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コネタ


コネタ330
 
駅長が鯛焼きを売るというので行ってみたが・・・

ある鉄道関係のムックで、「お!」と目に留まった記事がある。ローカル線の旅の記事。とある駅の説明には、こんなことが書かれていた。要約すると、

「銚子電鉄に、鯛焼きを売っている駅がある」
「駅長は、女性だ」
「焼いているのは、駅長だ」

こんな駅が果たしてあるでしょうか。
鯛焼きひとつのために、寒風の中確かめに行ってみたのだが、実情は少々異なるものだった。

乙幡 啓子


最初はいきなり行ってしまおうと思っていたが、念のためそのローカル線、銚子鉄道に電話してみた。

「あのう、駅長さんが鯛焼き焼いて売ってる駅があるって、どこかで読んだんですけど・・・」
「いや、それはないですね」
え?否定?
「え、でも、本にそう書いてあったんですけど・・・鯛焼きの写真も」
「え、『でんでんやき』のことじゃないですか?どちらにしても、駅長自ら鯛焼き焼いて売ってる、っていうことはないですね。間違いでしょう。」

そこまできっぱり言われては受け入れるしかない。でも新たに「でんでん焼き」という言葉が出てきた。「でんでん」とは、なんて唐突なんだ。とにかく本当のところ、何を売っていて誰がどうなってでんでんなのか、確かめに行くことにした。一路、銚子へ―。


JR車内の路線図、千葉方面では津田沼を中心にして、山手線は左上に。ヨーロッパ人が日本で世界地図を見るときのような衝撃。
左の総武本線のホームから先、風車つきの駅舎の向こうが銚子電鉄のホームになっている

銚子で銚子鉄道に乗り換える。ここまで来るにも初めて見る駅ばかりだったし、単線のため、ある駅では上り線との待ち合わせに10分も待たされたりしたが、さらにここでは1両のみの、どローカル線に乗るのである。天気もいいし、鯛焼き探検日和だ。楽しいなあ。空を行く雲も鯛焼きに見えるよ。


レトロの香りの路線だ
あっ彼女がもしや

銚子から2駅、観音という駅に着く。改札に出てきた駅長らしき人は(というのも駅員はどうやら1人だ)、やはり女性だった。30分に1本のペースで電車が着くにしても、単線で上下線とも発着するわけだし、よく考えたら駅長には鯛焼き焼いて売る時間など、ないに決まっているんじゃないか?どこでどうなっているのかと、心ここにあらずという感じで改札をくぐると、あった!


改札くぐるとすぐファンシーな店発見。
しっかり鯛焼き焼いている。
駅の外にも堂々と看板が、というか駅表示よりでかい。
駅前の道を挟んで駅を眺める。隣はすぐに人んちだ。

確かに、鯛焼き屋があった。駅の構内に。外からは改札をくぐらなくても行けるので、けっこう近隣の住民が買いに来ていた。しばし離れて様子をうかがう。


「でんでんやき」だ!日に焼けたチラシだが。
「決して生焼けでは御座いません」。よほど「生焼けだよ!」という苦情が来たのだろうか。
オロナミンCをストレートに売る売店も珍しくないか?110円に直してある。
鯛焼き・・・餡とクリームを・・・。

だいたい勝手がわかってきたので、つと歩み寄り、鯛焼きを所望する。お金を渡しながら、何気なく聞いてみた。

「あの、何かで読んだんですけど、駅長さんが鯛焼き焼いてるんじゃないんですか?」
「いいえー、私たちが焼いてますねー。駅長さんってことは、ないですねー」
そりゃそうですよね・・・。パートらしき2人の奥様方が、せっせと何か裏返したりしていた。

やはり「女性駅長が焼いて売っている」という情報は、間違いだったようだ。まあ、いいか、ここで鯛焼きと、あとたこ焼きでも買って、ぶらぶらして帰ろう。

と、地元のオニイチャンがさっそくたこ焼きをピンポイントで買いに来た。するとパートの方、「あー、今まだ焼けてなくて。40分後に来てくれる?」
40分後?そんなにかかるものだっけ、たこ焼き。焼き器がすごく古いのだろうか。遠赤外線ででも焼いているのだろうか。このへんから何か「ある空気感」を感じ始める。


鯛焼きの向こうに、てんこ盛りのたこ焼きが焼かれ中。調理時間40分。
おじさんもたこ焼きを望んでいたが、あまりの待ち時間にがっかり。

あ、ちなみに「でんでんやきありますか?」と聞いてみたが、「今ないみたいですねー。どこかの駅にはあるんだっけ?」と、他のパートの人に聞いていた。でんでんやきも幻に終わったのだった。

ま、とにかく鯛焼きを食べるとするか。穏やかな気持ちで袋を開けると・・・。なんだか様子が、ヘンだ。


何かすごくもこもこしているぞ。
けっこうな厚さだ。でもそんなことではなく・・・。

レリーフが出土した。

なんざんしょうこれは!いわゆる「耳」の部分、そりゃあ、そこはちろっと付いてたらうれしいし、あのカリッとした食感が好きではあるが、何もこんなに付いてくることはないじゃないか。もうこれは耳とはいえまい。りっぱに鯛焼きの一部を主張している。鯛の形に抜いたのではなく、鯛を彫りました、という感じだ。


こちらはまだ「形を抜こう」という意思は現れている。

これが裏。なんだかすごく彫りが浅い。ヒラメだ。いや、「左ヒラメの右カレイ」で、目が右側に付いてるからカレイか。

もう、意識としては「鯛焼きをかじる」のではなく、「鯛焼きに包まれる」「鯛焼きに飲み込まれる」「鯛焼きの海でおぼれる」といった調子だ。


真正面から見ると、これがまた実際の魚みたいだ。口が・・・。
こんなに耳が取れた。どうりで腹いっぱいだ。なんというサービス。

餡もぶちゅっと、はみ出す。
帰り際見たらやっとたこ焼きができたようだ。でももう腹いっぱいだ、鯛焼きで。

2個食べ終わったときは、頭がもうろうとしていた。なんだったんだ一体。何を求めにきて、何を得られたんだ?まだ自分の中で整理がついていない。

整理がつくまでの間、観音駅周りではまだまだおかしいもんがたくさんあったので、観音駅トリビアをご覧ください。


その1:銚子電鉄の車内広告は全部手書きだ。


これ結局何の広告だったかな。

その2:駅近くのコンビニ風の店・ナガタヤでは、冷蔵用ショーケースにティッシュペーパーやキッチンペーパーが収まっている。


たんに雑貨置き場が手狭になったのでここに移しただけのようだ。

その3:駅近くのコンビニ風の店・ナガタヤでは、あめをバラ売りしている。


カゴの中にはシリカゲルもそのまま入っている。

その4:駅近くのコンビニ(風)ナガタヤでは、レジ横になぜか沖縄黒砂糖があり、なんとこれもバラ売りだ。


試食させてくれた。それになぜ「おいなりさん」なのか。

「一度のんでみてね」いきなりフレンドリーに話しかけてくる、お茶のサンプル。これはタダ。

その5:犬は、放し飼いのようだ。

2頭で疾駆していく。
どこへ急ぐ。
家の前で、つながれずとも動かない。
手招きしたら家の庭から出てきて、なぜかどこかに出かけていく。


わくわくするような、かたーい切符だった。記念に持ち帰った。

鯛焼きコーナーにはひっきりなしに地元住民が買いに来ていた。おばあちゃんが孫を連れて。独り言言うおばあちゃんが。おとうさんが子供らをつれて。

周囲に釣り合ってるように見えないファンシーな駅舎だが、なんだか幸せそうな駅だ。当初の目的、「駅長の焼いた鯛焼き」を食べることはかなわなかったが、引き換えに何か大きなものを得た気分だ。なんだかわからないが、銚子電鉄には何かが、ある。

鯛焼きも普通においしかった。また近いうちに行ってみたい。


 

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