特集 2015年2月24日

パイ包み焼き和食への挑戦

アジの開きパイ包み焼き。
アジの開きパイ包み焼き。
古典的なフランス料理に『スズキのパイ包み焼き』というのがある。
まるまる一匹のスズキをパイ生地で包んで焼き上げたものだ。
実物を食べたことはないが、まあ美味いんだろうというのは分かる。
ロシア料理にも、シチューを入れた壺の表面をパイで覆って焼いたものがある。
しかし和食には、パイ包み焼きがない。なぜだ。
(昔の日本にパイがなかったからだとは思う)
パイ包みと和のコラボレート、どうだろう。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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味噌汁のパイ包み焼き

ケンタッキーフライドチキンのメニューにある、シチューの器にパイ生地をかけた『ポットパイ』というのが、いま一番手軽に食べられるパイ包み焼き料理だと思う。

しかし、それでいいのか。シチューでいいのか。
日本人に最も馴染みのあるパイ包み焼きは、味噌汁であるべきではないのか。
パッケージから漂う洋菓子感。今からお前、和食になるぞ。
パッケージから漂う洋菓子感。今からお前、和食になるぞ。
パイ包み焼きというと何となく敷居が高く思えるかもしれないが、解凍するだけで使える冷凍パイ生地を使えば、おそろしく手軽に作れる。
この時点で飲んでいいんだけど。
この時点で飲んでいいんだけど。
適当にいつも通り作った味噌汁を耐熱の器に入れて、しばらく冷ます。
ここでアツアツのものを使うと、パイ生地があっという間にグニャグニャに柔らかくなってしまい、これからの作業が面倒くさくなるからだ。
パイ生地で包むだけでもう味噌汁じゃない。
パイ生地で包むだけでもう味噌汁じゃない。
解凍してほどほどに柔らかくなったパイ生地を器の口径に合わせて切り、フチに押しつけるようにしてかぶせて密閉。

この時点でパイ生地からバターの匂いがしてきて、食欲をそそる。
パイの中に隠れているのが実は豆腐と長ネギとワカメの味噌汁だとは、絶対に分かるまい。
美味しく見せようという努力も施す。
美味しく見せようという努力も施す。
あとは焼き上がりの照りを出すために、表面に卵黄を薄く塗っておく。

この照りは味には影響がないようだが、でも見た目で美味そうに見えた方が、結果として美味しいのだ。
さぁ焼けろパイ。煮えろ味噌汁。
さぁ焼けろパイ。煮えろ味噌汁。
あとは、200℃で予熱しておいたオーブンにつっこんで、20分ほど焼くだけである。
ただ、器は耐熱のものを使わないと、割れるなどして危ないと思う。たぶん。

焼いている間は、もう台所全体がパイの焼けるあの暴力的に美味しそうな香りが漂ってくる。
これで万が一にでも焼き上がりがまずかったら、きっと僕は泣いてしまうと思う。
頼む。美味くなってくれ味噌汁。
ヌーベル和食、味噌汁のパイ包み焼き。
ヌーベル和食、味噌汁のパイ包み焼き。
見事にふくらんだパイ生地が良い感じである。
これはサクサク以外あり得ない、と見て分かる焼き上がり。
あとは、このサクサクが味噌汁にマッチしてくれるのを祈るのみだ。
湯気の暴発で曇るレンズ。
湯気の暴発で曇るレンズ。
ドーム状にふくらんだパイ生地を器の中にサクッと割り入れるようにすると、「だふぁ」とすさまじい勢いで湯気が溢れてくる。
おお、これはテンション上がるぞ。

ただ、本来のパイ包みシチューならこの時点で湯気とともに立ち上るシチューの香りに包まれる手はずなのだが、残念ながら味噌汁の香りはパイ生地の香りに負けてほぼゼロ。
大丈夫か。
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パイ包み焼き味噌汁、実食。

味噌汁の香りがしないのが些か不安ではあるが、でも見た目はかなりイケそうな気がする。
パイ生地をサクサク突き崩した時のテンションを維持したまま、飲んでみよう。
多少の味の乱れはテンションで吸収できるはずだ。
それでもたぶん美味い、と信じて試食する。
それでもたぶん美味い、と信じて試食する。
良かった。美味しい!
良かった。美味しい!
やりました。僕はやりましたよ。
パイ包み和食の先陣を切ってのパイ包み焼き味噌汁、ちゃんと美味しい。

器に落としたパイ生地が味噌汁をたっぷり吸って、これが美味い。
ふやふやにふやけたパイ生地が、バター風味のお麩のようなのだ。
考えてみれば味噌バターラーメンがあるぐらいだから、バター味と味噌汁は合うのだ。
味噌汁にひたったパイ生地が、ふやふやで美味い。
味噌汁にひたったパイ生地が、ふやふやで美味い。
もちろん問題もある。
オーブンで煮込んでしまったためか、味噌汁の汁気がだいぶ減っていて、ちょっと塩辛いのだ。
このまま味噌つけ麺の漬け汁にしてもいいくらいの塩分である。
パイ包み焼き味噌汁、たぶん味噌汁を普段より薄めにしておくのが正解なんだろう。

パイ包み焼きうどん

続いて、和食かつ寒い時期にうれしいアレでパイ包み焼きをやってみよう。
土鍋で作る、鍋焼きうどんだ。

鍋焼きうどんといえば、毎回、食べる時に熱々になったフタを取るのに苦労する。
パイ生地で包んでしまえば、フタは取らずに汁の中にINでオッケーだ。
凍ったままの鍋焼きうどんで加熱時間を調整。
凍ったままの鍋焼きうどんで加熱時間を調整。
さきほどの味噌汁の経験により「パイで包んでもオーブンで200℃20分の加熱時間はかなり長い」ということは分かった。
たとえ煮込む前提の鍋焼きうどんでも、煮込みすぎると美味しくない。
ここはひとつ、手間も考えて冷凍鍋焼きうどんを凍ったままで焼くことにした。
20分をフル煮込みではなく、解凍+煮込みに当てるのだ。
土鍋も、まさかパイで包まれるとは予想してなかっただろう。
土鍋も、まさかパイで包まれるとは予想してなかっただろう。
オーブンで様子を見ながら20分。
味噌汁の時のようにパイ生地がふくらんでこないので追加で5分ほど焼き進めたが、もうフチが焦げてきたのでこれで加熱を終了する。
なんかふくらんでないけど、焼けてはいる。
なんかふくらんでないけど、焼けてはいる。
原因はわかった。
土鍋の口径が広いので、パイ生地が自重で鍋の内側に落ちてしまったのだ。
とりあえず焼けているし、表面も触るとサクサク感があるし、これで良しとしよう。
パイ生地直下に、うどん。
パイ生地直下に、うどん。
生地を箸で割ると、もうすぐ真下にひたひたの汁とうどんがあった。
やはり、「あつっあつっ」と言いながらヤケド半ばに鍋のフタを取る手間がないのはありがたい。
そして、中はちゃんと熱々である。
パイ包み焼きうどんは冬の醍醐味だなあ。
パイ包み焼きうどんは冬の醍醐味だなあ。
んめえ。
んめえ。
これも美味い。ばっちり美味い。
鍋焼きうどんと言えば海老天のコロモが汁に浸ってモロモロのふやふやになっているのが美味い。

パイ包み焼きうどんは、要するにあのコロモがフタの面積分だけたっぷりある、と思ってもらえばいい。
贅沢なのか貧乏くさいのか微妙な線だが、美味いものは美味い。
フチにびっしりパイ生地。
フチにびっしりパイ生地。
で、美味いんだけど、これだけ焦げ付いたパイ生地が鍋のフチについていると、洗う手間が大変だ。
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アジの開きのパイ包み焼き

さて、フランス料理のキングオブパイ包み焼きと言えば、かのポール・ボキューズ(フランス料理界の超えらい人)のスペシャリテとしても有名な『スズキのパイ包み焼き』。

いやまあ、そんな滅多に食べられないフレンチの神髄はこの際どうでもいいだろう。
手軽に食べるなら、アジの開きでいいじゃないか。
美味いよね、アジの開き。
美味いよね、アジの開き。
アジもスズキも同じ魚である。
であれば、同じようにパイで包んでなにが悪いものか。
アジもパイで包まれるのは初めての体験ではないか。
アジもパイで包まれるのは初めての体験ではないか。
もう手順にも慣れたもので、さっと包んでオーブンに放り込む。
調理時間、焼きタイムを除けばわずか5分である。
あまりにも手間がかからないので、おまけにパイ生地の切れっ端を使って骨の模様をつけてみた。
少しはフレンチっぽくなっただろうか。アジの開きだけど。
なぜか頭がふくらんでコブダイっぽい見た目になったけど、アジの開きパイ包み。
なぜか頭がふくらんでコブダイっぽい見た目になったけど、アジの開きパイ包み。
良い感じにふっくらサクサクとした焼き上がりである。

このサクサクの皮の中から、しっとりと焼けた魚の身が出てきたらもう大成功であろう。
これもたぶん美味いぞ。
パイ生地の下には、わりと見慣れたアジの身が。
パイ生地の下には、わりと見慣れたアジの身が。
あまりしっとりしてないな。
あまりしっとりしてないな。
パイ生地を割りながらアジの身をほぐし出して食べる。
うん、これは美味しくない。

生臭いのだ。さっきまで漂っていたバターの香りを完全に覆す、アジの生臭さ。
焼いてるうちに出てくる干物の生臭さが、パイ生地の内側に染み込んでいるっぽい。
アジの身だけ食べると気にならないのに、パイ生地が臭い。
頑張って完食したが、パイ生地のせいで呼吸が生臭い。

スズキのパイ包み焼きは、きっとパイが生臭くならないように工夫してるんだろうなあ。
フレンチの神髄はやはり遠い。

パイ包み焼き団子

パイ包み焼きアジのせいで体調を崩しそうになったので、ここはひとつデザートで持ち直したい。
今度こそ、美味いはず。
今度こそ、美味いはず。
和のデザートと言えば、みたらし団子でどうだろう。
串が焼けないようにアルミホイルで包む繊細さを評価して欲しい。
串が焼けないようにアルミホイルで包む繊細さを評価して欲しい。
タレたっぷりのみたらし団子をパイ生地で包んで卵黄塗って焼くだけ。
もう説明するのも不要なぐらいの簡単さである。
蒸気穴から漏れ出すとろっとしたタレ。たまらん。
蒸気穴から漏れ出すとろっとしたタレ。たまらん。
今回は生地が少ないので、15分ほど焼いたところでオーブンから取り出すと、パイ生地と甘辛醤油タレの合わさった、なんとも言えないたまらん香りが。
これは勝った。間違いなく美味いやつ来た。
サクッ、もちっ、とろっ。まずい要素ゼロだ。
サクッ、もちっ、とろっ。まずい要素ゼロだ。
パイ生地をサクッと噛むと、すぐ下に熱々な団子のもちっとした食感があり、タレがとろっと絡まってくる。
味も、やはりパイのバター風味が醤油タレに合って、かなり濃厚に。

これ、なんで商品化されてないのか不思議なレベルだ。
たぶん今後みたらし団子を食べる時に冷凍パイ生地があったら絶対作るぞ。

わりとどうやっても簡単で美味しい(アジの開き以外)と分かったパイ包み焼き和食だが、大きな問題があった。
カロリーだ。
例えばパイ包み焼き味噌汁に使用したパイ生地のカロリーがだいたい200kcalぐらい。
味噌汁のカロリーが50kcalぐらいなので、合計で一気に5倍の25okcal。味噌汁としてはおそろしくハイカロリー汁になってしまった。
毎日飲むのは絶対にやめた方がいいと思う。
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