特集 2014年8月10日

書き出し小説大賞・第54回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第54回目である。

先週、ハリウッド版ゴジラを観てきた。最先端の映画技術によって復活したゴジラはとにかく迫力があった。次は是非アリさん引っ越しセンターの赤井英和氏をハリウッド版で観たい。核が生んだモンスター対まじめにやってきたモンスター。ゴジラVSアカイに期待する。

それでは今週もモンスター級の書き出し小説を紹介します。

書き出し自由部門

父のジョークに風鈴だけが小さく笑った。
大伴
溶けた氷もカランと笑った。
カナブンが一直線に飛んできた。私のファーストキスだった。
日向
見つけ合う余裕はなかった。
梅雨時期は湿気で尺八のチューニングが狂うと、虚無僧が嘆いている。
おかめちゃん
木魚の音も鈍い。
扇風機の首にあわせて移動しながら上司の説教を聞いている。
大伴
上司が扇風機ならいいのに。
球場に響いたその校歌の出だしはボイスパーカッションだった。
哲ロマ
球児の肩がリズムを刻む。
あんたんとこ、火事やで。全てを知ったうえで、イルカショーにて手を挙げる。
義ん母
その顔の凛々しいこと!
アイツはアイザック。アシモフと笑う。
こめどころ
あしもふ、もふもふ。
ピンと立った猫のシッポが、私の股間を力強くなぞった。
g-udon
後ろから前から。
彼女は予言者というより、むしろ有言実行の人だった。
Mch
予言書はTo Doリスト。
地球と彗星が衝突する前日、弟は泣きながら夜空にむかって吹き矢を飛ばし続けた。
にゃーころ
そうして出来たのがクレーターで……。
私が昨日食べてしまったアイスをめぐって、妻と娘が口論している。脱衣所から出られない。
おかめちゃん
はずれ棒を握りしめて。
キンキンに冷えたサイダーの泡の向こうには金閣寺が見えた。
電荷じゃがいも
コレ、80年代タッチのイラストで見たい。
真夜中、路地に這って苔を舐めた。何の音もしないのである。
ボーフラ
「である。」じゃないよw
最近同棲を始めた友人ののろけ話を聞いた帰り道、スクーターに二人乗りしたカップルが、自販機の前に止まってどのジュースを買うか相談していた。僕は黙って自転車のギアを一つ上げた。
ふじーよしたか
後ろにエア彼女を乗せたつもりで。
観覧車のせいで、尾行対象を見失った。
紀野珍
下で待ってりゃよかった!
平泳ぎで逃げる女を、習いたてのクロールで追った。
TOKUNAGA
派手なのは水飛沫だけ。
部長の雑談につきあうことを「赤べこ」と言い、それに伴って発生した残業代を「べこ代」と言う。
AD794
社内スラング。使ってみたい。

大伴氏の作品、寒い親父ギャグが涼を呼ぶ。哲ロマ氏の作品、グランドに整列した球児たちの肩がリズムを刻む。メインMCは案外補欠選手だったりしそう。義ん母の作品、この吹っ切れ方はすごい(笑)どうせならきれいに全焼して欲しい。電荷じゃがいも氏の作品から想起されるビジュアル。かつてこれほどキラキラした光景があっただろうか。夜はシャンパン越しに見たい。紀野珍氏の作品。どのあたりで己のミスに気づいたのだろうか。AD794氏、ただうなづくだけなので「赤べこ」。こういうスラングをつくると、辛い職場も楽しくなります。

続いては規定部門、今回のモチーフは「怪談」でした。
途中まではいつも通り選考してたのですが、怪談ということなので、いっそ百物語にしてやれと、今回はコメント抜きで百本スペシャルにしました!それでは書き出し怪談百物語、一気にどうぞ!

規定部門 モチーフ「怪談」

それぞれ七不思議を持つ二校が統合し、十四不思議となった。
紀野珍
膝にできた人面創が次第に増え始め、右足全体が奴の顔で埋め尽くされた。
もんぜん
もしもし婆ちゃん?オレだよ、オレ。まずい事になっちゃった。車でぶつけちゃって相手に慰謝料が必要なんだ。今から言う口座に振り込んでもらえる?オレは死んじゃって何もできないから。
g-udon
心霊スポットであり、暴力団事務所でもある。
TOKUNAGA
「ガチで」で始まったチャラ男の怪談は「パない」であっさり終わった。
大伴
「ストップ・ザ・シーズン…」、そう言いかけて、隣の男の姿が消えた。
kjm
市松人形の度重なる散髪代が、いよいよ我が家の家計を圧迫しはじめた。
茂具田
隠し通した性癖を、恐山でバラされた。
えむ毛
バイバイと電車の窓越しに振る彼女の手が、線路にぼとりと落ちた。
おかめちゃん
お一人様専用です。と、断られた。
TOKUNAGA
磨り硝子の向こう側を、ちいさな手が這いずりまわる。
xissa
一品だけ、過剰なほどに消されているメニューがあった。
大伴
3度目の「じゃあ削りますよ」を聞いたあたりで、どうやらこれは無限ループというやつだなと悟った。歯科医が冷たい目でこちらを見ていた。
Mch
この四百年余り、一度も人に気づかれていないことを、甲賀の霊は誇りにしている。
suzukishika
荒川さんの庭の紫陽花は、毎年様々に美しい花を咲かせる。それにしても今年の梅雨は行方不明者が多い。
夏猫
理科室から人知れず動き出した人体模型は、音楽室に飾ってある作曲家の肖像画が動いているのを見て恐れおののいた。
eat_sush
バスの斜め前に座った人が私のFacebookにログインした。
上森ニマメ
彼女は交差点を駆け抜ける。夜のストライプから呪詛が立ちのぼる。
xissa
従業員100人の健康診断が終わった。尿の入った紙コップの数を数えたら101個あった。
百万円ライター
寝坊して飛び起きた目の前に血だらけの女が立っていたがそれどころではないのだがやっぱり怖いけど遅刻だたぶん幽霊だ怖い遅刻する血だらけだ怖い寝癖ひどい血だらけだ怖い財布どこだ血だらけだ怖い。
哲ロマ
「――って顔を上げたら。お客さんがみんな……居なくなってたんだよ」
翌日未明
オカリナは誰かの巣になっていた。
人が生きてる
四十を超えてもなお、成長期が止まらない。
流し目髑髏
彼が首をつったロープは、よく見ると女性の髪の毛で出来ていた。
もんぜん
まず、この人を降霊してしまったことを後悔している。
げっつぁん
砂場で見たものは、カツラでは無かったらしい。
TOKUNAGA
ボーカロイドの読経が、斎場を冷たく包み込んだ。
おかめちゃん
6月に死んだ女性の霊は、今年のトレンド、胸元に三段フリルをあしらったビキニを着て、恨めしそうに海を見ていた。
菅原 aka $UZY
赤い爪が、運命線をなぞる。彼女は「好きよ」と呪詛を口にした。
ユミちゃん
爺さんの初盆に飛び込んできたクマゼミは父母の顔に小便をまき散らせながら部屋中を飛び回った。
TOKUNAGA
タカシは時々、動きと影がズレる。
ウチボリ
私は幽霊を信じていない。なぜなら私以外の幽霊に出会ったことがないからだ。今のところ。
ミミズグチュグチュ
ろくろ首の求愛行動は、長く伸ばしたお互いの首を絡めることらしい。
itty
その最新刊の実話系怪談集には、3か所の誤植があった。
イグアナ丼
これが椿の花ならば、さぞかし美しかったのに。人の頭は重すぎる。姉の頭がごろりと落ちた。
吉蔵
棺をノックすると「入ってます」と祖父が返した。
小夜子
皿を数えるだけの簡単なバイトであった。
大伴
金縛りかと思ったが、強盗に縛り上げられてただけだった。
ぴすとる
家の周りに置いてあるペットボトルが猫ではないものを避けるためだと気づいたのは、12歳の夏だった。
tkq
旅館の間取りを説明する口を塞ごうと必死に追いかけくる掌がかわいくて、私はそれを躱しながら、来年はどんな怖い話を仕入れてこようかと企むのだ。
ぶん
墓の前で親父は幾度となく、隆史、隆史、と呟いた。隆史は、親父の名だ。
義ん母
「感じやすいのでそこには経文を書かないでください」と芳一が和尚に囁いた。
おかめちゃん
線香花火のパチパチとした火花はよく見ると、ごくごく小さな人だった。着物を着ている、そして両手両足を虚空に大の字のかたちで投げ出しては消えていく。
こめどころ
人里離れた山の中腹にある、蔦で覆われた崩れかけの古寺に、光ケーブルの工事が入った。
酢ダコももう29歳
「だーれだ?」冷たい手が後ろから目隠しをしてきた。知らない女の声は、前から聞こえてくる。
夏猫
大量の蟻が部屋に入ってきて、彼女の顔をかたどった。
もんぜん
首を縦に激しく振る扇風機を見たことがある。
柴咲ハコ
また知らない人の写真に映り込んでしまった。 g-udon
悪魔に憑依されたという少女は、呪いの言葉を吐きながら虫さされの痕を何度か掻いた。
TOKUNAGA
怪談話で盛り上がっていると、決まって「生きてる人間が一番怖いんだ」って言ってシラケさせてたくせに。じゃあ今こっち見てるお前誰なんだ。
5時のおやつ
切れ長の目、広い肩幅、骨ばった手。私の理想を体現したような目の前の男性にはただ一つ足がなかった。
(たま)
登山者名簿の人数より下山者の数が多い。
おかめちゃん
額の白い布当てから透けて見える肌に、僕は湧き上がるエクトプラズムを抑え切れなかった。
うにねこ
「知り合いかも?」の欄に見知らぬ人の名前があった。横には、電話番号で友だち追加されました、と文字が並んでいる。
しどろもどろ
「寝過ごした!」布団から勢いよく飛び起きた。まだ寝てる自分が見えた。
ぴすとる
最近、息子の嫁がしきりに「絶対に検索してはいけない言葉」を教えてくる。
Mch
石畳の隙間から、絶えず視線を感じた。
Mch
怪談話を得意とするほうが、兄だ。
紀野珍
「チュパカブラを助けて下さい!」怪物をおぶったブスが叫び終えると同時に兵長の銃口が火を噴いた。
マンディルド
後ろに気配を感じて振り向く、とそこには誰もいない。するとまた後ろに動くものを感じる。素早く振り返ると何かが微かに背後に回り込む。追い詰めようと右回りに何回転かしてみたが、正体を掴めない。気味が悪いにゃ。
g-udon
ドライヤーを後髪にあてた時ハッと凍りついた。鏡越しに去年のカレンダーがまだ掛けてあるのが見えたのだ。
g-udon
はっちゃけすぎたお泊まり女子会の代償は翌日の気まずさではなく、頼んだ記憶のないピザの支払いとシェービングジェルの残り香だ。
松っこ
何度も何度も繰り返し繰り返し語り継がれるうちに首が伸びる設定が付加されて、なぜかそれだけが定着してしまったので。彼女はどこか懐かしそうに語り始めた。
春乃はじめ
老婆は怪談を終えるとケーキの蝋燭を一息で吹き消した。
大伴
シャンプー中に手伝ってくれる手が、指示せずとも痒いところをわかってくれるようになった。
おかめちゃん
何故、壁に掛けてある俺のジャケットから手が出ている!?
米虫
壁に現れた奇妙なシミは何時しか巨大なハートを形作った。
TOKUNAGA
祖父の怪談は最大のやま場を迎え、外れかかった入れ歯で何度も中断を余儀なくされた。
wabisuke
せっかく怖い話をしているのだが、合いの手を入れるように子供が泣き出してしまってちっとも怖く聞こえない。子供なんていないので泣き止ませようもないし。
うにねこ
壁から出た手に壁ドンされた。
松っこ
やっぱりEXILEが五人多い。
流し目髑髏
手の甲を濡らした老婆が、暗い廊下の奥から現れる。タオルを探しているのだ。
ヨーヨー大会
三途の川で溺死した男が背泳ぎで帰ってきた。
TOKUNAGA
決まって午前三時ちょうどに現れる亡霊が今夜は五分過ぎても気配がない。どうしたのだろうと思った直後に廊下をドタバタと慌てた感じでやって来た。
g-udon
「あんたもうちょっといい男じゃなかったっけ?」泣き笑い、久しぶりに再会した場所は天国でした。
不眠
「誰かに見られている気がするの。四六時中。ずっと」ふたつの可能性を考えた彼女は、恋多き女であり霊媒師見習いでもあるカナコに相談した。
紀野珍
私は悲鳴をあげた。「俺、幽霊なんだ。」彼の服が透けて、それから消えた。
日向
その階段は、上ると十五段あり、下ると日当たりのよい踊り場に出る。
紀野珍
トイレの花子さんと呼ばれたその少女は、解体されたかつての住処に一輪の花を手向けると、しっかりとした足取りで新校舎へと向かった。
朱鷺茶
テニスコートの右側のサービスエリアでひしめきあっていた。
綾子
りさちゃん、ななちゃん、るみちゃん。娘が着せ替え人形に付けた名前は、かつて私が利用して酷く痛めつけた女たちの名前と完全に一致していた。
のりこ
レイブ会場となったビーチは、ダンスミュージック好きなリビングデッドでごった返していた。
イワモト
切り干し大根と身欠きニシンが大の苦手だった兄がむさぼるように食べている。座り方もオネエになっているし、赤い月の出た夜から何かがおかしい。
ロシアンダイバー
妻の腰に腕を回し家に入っていくその男は、どう見ても俺だった。最初に思ったのは、俺って結構猫背なんだな、ということだった。
Mch
人を含んだまま四角にスクラップされた車が、コンセプチュアルなどと言われ、美術館入り口でモニュメントになっている。
人が生きてる
庭のオジギソウがひとりでに閉じた。
おかめちゃん
エレベーターの扉が開いた。墓石をよけて、隅に立つ。
ヨーヨー大会
剥がした美容パックに、顔のパーツがへばりついていた。
おかめちゃん
山道にて糞魔に襲われた私は我慢できずにその場でひねり出した。顔をあげると一匹のサワガニが悲しげな瞳でこちらを見ていた。
KESHI
ギィイイイイ・・・機械が嫌な音をたてた。男は作業台に近付き、手袋をつけると、つぶれて原型をとどめていない若い女の顔を丁寧に抱えあげ、なめまわすように断面を観察した。3Dプリンタからはまだ赤い樹脂が……。
きいろ
道向こうのカフェテラスに彼女を見つけた。お腹をさすりながら妻と談笑している。私は何も聞いてない。
うにねこ
とりあえず、生が出てきた。
suzukishika
昨日投函したはずの卒論の上で目を覚ました。
ろさ
「さあ、綺麗に洗うんだよ」と言ってお婆さんは洗濯もんを川に投げいれた。瞬間、水中からいくつもの手が伸び、奪い合う様に洗い始めた。
メイコ
薄々感づいてはいたが、あまりに美しいので表紙のモデルをお願いした。出来上がったネガにはやはり何も写っていなかった。
百万円ライター
叫ぶな。それから、スマホで撮るな。写らんぞ。
xissa
葉っぱじゃないよ・・・カエルだよ!!
綾子
女子トイレの三番目の個室から、スカート穿いた彼氏が出てきた。
優凪
ドタドタと走り回る足音が、天井裏から聞こえるようになって15年目の今日、その足音は明らかにボックスのステップを踏む音に変わった。
ねもっ血風クン
「死んでからじゃ遅い」とよく言うけど、本当にその通りだったよ。
えむ毛
あとで数えてみたら、百一話あった。
紀野珍

いかがだったでしょうか。書き出し百物語プラス1。実際の百物語は最後に本物の幽霊が現れるそうですが、こちらの百物語に現れるのは不毛な達成感のみなのでご安心を。

実際ぞわっとするものから、オチ有りの小話。雰囲気モノから、どう怖がっていいのか読み手の感性を試すモノまで、恐怖に対するさまざまなアプローチがありました。

しかし実際百本選んでると、だんだん恐怖の感覚が麻痺します。面白かったのが怪談という前提で読むと、まったく怪談じゃない作品もホラーに読めてしまうこと。たとえば今回、自由部門の投稿で「わたしの身体は止まっているのに、電車が勝手にわたしを会社に連れて行く(小夜子)」っていうのがあったんですが、これ勝手に幽体離脱モノと勘違いしてました。よく読むぜんぜん当たり前のこと書いてるだけなんですね。ベタな結論ですが、恐怖はやはり受け手の心にあるんだなと思いました。 さて、お気に入りの怪談はありましたでしょうか?

それでは次回のモチーフを発表します。
次回モチーフ
「歴史人物(国内編)」
歴史上の人物を配した書き出し小説を募集する。今回は国内編。古代から近代にかけて人選は問わない。しかしこの人選の妙が作品の決め手になるだろう。戦国武将に幕末の志士、明治の文豪など人気どころは切り口が勝負、そこからちょっとずらした渋い人選も面白い。ただしあまりマイナー過ぎる人物は厳しいかもしれない。歴史上の人物に新たなキャラづけを施して欲しい。締め切りは8月22日正午。発表は8月24日を予定している。下の応募フォームから自由部門、規定部門を選んで送っていただきたい。力作待っています!
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