読み手にある種の感情を呼び起こさせる。不眠氏、ズンバ躍りたい……。ボーフラ氏、天パにまぎれこんだハエの目線だろうか。ボーフラ氏も毎回イマジネーションあふれた設定と世界観で楽しませてくれる。
今回は全体的に春っぽい作品が多かった。自由部門がこうして自然に季節の影響を受けるのはおもしろい。

では続いて規定部門、今回のモチーフは「卒業」であった。見送る側、見送られる側、まったく関係ない立場、さまざまな視点の作品が集まった。

規定部門・モチーフ「卒業」

予行演習で泣きすぎて本番では醒めきっていた。
おかめちゃん
終始能面で。
「怪獣の皮ってこんな触感かもな」 証書筒を握りながら僕は考えていた。
大伴
……わかる(笑)
仰げば尊しのクライマックスに校長のラップがカットインしてきた。
もんぜん
ギャングスタ校長が!
天井のバレーボールは三年前と同じ場所に挟まっている。
TOKUNAGA
もう何度卒業生を見下ろしてきただろう。
親父達を乗せた遠洋漁船が街の港へ寄った日、卒業式に母親たちの姿は無かった。
TOKUNAGA
ダブルブッキング。
保護者らが作った花道は、防虫剤のにおいが立ち込めていた。
おかめちゃん
体育館全体がタンスっぽく!
「第2ボタンと僕の神経は繋がっているんだ」
りずむ原きざむ
だから取られなくてよかった。
「楽しかった」「スマホアプリー」「初めて笑った」「卒業式なうー」
g-udon
在校生の送辞風作品。
矢島君の第二ボタンが今日は純金だと聞き、あの芳子がようやく重い腰を上げた。
アイアイ
指の関節鳴らしながら。
体育館に蛍の光が流れ、隣の乾物屋も閉店した。
大伴
桜とカツオ節が舞った。
背後から右手で先輩の第二ボタンあたりの襟を引き出し、左手で襟首をしっかり掴み、雑巾を絞るように一気に締め上げる。「送り出し絞め」である。
稲妻柔術
感謝と恨みを込めて。
個室付浴場から出てきた彼の手に卒業証書はないが、その彼の笑みは間違いなく卒業の証だ。
みつばち社長
記念にもらったスケベ椅子。
CDもDVDも写真集もグッズも全て手放した。ブックオフのレシートが僕の卒業証書だ。
伊東和彦
レシートを両手で受け取って。
娘の卒園式に定年間際でクビになった父と、役者になる夢を昨日捨てたばかりの夫が、呼んでもないのに来た。
g-udon
しかも誰よりも泣いていた。
あんたが行くって聞いたから、その高校にしたのに。普通落ちる?
卒業式なんて中止になればいいのに。
おとめ
ガシャンガシャン。来年私達が座るであろうパイプ椅子達が片づけられていき、いつもの体育館に戻っていく。外の桜の木はまだつぼみはつけていない。
ちょれら
もう部活の卓球台出てきた。
卒業式の日の朝、背中に大きな翼が生えていた。あぁこれでもう本当に学生服は着れないな。僕は太陽とは別の方向に向かって飛び立った。
ちたん
俺だけコウモリの翼。
たかちゃんも今頃卒業式に向けて脛毛を金髪に染めている頃だろう。そう想像するとこの孤独な作業も何だか楽しく思えてきた。
熱帯雨林
柿ピーをより分ける作業?
壇上の花に虫が集っている。同級生が泣きながら蛍の光を歌っている。あれから7年、僕はモラトリアムから抜け出せないでいる。
いししっぴ
モラ充。
以下同文の僕らのこれからは決して以下同文ではない。
猫ぎょうざ
進学する者、実家を継ぐ者、翌日逮捕される者……
卒業生、在校生、レジェンド、起立。
ウウタルレロ
まさかのレジェンド枠。

卒業式など型の決まったイベントはドラマ設定の鉄板。あるあるを上手く取り入れた作品から、視点をずらした作品まで良作が集まった。大伴氏の証書筒、読むだけで指にあの感触が蘇る。りずむ原氏の作品、多かった第二ボタンネタの中でも秀逸。強引な言い訳が笑いと切なさを呼ぶ。g-udon氏の送辞風作品。これホントにCMなんかで観たい。稲妻柔術氏、卒業式の湿っぽさが微塵もない(笑)。伊東和彦氏、勇気のある決断。おとめ氏の作品、ストレートな思いが刺さる。このパターン本当にあるもんね。ちたん氏、太陽とは別の方向という締め方がいい。熱帯雨林氏、これだけではほとんど状況が把握できないももの、それだけに読み手の妄想が刺激される。この手法は微妙なさじ加減が要求されるが本作はその成功例。ウウタルレロ氏、レジェンドって……(笑)バンカラ風の四十男の姿が目に浮かんだ。どれも当時の心境が、愛しさと間抜けさを伴って思い出される秀作揃いであった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
ボーイミーツガール
ボーイミーツガールとは簡単に言えば「少年が少女に出会う恋物語」である。今回はその冒頭、男子と女子の出会いのシーンを印象的に書いてもらいたい。ただボーイは必ずしも少年でなくても構わない。ガールも同様。その年齢などは問わない。中年同士、老人同士、双方に年齢差があっても構わない。もちろん女子側の視点「ガールミーツボーイ」でもいいし、男同士、女同士でもそれが恋に発展しそうな予兆を含んでいればよしとする。なんなら人間でなくてもよい。
いろんな但し書きをつけたが、要するに恋愛ドラマの出会いのシーンならなんでもオッケー!である。
思いっきり広義の「ボーイミーツガール」である。あなたの考えた理想の、最悪の、またこれまでになかった出会いを紡ぎ出してください。
締め切りは4月11日正午。発表は4月13日の日曜を予定しています。以下の投稿フォームで自由部門、規定部門を選択し送っていただきたい。力作お待ちしております。
最終選考通過者

もけもけ/arko/suzukishika/早百合/よしおう/レイナパステル/シカトろっく/ささいな/ちかぞお/粉すけ/ひらり庁/ウチボリ/ミネラルウォーター/Yves Saint Lauにゃん/トニヲ/NCハマー/Andi/しめしめさば/松っこ/マッドまっすぐ/ボリビア錫彦/森羅/megahiro/屋上緑化/哲ロマ/みつる/ゴロ/
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