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ロマンの木曜日
 
日本最長の路線バス「新宮特急」に乗ってきた
紀伊山地をひたすら走る、路線バスの旅

奈良県の大和八木駅から、和歌山県の新宮駅まで、「新宮特急」という日本一長い路線バスが走っている。その事を聞いたのは、果たしていつの事で、誰からであっただろうか。

片道6時間半、ひたすら紀伊半島の山間部を走り続けるというそのバスは、鈍行な旅行が好きな私に極めて強烈な印象を与えた。そして、いつかの日、乗らねばないだろうと思っていた。

その、いつかの日が今来たのだ。とある土曜の朝の9時、私は近鉄大和八木駅のバスロータリーに降り立った。

木村 岳人



紀伊山地を縦断する路線バス

新宮特急は、紀伊半島の山地を縦断する国道168号線を走り、大和八木駅から五條、十津川、熊野本宮を経て、和歌山県と三重県の境に位置する新宮駅へ至るバスである。

その走行距離は169.9km。停留所の数は、何と167ヶ所にも及ぶという。特急という名を冠すものの、八木から新宮までの所要時間は片道6時間30分と極めてスロー。高速道路を使わないバスとしては、文句無し、日本最長の路線なのだ。

今回はこのバスを使って、八木−新宮間を往復してみたい。



より大きな地図で 日本最長の路線バス「新宮特急」 を表示
新宮特急路線図。紀伊山地のど真ん中をぶった切ります

ちなみに、新宮特急の本数は、往路、復路共に一日三本。ただし、いずれも早い時間帯の出発である為、新宮まで行ったら一泊するか、または鉄道等で帰ってくるしかない。行きも帰りも新宮特急を使おうとすると、日帰りは不可能だ。

私は今回、往路は八木から新宮まで通しで乗って、新宮で一泊。復路は途中の二ヶ所で下車しながら、一日三本のバスを乗り継いで、のんびり八木に戻る心積もりである。


そして来ました、近鉄大和八木駅
バス停では、既に列ができていた

私がバスターミナルに到着すると、すぐさま案内係のおっちゃんが寄ってきて、行き先を尋ねてきた。「新宮特急に乗りたいんですけど」と告げると、「そっちに並んでね」と指を差す。

そこには、行楽的なウェアを身に纏った方々が既に数人、列を作って並んでいた。私もまたその列の最後尾に付くと、胸を高鳴らせつつバスの到着を待った。


新宮特急は出発時刻の5分前に入ってきた

やってきた新宮特急は、まぁ、普通の路線バスである。

色使いや経由地の表示板など、どことなくレトロな雰囲気が漂っており、この付近の市街地を走る路線バスとは趣をやや異にしているものの、それでもこのバスが山道を6時間半も走る事など、思いもよらないくらいに普通である。


経由地表示を見ても、ピンとこない人が大半だと思う
バス内部はこんな感じ

運賃箱も、普通のやつだ(ICカードにも対応済み)
カーテンがあるのは長距離バスっぽいが、降車ベルは普通

しかし、普通の路線バスは、運転席横にハンマーを置かない
主要バス停への所要時間表示も半端無い

一見しただけでは普通の路線バスのようであるものの、じっくり見てみると、やはり普通の路線バスには無い特徴が垣間見れる。普通の中に存在する違和感。それはまるで、間違い探しのようではないか。

なお、始発の時点での乗車率は7割程度。いかにも山間部まで乗ります的な格好の人が目立つが、普段着の人も結構多い。その割合は、3:2といったところか。


そうこうしているうちに出発
しばらくは、町中を走っていく

新宮特急は、定刻の9時15分に発車した。

これからこのバスは、まず一時間ほどかけて、古くからの交通の要衝である商家町、五條へと行き、それから山道に入って、後はだひたすらに十津川村へと向かう。

そのうち八木から五條までの道のりは、基本的に市街地。車窓の眺めも、よくある郊外の国道沿いといった感じである。


こういうバス停一つ一つに止まる
普通の路線バスと同じように、乗り降りは激しい

新宮特急は傍らのバス停に一つ一つ、律儀に止まっていく。その都度、誰かが乗ったり、降りたりして、結構せわしない。

どうもこの区間は、普通の近距離路線バスと同じような感覚で、地域の人々の足として利用されているようなのだ。これが、普段着の格好の人も多く乗っていた、その理由であろう。



段々と、山の風情になってきた
風景が徐々に変わっていくその過程が楽しいですな

JR和歌山線と並走して行くと――
程なくして五條バスセンターに到着

出発してから一時間強、バスは五條バスセンターに到着した。アナウンスによると、ここで10分のトイレ休憩だという。

なお、前述の普段着の人々は、五條に着くまでにそのほとんどが降車している。残ったのは私を含め、行楽風の服装をした乗客がほとんどだ。


みんな休憩で降りたので、バスはがらんどう
今気が付いたが、座席の色合いがとてもかわいらしい

ちなみに、私は前から二番目の左の席なのだが――
ここが、見晴らし良く、足も伸ばせる良い席だった

バスに乗る前は、一番前の席を確保したいなと思っていた。しかし、私の前に並んでいたおばちゃんたちが、狙っていた最前列の席に座ってしまった為、私は仕方なく二番目の席に腰を下ろしたのだ。しかし、この席が、素晴らしく良い席だった。

左の一番前の席は、一人席である。故に、その後ろの私の席は、前を遮るものが何もない。正面はフロントガラスで眺めが良いし、足が伸ばせるので長時間乗っても疲れない。まさに、新宮特急で最も理想の座席と言えるだろう。

当然ながら、バスが混雑してきたら、二人席を一人で占有する事はできないし、足も引っ込めるべきである。しかし、幸いにも今回、そこまでバスが混雑する事は一度も無く、常にこの席をキープする事ができた。いやはや、運が良い。


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