特集 2012年7月9日

みんなのいらないものを638個も集めた

キャプション!
「家にある、いらないもの持ってきて」との呼びかけに、集まったのはじつに638個もの「いらないもの」たちだった。

これから紹介する山盛りのいらないものたちは、すべて「いらないものガチャガチャ」での収穫である。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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いらないものに酔った3週間

先日、渋谷ヒカリエのCreative Lounge MOVで行われた公開編集部(詳細)に設置されていたのが、このガチャガチャ。いらない物を持ってくると1回まわすことができ、回すと他の人が入れたいらない物が出てくる。ガチャガチャを介した、知らない人との物々交換だ。

これがいらないものガチャガチャ
これがいらないものガチャガチャ
一応「あなたのいらない物は、誰かにとって宝物になるかも」的なキャッチフレーズもあった。しかしガチャガチャを引いたお客さんのリアクションは、ほとんどの場合で「ウワーほんとにいらないですね!」であったことはあらかじめお伝えしておこう。ゼロ=ゼロの等価交換だ。
ガチャガチャが回せて嬉しい!という気持ちと、「うわっ、いらねー」という気持ちが入り交じった複雑な表情
ガチャガチャが回せて嬉しい!という気持ちと、「うわっ、いらねー」という気持ちが入り交じった複雑な表情
編集部では約3週間のあいだこのガチャガチャを管理していたのだが、次々やってくるいらない物の応酬に、なんというか、「いらない物酔い」みたいな状態になってしまった。
なにせ公開編集部はこの盛況ぶりで、どんどんいらない物が集まるのだ。
なにせ公開編集部はこの盛況ぶりで、どんどんいらない物が集まるのだ。
ここではみんなが持ってきてくれたいらない物をどっさり紹介することで、モニタの前のみなさんにも、いらない物酔いを体験していただけたらと思う。

ストラップがいらない

全いらない物中で、最も多かったのは携帯ストラップである。たとえば。
マグロの部位ストラップ。急にマグロを捌くことになったとき、大トロがどの部分か分かって便利
マグロの部位ストラップ。急にマグロを捌くことになったとき、大トロがどの部分か分かって便利
ブルボンのアレ
ブルボンのアレ
右、周期表ストラップ。ふつうにほしい
右、周期表ストラップ。ふつうにほしい
「ストラップだけじゃ悪いと思って…」と種をつけてくれた。心遣いは嬉しいけど、「悪いと思って」って、このストラップの低く見られよう
「ストラップだけじゃ悪いと思って…」と種をつけてくれた。心遣いは嬉しいけど、「悪いと思って」って、このストラップの低く見られよう
ストラップの圧倒的ないらなさ、実は2008年に行ったいらないものガチャガチャで、すでに判明していたことだ。しかし加えて、今回は特別な事情があるようにも思う。スマートフォンブームだ。iPhoneを始め海外製機種にはストラップ穴がないことが多く、行き場を失ったストラップをみんな持てあましているのではないか。
そういった事情を踏まえると、いっそう切ないvodafoneストラップ。
そういった事情を踏まえると、いっそう切ないvodafoneストラップ。
おなじみご当地キューピーだが、名前が書いてないと何キューピーだか全然分からない。ウミウシ???
おなじみご当地キューピーだが、名前が書いてないと何キューピーだか全然分からない。ウミウシ???
これもキューピーなのだろうか、しかし妙に味のある顔つき
これもキューピーなのだろうか、しかし妙に味のある顔つき
ペットボトルのおまけ、お土産、ガチャガチャ…。思えば携帯なんてひとり1個か2個しか持ってないのに、我々がストラップを手に入れる機会はあまりに多い。

たぶん一日に作られるストラップの数は、一日に作られる携帯の数に比べて何倍も多いに違いない。それらはいずれ捨てられるのだろうけど、その前にいったん家に溜まる。こう考えると、家とは、ストラップのダムであるといえるのではないか。
そのダム湖からすくい上げられたのが、今回いらないものとして集まったストラップたちである。
生首
生首
東京タワーのノッポン。スカイツリーのせいで…と思うと切ない
東京タワーのノッポン。スカイツリーのせいで…と思うと切ない
ウニストラップは元々ややキモだが
ウニストラップは元々ややキモだが
押すと身が飛び出てさらにキモイ
押すと身が飛び出てさらにキモイ
ユニークなストラップばかりで、写真を見ながら、「そんなにいらなくないじゃん」と思われる方もいるかもしれない。というのも、ここには面白みのあるストラップばかり選りすぐりで掲載している。だから、この陰にはほんとうに多数の、心の底から要らないストラップが存在していたのだ。しかしそういうのばっかり載せたら、この記事誰も読んでくれないじゃないか、という編集サイドの事情をこめてのこのチョイスなのである。汲んでほしい。

充電器がいらない

さきほどスマートフォンの話をしたが、そのアオリをもろに食ったのが、充電器である。今回、妙に多かった。充電端子が違うから、古いのはもう使えないのだ。
まずはオーソドックスなFOMA用
まずはオーソドックスなFOMA用
スマートフォン無関係にもうダメだろう。J-PHONE充電器
スマートフォン無関係にもうダメだろう。J-PHONE充電器
乾電池用充電器は3つくらいあった
乾電池用充電器は3つくらいあった
他にも巻取り式やソーラーなど、思いつく限りの充電器は全部あった。

ストラップの場合は、持ってきた人の表情に若干の名残惜しさを感じられた気がするのだが、充電器に関しては完全にドライ。「もういらないんで(微笑)」である。いらないなりに情を集めていたストラップと違い、そこに感情移入はない。実用できなくなった実用品の扱いは悲しい。

割り引かなかった割引券たち

次にたくさん持ち込まれたのは、割引券だ。
3ゲームやらなきゃ引かれない、ハードルの高い割引券
3ゲームやらなきゃ引かれない、ハードルの高い割引券
熊本まで行くのもハードル高い
熊本まで行くのもハードル高い
子供がワーって喜んでガチャガチャ回しに来て出たのがこれで、気まずかった
子供がワーって喜んでガチャガチャ回しに来て出たのがこれで、気まずかった
たくさんの割引券が集まったのには理由がある。
公開編集部を知らずにフラッとやってきた人が、ガチャガチャやりたさに何か要らないもの持ってないかな…と思って探すと、たいてい財布の中に持てあましていた割引券に行き着くのだ。
これもある意味金券か
これもある意味金券か
となるとこれはポイントカードか
となるとこれはポイントカードか
額面的には小さそうだがそそる券面
額面的には小さそうだがそそる券面
これらは、割引券といいつつ実際に割り引く機会はなかった、いわば割り引き未遂券。ガチャガチャを通して他の人の手に渡ったことで、あらためてその本分を果たしてくれれば…と思う。しかし実際には神戸から来た人に中目黒のラーメン屋の券が当たったりと、なかなかうまい巡り合わせは生まれなかった。

ガイドブックを見ながら行ったことのない町に思いを馳せるように、割引券を見て行ったことのない店に思いを馳せていただけたらと思う。
券とはちょっと違うけどこんなのも。大吉
券とはちょっと違うけどこんなのも。大吉

いるもの無常

根本的にいらない物以外に「かつては要るものだったんだけど、時代が経過したせいでいらなくなってしまった物」というのもある。たとえばこんな物だ。
編集者の方が持ってきてくれた、テープレコーダー。今やICレコーダーの時代である。
編集者の方が持ってきてくれた、テープレコーダー。今やICレコーダーの時代である。
もうすっかり存在を忘れていた。MD(未開封)
もうすっかり存在を忘れていた。MD(未開封)
2006年頃にネットで流行った「やわらか戦車」。「買ったけどもったいなくて使わないでいるうちに流行りが終わってしまった」そうです
2006年頃にネットで流行った「やわらか戦車」。「買ったけどもったいなくて使わないでいるうちに流行りが終わってしまった」そうです
いま思いだしたけど、そういえばうちにも2000年頃の広末涼子の図書カードがある!
いま思いだしたけど、そういえばうちにも2000年頃の広末涼子の図書カードがある!
こういうのは長く持ってれば持っているほど「ちょっとレアかも」「いつかプレミアつくかも」とか思い始めてどんどん捨てられなくなるのだ。その点、今回のいらないものガチャガチャは処分のいい機会になったと思う。そして次に手にした人が「ちょっとレアかも」と思い始めて、また引き出しの奥にしまい込むのだ。

ドラマにじむ、いらないもの

物を語ると書いて物語。ではいらないものを語ると「いらないもの語」になるのだろうか。

いらないものを預かる際にはその背景をきくようにしていたのだが、そのうち、印象的だったものをいくつかご紹介したい。
つぶれた英会話教室のレッスン券。
つぶれた英会話教室のレッスン券。
お金だけ払ってそのままつぶれてしまった教室。その後、返金があったかどうかは定かではないけど、手元にそのままチケットがあるということは…。
もう畳んでしまった店の商品たち
もう畳んでしまった店の商品たち
アクセサリーショップを営んでいたという読者の方から。どれも3,000円ほどの値札がついていて、普通にいいものばっかりだった。「もう畳んでしまったので…」という言葉に、場に居合わせた全員が「私が引き取ります!」と言いかけたが、横領厳禁ルールによりこれもいらない物としてガチャガチャの中へ。
元彼にもらったもの
元彼にもらったもの
このビニール袋に厳重にくるまれてる感じが妙に生々しく、あまり突っ込んできくことができないままカプセル投入。
ひとり暮らしを始めるときに母がくれた
ひとり暮らしを始めるときに母がくれた
いいエピソードのわりには「試供品」の文字が輝くこのアイテム。このあと外国の方が当てて「オチャ!オチャ!」と大喜びしながら帰っていった
おばあちゃんの手作り
おばあちゃんの手作り
いらなくなっちゃったのか…。
いらないものにどんな背景があろうと、他人の手に渡ればドラマはリセットされ、ただのいらないものである。「持ってても邪魔だし、捨てるのは忍びない…」という物があれば、ガチャガチャに入れるのが心も痛まないベストソリューションだと思う。

要らないものミステリー

とにかく雑多にいろいろ集まったいらないもの。中には正体不明・意味不明・入手経路が不明など、謎に包まれたものが数多くあった。
ピンバッジ。アステカ風?インド??
ピンバッジ。アステカ風?インド??
これも謎モチーフのバッジ。キャラクターに心当たりのある方は教えてください。
これも謎モチーフのバッジ。キャラクターに心当たりのある方は教えてください。
ファービーのシールなんだけど、この強烈な目つきの悪さは何ごとだ
ファービーのシールなんだけど、この強烈な目つきの悪さは何ごとだ
中国で買った、雑すぎるパンダ。目の模様が左右アンバランスだし、身体の配色も変。極めつけに足の裏の…サッカーボール?
中国で買った、雑すぎるパンダ。目の模様が左右アンバランスだし、身体の配色も変。極めつけに足の裏の…サッカーボール?
パンダグッズは全体に謎度が高い
パンダグッズは全体に謎度が高い
これも謎
これも謎
こちらは謎すぎるので手描きの説明書をつけてくれたパターン
こちらは謎すぎるので手描きの説明書をつけてくれたパターン
いままでに見たことのないタイプの手作りグッズ
いままでに見たことのないタイプの手作りグッズ
熱意がビリビリと伝わってくる完コピぶりだが、何が彼(彼女?)をここまで駆り立てたのか
熱意がビリビリと伝わってくる完コピぶりだが、何が彼(彼女?)をここまで駆り立てたのか
これらの謎アイテムたち、FLASHの脱出ゲームならあとで意外な使い道が発見されて目からウロコが落ちるのだろうが、現実世界ではその使い道は永久に分からぬままである。カプセルに詰められ、他の人の手に渡り、家にまた放置され…、その間ずっと謎は謎のままなのだ。だからといってそのミステリアスな存在感にワクワクドキドキするわけでもない。そのどうでもいい存在感こそ、いらないものの醍醐味である。

いらないものに歴史アリ

いらないものを持ってきてくれた方には、もれなく「いらないもの歴」をきいた。いらなくなってから現在までの年数というわけだが、その最長が20年。もっと早く捨てなよ、と思うが、捨てるのにもエネルギーがいるので放っておくのが実は安定状態なのである。

いらない歴20年を記録した品々(複数ある!)を以下にごらんいただこう。
小学生のころ、手紙のすみっこに押していたというスタンプ。絵のタッチにも歴史を感じる。
小学生のころ、手紙のすみっこに押していたというスタンプ。絵のタッチにも歴史を感じる。
謎のキーホルダー。携帯ストラップのない20年前なら、いらないもの一位はきっとキーホルダーだっただろう。
謎のキーホルダー。携帯ストラップのない20年前なら、いらないもの一位はきっとキーホルダーだっただろう。
マーライオンのライター。立派なケースに収められていて、これは20年間捨てられなかったのも頷ける。
マーライオンのライター。立派なケースに収められていて、これは20年間捨てられなかったのも頷ける。
ビー玉とパチンコ玉のコレクション。入れ物はシンガポール製。
ビー玉とパチンコ玉のコレクション。入れ物はシンガポール製。
この段落、最後にいらないもの歴が長いものの傾向を分析して締めようかと思ったが、みごとに共通点のない4品だった。いらないものが長期間放置されるかどうかは、物の特徴ではなく、持ち主の性格によるのだろう。などと今回の結果を全く踏まえない「それ前から知ってる」的結論で、この記事を締めさせていただこうと思う。

いらないもエンタテインメント

冒頭に書いたとおり、ガチャガチャからはたいていいらないものが出てくるのだが、みんな「あー、これはいらないわ」と言いながら半笑いで嬉しそうなのだ。

たぶん、全てのいらないものは人類が共通して認識できるいらなさ(英語で言えば「いらなネス」)を帯びていて、そこにみんな共感を覚えて嬉しくなるのだと思う。あるあるネタで「あるある~」って思っちゃうのと同じ要領だ。いらないものに「いらねー」って思うのもエンタテインメントなのである。

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