マラソンや駅伝など、市街地を通り抜けるスポーツを観に行ったことがない。
ふつうの街中がとつぜんスタジアムになるわけだけど、選手がやってくる前はどんな雰囲気で、過ぎ去った後はどのようにいつもの景色に戻っていくのか。
気になったので、そのあたりを目的に、初観戦してきた。
(萩原 雅紀)
10:30 A.M.(先頭通過の1時間45分前)
正月三日。いつもの年ならまだ寝ている時間に、このあと箱根駅伝が通過する沿道近くの駅にやってきた。
ここへ向かう電車内や、駅から沿道へ向かう道すがら、関係者と思われるお揃いの白いグランドコートを着た人がぽつぽつといて(おじさんが多かった)、大きなイベントが近づいている気分が高まる。
それと同時に、選手の通過まではだいぶ時間があるはずだけど、もう沿道は観客でいっぱいだったらどうしよう、という不安も高まってきた。
でも、実際沿道に出てみると、そこはまだ日常の光景だった。
このあたりは見晴らしがよくて観戦するには絶好だけど、まだ時間もあるし、近くに中継所があるので行ってみることにした。
10:40 A.M.(先頭通過の1時間35分前)
中継所に向かって歩いていくと、観客らしき姿こそまだ少ないものの、大会関係者やボランティアスタッフの姿が増えてきた。
歩道の端で応援グッズの定番、新聞社の小旗を配っている人がいたのでさっそくゲット。これで僕も立派に観客の1人になった。小旗配布の人は一定間隔で立っていて、どうやら皆さんボランティアのようだ。
さらに進むと、歩道にテントが張られていて、大勢の人が取り囲んでいる。まさか、と思ったらその通り、なんとグッズ売り場。駅伝にもグッズがあるのか!
あとで調べたらグッズのwebショップもあって、強豪大学名が入っているものはソールドアウトしているものもあった。すごい熱気だ。
中継所に近づくと、それまでの歩道とは雰囲気が一変。タスキリレーが見えそうな場所は早くも観客がぎっしり並んでいた。ちゃんとポイントを分かっている人たちだ。
以前、あるダムが珍しく放流するというので正面に陣取らなきゃ、と2時間前に行ったら僕以外誰もいなかったのとは大違い。
選手がタスキを受け渡しするリレーゾーンの周りには運営関係者や報道陣が集まって、早くも物々しい雰囲気。
そういえば次の走者はどこで待機するんだろう、と思ったりしたけど、この辺りは素人がウロウロするには何となく敷居が高い空気があって、あまり散策できなかった。きっとここにいる人たち、みんな1500mを5分くらいで走ってしまうのだ。
11:00 A.M.(先頭通過の1時間15分前)
まだ選手が来るまで1時間以上あるけど、中継所の近くは観客で混み合ってきた。最初は周辺の雰囲気だけレポートしようと思っていたので観戦はどこでもよかったのだけど、なんだか雰囲気に押されて近くで観たくなってしまい、人垣が少し途切れた道沿いに陣取った。中継所の手前50mくらいなので、およそ20km走ってきた選手が最後の力を振り絞ってダッシュするポイントだ。
11:15 A.M.(先頭通過の1時間前)
しばらくの間は観客が増える以外に動きがなかったけど、徐々に警備の警察官や運営スタッフも増えてきて、緊張感が高まってきた。
そこへ、1台のマイクロバスが到着。中には精悍な顔つきの若者が張りつめた表情で乗っていた。これから走る選手だ!ホンモノだ!
12:00 P.M.(先頭通過の15分前)
やがて、選手が走る車道と観客が並ぶ歩道の間にロープが張られ、いよいよレースが近づいていることを実感。上空にはヘリコプターがホバリングし、車道の車線規制も始まった。なんだこれ、アガる。超アガる。
すると、バスで到着した選手たちがアップを始めた。すごいダッシュで目の前をビュンビュン通り過ぎていく。選手の名前を叫んで応援する観客も出はじめて、沿道は一気にヒートアップ。この瞬間、ここは一般道からスタジアムに変わった。
12:15 P.M.(先頭通過)
少し前に、もうすぐ選手が来ると放送する車が通り過ぎた。周りの観客のワンセグ携帯から聞こえる実況が、中継所がもう近いことを告げている。そのとき、遠くに並ぶ観客の小旗が一斉に振られはじめた!先頭の選手が来たようだ。
遠くから歓声が波のように近づいてきた。そしてその波に乗るように先頭の選手が走り抜けていった。本当に一瞬だった。20kmも走るのはキツいけど、この声援は気持ちいいだろうなあ。
真剣勝負の選手たちだけでなく、伴走するバイクや車もすごかった。白バイはおそらく人生でいちばん多く見たし、報道クルーの車も初めて見るようなものばかり。これは、ものすごくストイックなエレクトリカルパレードだ。
12:40 P.M.(最後尾通過の2分後)
最後のランナーが通り過ぎた直後、驚くほど一斉に撤収が始まった。観客は道路に背を向けて大移動を開始、警察官は車線規制のコーンを回収、沿道に張っていたロープもいつの間にか片付けられた。報道クルーも慣れた手つきで中継基地を解体していく。
一部人混みができていたので見てみると、走り終えた強豪校の選手がインタビューを受けていた。記者やカメラマンのすぐ外側を一般ファンらしき人々が取り囲んでいる。
その選手はインタビューを終えると人混みをかき分け、僕のすぐ後ろを通ってチーム関係者たちと一緒に消えた。きっとチームの車でゴール地点に向かったのだろう。
12:50 P.M.(最後尾通過の12分後)
さっき敷居が高くて行けなかった中継地点から伸びる横道に入ってみると、一般道の上にどうやら選手の控え室らしいテントがたくさん建っていた。その前でも別の選手がインタビュー中。受け答えの合間に「○○君、こっち向いて笑って!」なんてファンからの要望に応えたり、選手と観客の間がすごく近かった。
予備知識がなくて一人も顔と名前を知らないけど、きっと何人もの選手とすれ違っていたんだと思う。
13:00 P.M.(最後尾通過の22分後)
沿道に戻ると、車道はもう通常に戻っていて、報道クルーがあちこちに張りめぐらせたケーブルを回収していた。気がつかなかったけど、中継所の周りに何ヶ所もカメラやマイクが仕込んであったらしい。
さらに大勢のボランティアスタッフが、ビニール袋を持ってゴミ拾いをしていた。なるほど、こういうテレビには映らないアフターケアもあるんだなあ。
13:30 P.M.(最後尾通過の52分後)
しばらく撤収を眺めていたけど、気がついたら中継基地も解体されていて、ほんの1時間前まで人でごった返していたのが嘘のように日常の風景に戻っていた。観客だった人も、もう誰もいない。
ちょうど先頭の選手がゴールテープを切ったそのころ、その選手がタスキを受け取った最後の中継所は、もはや跡形もなく消えていた。
ライブはいいね
駅伝競技そのものよりも、それが来る前と過ぎた後の様子が知りたくて観に行った今回。思ったよりもギリギリまで街のままで、終わったあともすぐに街に戻っていた。
先頭がゴールした頃にはその前の中継所がなくなっていた、なんてどうでもいい事実が分かった時点で、正月早々寒い中出かけたかいがあった。