特集 2013年3月2日

日本海の波の花でヒゲを剃る

日本海の自然現象でヒゲを剃ります!
日本海の自然現象でヒゲを剃ります!
アゴや頬などに生える毛「ヒゲ」。これを剃るために使うのが「シェービングフォーム」である。シェービングフォームとは白い泡のようなもので、これを使うことでスムーズにヒゲを剃ることができる。

そんなシェービングフォームと似ているものがある。「波の花」である。冬の能登の風物詩と言われるもので、波が高く寒さが厳しい時にだけ出現する白い泡。ということで、この波の花でヒゲを剃ってみたいと思う。
1985年福岡生まれ。思い立ったが吉日で行動しています。地味なファッションと言われることが多いので、派手なメガネを買おうと思っています。(動画インタビュー)

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> 個人サイト Web独り者 彼女がいる風の地主恵亮

ヒゲと波の花

我々はヒゲを剃る時、「カミソリ」と「シェービングフォーム」を使う。ヒゲを実際に剃るのが「カミソリ」で、その作業を円滑に進めてくれるのが「シェービングフォーム」である。白い泡のようなもので、これ使わなければヒゲ剃りは非常に不便なものになる。
我々のヒゲ剃りはシェービングフォームに支えられている
我々のヒゲ剃りはシェービングフォームに支えられている
シェービングフォームは、ヒゲを剃りやすくし、また剃刀負けを防ぐなど肌への負担を軽減してくれる働きがある。我々のヒゲ剃りという作業は白い泡であるシェービングフォームに支えられていると言っても過言ではない。
ヒゲ剃りとはシェービングフォームである
ヒゲ剃りとはシェービングフォームである
しかし、我々はシェービングフォームに頼りきっていていいのだろうか。何が起こるのか分からない世の中だ。大量発生したイナゴが田畑を食べ尽くすように、急にシェービングフォームがなくなる可能性だってなくはない。そのようなことが起きれば我々のヒゲ剃りは困難を極めるだろう。そんな時に焦らないように備えておく必要があると思うのだ。
そこで波の花です!
そこで波の花です!
波の花とは、海中に浮遊する植物性プランクトンの粘液で生成された石鹸状の白い泡のこと。冬の能登の風物詩と言われ、厳寒の荒波によって生まれるものらしい。ポイントは白い泡。シェービングフォームと一緒ではないかと思う。共に白い泡なのだ。
波の花でもこんな風にヒゲが剃れるはず! 白い泡だから
波の花でもこんな風にヒゲが剃れるはず! 白い泡だから
また最近のシェービングフォームには肌の負担をさらに減らすために、海藻エキスが入っていたりするそうだ。波の花なら海藻エキスどころか、いろいろなエキスが入っていると思われる。そのエキスの元である海藻がある場所でできた泡なのだから。さらに波の花の元は植物性プランクトンの粘液。特に根拠はないが植物性ってなんだかいいイメージがある。だから波の花でも問題なくヒゲが剃れると思うのだ。
ということで、日本海に向かいます!
ということで、日本海に向かいます!

ヒゲを剃りに日本海へ!

ヒゲを剃りに深夜バスで石川県の能登に向かう。最終目的地は能登の中でも奥能登に属する輪島市にある曽々木海岸。ここが波の花スポットらしいのだ。新宿から金沢、金沢から輪島、輪島から曽々木と3本のバスを乗り継ぐ移動となる。東京を23時に出発して到着するのは翌12時。出発した頃に生まれた子鹿はもう走り出しているかもしれない。
朝、バスのカーテンを開けると雪景色!
朝、バスのカーテンを開けると雪景色!
乗客の少ない深夜バスに乗り込み、寝苦しい夜を過ごし、朝方眠い目をこすりながら外を見ると雪景色。東京では雪は降っておらず、随分遠くに来たものだ、と実感する。それと同時にこの雪景色の中、私はヒゲを剃るのかと今更ながら驚いていた。きっと寒いだろう。
金沢駅に到着(2時間半で来れるようになるらしい。今回は8時間くらいかかった)
金沢駅に到着(2時間半で来れるようになるらしい。今回は8時間くらいかかった)
さらにバスに乗る
さらにバスに乗る
金沢駅からは輪島に向かうバスに乗る。外で乗り換えのバスを待つ間に、きっと寒いだろう、ではなく間違いなく寒いだろうという結論に行き着いた。東京も寒いが石川の寒さはその上を行く。海辺はもっと寒いはずだ。
バスから曇天の日本海が見えた
バスから曇天の日本海が見えた
東京在住の私は石川を寒いと感じたが、石川の人にとってはこのくらいの寒さは普通なのかもしれない。そう思っていたら、この日の夜のニュースで、「今日は寒かったですね」と地元女性アナウンサーが感情たっぷりに言っていた。寒さに慣れている石川の人が寒いと感じる寒さ。昼間なのに温度計は「0度」を示していた。ヒゲ剃り日和というものが存在するかは知らないが、もしあれば今日ではない気がする。
0度!
0度!
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波の花の発生条件

輪島に到着したら金沢よりも寒く感じた。波の花は寒くないと発生しないので、それでヒゲを剃ることを別にすれば期待通りと言える。そして、輪島からはまたバスに乗り曽々木海岸を目指す。曽々木海岸には「波の花みち」という遊歩道があるのだ。
輪島から、
輪島から、
またバスに乗る
またバスに乗る
輪島から乗ったバスは日本海を付き合い始めたカップルのようにべったりと寄り添うように走った。曇り空の下、日本海が白波を作っているのが分かる。波の花を見れる可能性が高い気象条件ではある。ただヒゲを剃るにはどう考えても寒いだろう。これもシェービングフォームがなくなった時のためではあるが、恋人にフラれて3日目みたいな重さが心にある。
雪と白波
雪と白波
波の花は行けば必ず見れるものではない。先にも書いたように、気温が低く、波は高く、風は強くなければ発生しない。感情を失った冷血な格闘家のような条件が揃わなければ見ることができないのだ。ただしその条件が揃うとヒゲを剃るには厳しい戦いが余儀なくされる。暖かい部屋で「シェービングフォームがなくなったら波の花だ!」と考えた自分が今となっては憎い。
曽々木海岸に到着(さらに寒い!)
曽々木海岸に到着(さらに寒い!)

波の花探し

目的地の曽々木海岸に無事到着し、遊歩道「波の花みち」を波の花を探しながら歩く。波が岩場に打ち付ける音と、電車がトンネルを通り抜ける時のような低い音が辺りに響く。海が鳴っているのだ。晴れた日の東京湾とは全てが違う。海にもいろいろあるらしい。
荒れ狂う日本海!
荒れ狂う日本海!
そんな日本海を見ながら波の花みちを歩く
そんな日本海を見ながら波の花みちを歩く
すれ違う人に「波の花は今日は見れますか?」と聞きたいけれど人がいない。公園に放置された忘れ物の手袋みたいに街は静かだ。そんな場所で波の花を注意深く探すけれど、見当たらない。これ以上に低く、高く、強くなければ波の花は見ることはできないのだろうか。こうしている間にも私のヒゲは刻一刻と濃くなってきている。
静かな街並み
静かな街並み
実は去年の同じ時期に私はここを訪れ、波の花を探している。去年から波の花でヒゲを剃りたかったのだ。しかし波の花は見つからず、ついには濃いヒゲのまま東京に帰ることになってしまった。今年こそはなのだ。実物を見たことはないのだけれど、波の花はさぞ綺麗なのだと思う。だって波の花である。バラの花、高嶺の花、波の花。これらがいま考えた日本三大綺麗な花なのだ。
ちなみにこの辺りには「接吻トンネル」というトンネルがある。これは2012年の接吻トンネル
ちなみにこの辺りには「接吻トンネル」というトンネルがある。これは2012年の接吻トンネル
これは2013年の接吻トンネル
これは2013年の接吻トンネル

波の花を見たくて

人はなかなか変わらないものである。2年連続で撮った接吻トンネルの写真を見ると、私がほぼ同じ格好をしている。ちょっとした間違い探しだ。自分の変化はあきらめるけれど、曽々木海岸には変化が欲しいと思う。去年は見ることのできなかった波の花を今年こそは見せて欲しいのだ。
見当たらないけれど
見当たらないけれど
今回の取材は去年のようにならないように、3日間滞在できるようにしている。そのため初日に焦る必要はないと思っていたのだけれど、聞いた話では明日以降は今日よりは暖かくなり、さらに雨が降るらしい。波の花を見れる条件とは遠ざかる。つまりチャンスは今日ということになる。その結果、焦る。その焦りは人を必死にさせ、汚くさせる。
ホイップ済みの生クリームを絞り
ホイップ済みの生クリームを絞り
あ、波の花!
あ、波の花!
写真でしか波の花を見たことがなかったので、ホイップ済みの生クリームなら波の花っぽく見えて、お茶を濁せるかと考えていた。ただ、写真を見たら生クリームは生クリームだった。波の花を知らなくても生クリームと分かるレベルで生クリーム。生クリームは波の花にはなれないのだ。やってみて初めて気がつくことはたくさんあるのだ。
汚いことをやめて、引き続き波の花を探す
汚いことをやめて、引き続き波の花を探す
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もはや見つけたくない心理

歩いていても寒い。もちろん立ち止まっても寒い。暖かい場所もない。こうなるともはや「波の花」が見つからないことを願い始める。こんな状況でヒゲを剃りたくないのだ。ただし人生とは複雑なもので、そんな考えが心のほとんどをしめた時に限って見つかるものである。
白波の後に残る、
白波の後に残る、
波の花!
波の花!
これぞ日本海という波の後に岩場に残る波の花をついに見つけた。日本海とは似つかわしくないメルヘンチックな白い泡だ。これを求めて私はここにやって来たのだ。シェービングフォームがなくなった時に備えて、私はこれでヒゲを剃るのだ。とても美しい白い泡ではないか。
実際はプランクトンの粘液だけど!
実際はプランクトンの粘液だけど!

波の花でヒゲを剃る

初めて見た波の花はシェービングフォームのクリーミーな泡の逆を行く荒い感じだった。しかし白い泡であることに違いはない。またシェービングフォームが春先のような爽やかな香りなのに対して、波の花は夏を感じることができる季節の漁港のような香りだった。しかし白い泡であることに違いはない。
波の花を取って、
波の花を取って、
ヒゲを剃る
ヒゲを剃る
荒れ狂う日本海をバックにヒゲを剃る様は男らしくて実にかっこ良く感じる。しかも、シェービングフォームは漁港の匂い。さらに足りなくなれば、いくらでも足下から波の花を取ることができる。これは男ではなく、その上を行く漢なのではないだろうか。問題があるとすれば全く剃れないことくらいだ。
漢らしいヒゲ剃りである!

達成感はある!

波の花は全然肌に馴染まず、ヒゲが剃りやすくなるということは一切なかった。そのためヒゲを剃ると痛い。シェービングフォームをつけずに剃っている時と変わりないのだ。どうやら波の花は熱に弱いらしく、触れるとすぐに溶けてしまうのがその原因らしい。ちなみに溶けると黄色い液体になる。個性ということにしたい。
付けても、
付けても、
すぐに溶ける
すぐに溶ける
痛いので剃りながら「痛い」と言葉がこぼれるけれど、日本海の音により消えてしまう。また寒い日本海なのに、無理にヒゲを剃っているためか頬が熱を持ち、冷えた手を頬に当てると暖をとることができた。波の花に頬を保護する優しさなどないのだ。全てがシェービングフォームにはない特長だ。
頑張って半分だけ剃った!
頑張って半分だけ剃った!
シェービングフォームの真逆に位置するのが波の花なのだと分かった。しかしながらシェービングフォームでヒゲを剃った時には感じることのできなかった妙な達成感があった。電車で座っていたら後から乗って来た女子高生が私の隣に座った時のような認められた感があるのだ。今のシェービングフォームにないのはそこだ。今後の商品開発にキーになるのではないだろうか。
妙な達成感があって20分くらい剃っていた!
妙な達成感があって20分くらい剃っていた!

シェービングフォームがいい!

シェービングフォームが万が一なくなった時のことを考えて波の花でヒゲを剃った。非常に時間がかかり、そして寒かったりで、シェービングフォームがこの世からなくならないことをただただ願うばかりという結論になった。ただし先にも書いたように波の花には妙な達成感がある。今後もその達成感を目指し、いろいろなものでヒゲを剃って行きたいと思う。似たような白い泡を探す予定だ。
近くに変な営業時間のお店があった!
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