特集 2014年2月19日

漫画が「描ける」漫画喫茶

ネームを考える未来の漫画家
ネームを考える未来の漫画家
小学校の卒業文集。将来なりたい職業のコーナーに「漫画家」と書いたことを覚えている。あれから幾年月。漫画家にはなれなかった。しかし、夢をあきらめるにはまだ早いのではないか。漫画が「描ける」漫画喫茶で自分の才能を試してみた。
ライター。たき火。俳句。酒。『酔って記憶をなくします』『ますます酔って記憶をなくします』発売中。デイリー道場担当です。押忍!(動画インタビュー)

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店長は現役の漫画家

高円寺駅北口。ロータリーの向かいに2月16日にオープンしたばかりの「漫画空間 高円寺店」がある。
夢をあきらめないで
夢をあきらめないで
店のキャッチフレーズは「読める! 描ける! 広がる!」。そう、漫画を描くこともできる漫画喫茶なのだ。
料金はこんなかんじ
料金はこんなかんじ
階段を上がって2階へ。店長の深谷陽さんが出迎えてくれた。
ダンディーにキメる店長
ダンディーにキメる店長
深谷さんは46歳。「ちばてつや賞」入選経験も持つ現役の漫画家なのだ。
陽光あふれる漫画喫茶も珍しい
陽光あふれる漫画喫茶も珍しい
店内にはアナログ(手描き)机が15席、デジタル(PC)机が4席ある。予想以上に開放感あふれるスペースだった。

PCにはコミックスタジオやフォトショップなどのソフトが
PCにはコミックスタジオやフォトショップなどのソフトが
もちろん、漫画も多数置いている。
『ハゲしいな!桜井くん』とか懐かしいですね
『ハゲしいな!桜井くん』とか懐かしいですね

画材は無料で貸し出してくれる


深谷さんいわく、「名古屋に本店があるんですが、東京にも進出しようということで、ここに店を出しました。漫画家志望の方はもちろん、プロの漫画家さんもよく遊びにきますよ」とのこと。
1000円で似顔絵も描きます
1000円で似顔絵も描きます
家に閉じこもって描くより、こういうスペースの方が交流も生まれるんだという。ちなみに、以前はイタリアンの店だったそうだ。
ところどころに残るイタリアン
ところどころに残るイタリアン
深谷さんは店長業の合間を縫って、自分の漫画を描く。1日に平均4枚ほどを仕上げるのだ。
店長席
店長席

「子供の頃は『マカロニほうれん荘』をよく読んでいました。その後は、安彦良和さんや山田章博さんの線も好きになりましたね」

店長、ペン入れです
店長、ペン入れです
なお、画材は無料で貸し出してくれるので、手ぶらで来ても大丈夫。
ここから勝手に持っていってください
ここから勝手に持っていってください
交換用のペン先や雲形定規も
交換用のペン先や雲形定規も

「ネームを描いてみましょうか」

ところで先生、自分の才能を試してみたいんですが…。

「あ、それならネームを描いてみましょうか。漫画にはストーリー、ネーム、絵という3つの要素がありますが、何といっても大事なのはネーム。いわば、漫画の設計図です」

ネームとは、コマ割りやセリフ、キャラクターの配置などを指定するラフスケッチだ。
先生が描いたネーム
先生が描いたネーム
「自由に作るのも難しいので、課題を出しましょう。このセリフでストーリーの展開を考えてください。制限時間は30分です」
シンプルすぎて逆に難しい
シンプルすぎて逆に難しい
その際、重要なのは「メリハリ」「アングル」「奥行き」だという。

「登場人物の顔ひとつとっても、アップなのか引きなのか、見上げるのか見下ろすのかなどで、ずいぶん印象が変わりますからね」
今回はシャーペン、消しゴム、定規のみを使う
今回はシャーペン、消しゴム、定規のみを使う
さて、漫画家としての才能を問われる瞬間がやってきた。子供の頃から落書きは好きだったが、ネームなどというものはもちろん描いたことがない。

白い紙を前に考える
白い紙を前に考える
A4の紙に上と左右に1.5cm、下に1cmの余白を作ると、ちょうど漫画用紙の定型サイズになるそうだ。また、読者の目線の動きを考えて、コマとコマの間の余白は縦を狭く、横を広く取る。
考える
考える
これが予想以上に難しい。「好きだ」「ごめんなさい」というからには、男女の会話だろう。しかし、そのまま漫画にしてもつまらない。
考える
考える
考えた末に、男女がたき火を囲む設定にした。問題は「……」の間をどう表現するかだ。そして、すてきなオチも付けよう。

人生初ネームが完成した

30分後。ついに、人生初のネームが完成した。絵心のなさはひとまず置くとして、表現者としてのセンスをアピールしたい。
ファーストネーム完成!
ファーストネーム完成!
ストーリーは、砂浜のたき火を男女が囲むシーンから始まる。
うまく描けない時は文字で説明してもよいとのこと
うまく描けない時は文字で説明してもよいとのこと
ささやかに遠近法を駆使
ささやかに遠近法を駆使
男が薪を投げ込んだのちに告白する
男が薪を投げ込んだのちに告白する
薪に断られる
薪に断られる
先生、どうでしょうか。

「おお、悪くないですよ。メリハリも奥行きもある。カモメで目線を逸らす効果も活きています。でも、ちょっとストーリーの意味がわからないんですが…」

女性に告白すると見せかけて、相手は薪だったんですよ! 伏線として薪に人間の表情っぽい線も描き加えています。

「なるほど…。(そこはスルーして)直すとしたら、こんなかんじですかね」

プロの手によって鋭く修正が入る
プロの手によって鋭く修正が入る
2ページめの「パチパチ」は薪をくべているので、炎を激しくする。その次のコマは、女性の後頭部なめアングルを大胆に。薪を強調するため、ラスト前のコマに炎を入れない。

自分でも凝ったつもりのラストのコマの左上部の段差は「うーん、いらないですね」とのことだ。

というわけで、漫画家への道は遠いようだ。最後に、記念として色紙を描いてもらった。
ささっとペンを走らせる先生
ささっとペンを走らせる先生
せっかくなので、Zくんを深谷さん流にアレンジしたものをお願いしてみた。

ネームは人生である

メリハリ、アングル、奥行きが重要。ネームは人生である。今回は、その奥深さを知ることができた。なお、言葉から画面を起こすことを苦手とする若い漫画家が多いため、最近では原作者もネームを描く技術を求められることもあるという。なるほど。
メリハリと奥行きが加わったZくん
メリハリと奥行きが加わったZくん

<取材協力>
漫画空間(名古屋/東京)
URL http://www.mangakukan.com/
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