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中央線で水晶ハント
いつも乗ってる中央線。

まえに落ち込んだとき、「ああ、中央線にずっと乗って、どっかに行っちゃいたい……」と思って、奥多摩まで出かけたことがあった。
その時は、ひとりで路線バスに乗って、ダムまで行った。水面に石を投げて、ちょっと山にのぼって、ヘビイチゴをながめてたらヘビが出てきて、びっくりして帰ってきた。
いつも乗る電車に、逆方向に行くのは楽しかった。「今度中央線で遠出するときは、奥多摩方面じゃなくて、まっすぐ山梨まで行ってみよう」と漠然と思った。

で、先日。とあるサイトで水晶をみた。わたしは鉱物のことなど、さっぱりくわしくないのだけれど「いいな」と思った。すきとおっている。キラキラしている。結晶の形がきれいだ。調べたら中央線にまっすぐ乗ったら行ける場所に、水晶の採れるポイントがあった。個人所有のお山だが、許可をもらえば、入ってもいい場所だという。
「そうだ、このキラキラしたものをひろいに行こう」。そして私は、朝はやく電車に乗った。

(text by 大塚幸代


平日朝の中央線下り。がらーん。

キオスクでワイン売ってた。さすが山梨。これから山登りなのに、つい試飲。

信玄さま。なんか顔デカイ。


平日のくだりの電車はすいている

「そういえば宝石とか、人からもらったことがないんスよ。……だから自分で拾いに行くのかしら。ハハハ」と、同行してもらったニフティHさんに言うと、「さわやかな秋の朝なのに、そういう後ろ向きな動機はだめです」と言われた。
「もっとピュアな気持ちで」
「ピュアですか?」
「そう、ピュアです」
ガラガラにすいた、平日朝の中央線くだり。リュックの中には、鉱物ガイドを読んで用意した、軍手やスコップ、地図が入っている。
前の晩、緊張してちゃんと眠れなかった。なにしろ鉱物採集ヴァージンで、何もわからない。でも変なことをして、鉱物ファンに迷惑をかけてもいけない。
きっと、こんな気持ちで初めての石ひろいに行く、東京の鉱物少年は多いにちがいない。

景色が変わっていく。どんどん風景が横長になって、畑ばかりになって、こんどは山や川が見えてきた。青い電車(これも中央線)に乗り換えると、今度はぶどう畑が見えてきた。

「そういえば、緒川たまきさんが、鉱物ファンらしいですよ」
「たまきさんですか。あ、わたし、たまきさんと生年月日、1日違いなんです」
「……全然共通点ないですねえ」
「そうスね」
「水晶に興味がある、という点だけ共通してますね」
「そうスね」
新宿から約2時間。目的の駅「塩山」についた。
駅前にあるのは武田信玄の銅像とおみやげ屋。もっと山の中にある駅なのかな、と勝手に想像していたのだが、ふつうにモスバーガーがあった。
近所のスーパーでおにぎりなどを買う。
「わあこの牛乳、東京で見たことないビンですよ。あっ、あと遭難にそなえて、チョコレートも買いましょう」と私がふり返ると、Hさんはおそうざいコーナーで、うずらの串揚げをパックにつめていた。
デイリーポータル水晶狩班、緒川たまき的なものからは、はるかに遠い。

乗客の平均年令の高い路線バスに乗りこむ。お山までは20分だ。


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