特集 2012年2月27日

スタバのマークの続きを描く

新マークになって気になってたことがある
新マークになって気になってたことがある
2011年、スターバックスコーヒーのマークが変わった。「STARBUCKS COFFEE」という文字が書かれていた周囲の輪がなくなって、女性とおぼしき絵柄のみになった。

よりシンプルになったとも言えるだろう。このマークを見ていて、気になっていたことがある。囲っていた輪がなくなり、絵柄の続きが描けるようになったんじゃないかということだ。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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輪から解き放たれたセイレーン

1996年に日本上陸をして以来、新しい雰囲気のコーヒーショップということで人気のスターバックス。いろんなアレンジのコーヒーがあったり、やわらかい椅子があったりして、私もよく利用する。
こちらは2010年までの旧マーク
こちらは2010年までの旧マーク
スターバックスのマークと言えば、冠をかぶった女性の絵を、店名の入った輪で囲んだもの……だったのだが、2011年にマークが変わり、周囲の輪がなくなった。

ちなみに上の写真は、先日スタバに行った際に出てきたマグカップ。店内で飲むときに出されるマグには、2012年現在でも旧タイプのマークが付いている。
こちらが現行マーク
こちらが現行マーク
紙コップで出てきた場合に描かれているのが現在のマーク。色はグリーンのみとなり、文字がなくなった。「もうみんな、このマークだけでスタバってわかるでしょ」と言っているようにも見える。

変更当初は少々違和感も感じたが、個人的にはすっかり慣れた。そして、じっと見ていて気づいたことがある。
右の方は自由になってうれしそうにも見える
右の方は自由になってうれしそうにも見える
周囲を囲んでいた輪がなくなり、絵が完結しない描き方になったため、マークの周りがどうなっているかを想像できるようになったということだ。

こうするとよりわかりやすいだろうか。
白い部分は自由
白い部分は自由
女性の姿全体が描かれておらず、囲いのないデザインになっているので、マークの続きが描けるのだ。

見つめていると、さまざまに想像がふくらんでくる。特に気になるのは、女性が両手に何かを持っているように見える部分だろうか。
ねえ、何持ってるの?
ねえ、何持ってるの?
魚?
魚?
上部が裂けたような形をした、謎のしましま。自分の場合はまず、この部分が魚の尾びれのように見えた。

頭の中で想像した続きを、実際に描いてみる。その部分がぴったりはまると、自然と他の部分の続きも見えてくる。
急に魚屋のおかみさんになるスタバの彼女
急に魚屋のおかみさんになるスタバの彼女
「いい魚入ってるよ!安いよ安いよ!」という感じだろうか。さっきまでちょっとすまして微笑んでいたマークも、鮮魚店で客を呼び込む威勢のいいおねえちゃんに見えてくる。

試しにひとつ描いてみたのだが、調べてみると実はこの遊びには一応「公式な正解」がある。
スタバでもらった豆の小冊子
スタバでもらった豆の小冊子
ハウスブレンドの絵に秘密がある
ハウスブレンドの絵に秘密がある
マークに描かれている女性の絵は「セイレーン(セイレン・サイレンとも)」という西洋の伝説上の生物がモチーフになっている。上半身が人間の女性、下半身が魚という、いわゆる人魚の一種だ。つまり、両手それぞれに持っているのは、自分自身の尾ということになる。

しかし「でも、2つあるけど?」と、今ひとつ納得できない気持ちになるのも自然だろう。その答えは「2つあるんです」ということになる。それは、店内で配布されていた豆のパンフレットからもわかる。
最初見たときは「なんだこれ!」と思った
最初見たときは「なんだこれ!」と思った
「ハウスブレンド」という豆の説明には、タッチの違う絵でセイレーンの全身像が載っている。実はこれ、スターバックスが初期に用いていたマーク。尾が2つあるのだ。

な、なんかリアル。胸もあらわになってるようだし、結構本気で怖かったりもする。

そののち、1987年に全身像であることは維持しつつ、絵のタッチが現在と似たものとなる。さらに1992年にはセイレーンがアップになり、尾の大部分がマーク外にはみ出していった、という経緯になる。(参考記事)

ともあれ、それはそれとして、見た人がマークの周囲を想像するのは自由。私が描いているのを見た妻が、面白そうだと思ったらしく描き始めた。
なんか色っぽいぞ
なんか色っぽいぞ
「こちらが今年の新作便座でございます」
「こちらが今年の新作便座でございます」
私とは違う雰囲気の絵。手にしているものが何なのかわからなかったので聞いたところ、これは便座であるらしい。

本来は魚の尾であった部分が便座。ずいぶん奇抜なデザインの便座だと思うが、見た人がそれぞれこうして勝手に想像できるのが楽しい。
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どんどん自由になっていくセイレーン

妻はこの遊びが気に入ったらしく、先ほどの絵を描いた翌日、私が帰宅すると新しいのができていた。
今どきの女の子風
今どきの女の子風
この遊びは、左右のしましま部分をどう見立てるかがポイントになってくる。先ほどは便座だったのがこの絵では違っているようだ。
今度はブーツだ
今度はブーツだ
とぼけたセリフがついてる
とぼけたセリフがついてる
ちょっとキャピキャピした感じの、いかにも女の子というポーズ。手にしているのはロングブーツだ。

絵に加えて吹き出しの中にセリフも書かれている。そうそう、この遊び、描いてみると言葉を言わせたくなるのだ。間の抜けたセリフの着想を聞いたところ、妻がバスの中で知らない子供から「靴の左右、逆だよ」と言われた経験をアレンジして生まれたらしい。
これまた違う雰囲気
これまた違う雰囲気
また別バージョンもあり、こちらはサックスとハープを手にしているもの。音楽好きのおしゃれなお姉さんという感じのたたずまいだ。

セイレーンは美しい歌声で航行中の船の操縦士を惑わし、遭難や難破をさせると言われている魔物。サックスはともかく、昔の画家がセイレーンを描いた絵にはハープを持ったものもある(参照)。偶然だろうが、本来の姿と重なっているとも言える。
こういう発想もあるのか
こういう発想もあるのか
その横で混迷する私
その横で混迷する私
元々絵を描くのが好きな妻はいろいろと発想が浮かぶらしく、まだまだ手を動かしている。セイレーンを膝の上で優しく抱っこされた子供に見立てているのも面白い。

自分も何か新しいのを描かなくては、と思ってとりあえず手を動かしてみたが、妙ちきりんなのができるばかり。誕生したのはイモムシ…なんだろうか、これは。
すみません
すみません
セイレーンの髪の毛が湯気みたいだな、と思って描き始めたのは、でかい肉まん。適当な思いつきは実際に描いてみると、そのどうしようもなさが如実になって言い訳できなくなる。

うーん、これではいかん。じっくり見つめて、新しい着想を形にしたい。
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本拠地へと繰り出すセイレーン

脱イモムシ・脱肉まんを図るべく、どうにか自力で考えついたのがこちら。
悪ダコに襲われるセイレーン
悪ダコに襲われるセイレーン
例のしましま部分をタコの口と足に見立てた。全身縞模様でいかにも悪そうなタコが、セイレーンを捕まえているところだ。
セイレーン、余裕の表情
セイレーン、余裕の表情
ただ、当のセイレーンはそんなに切実でもなさそうな顔。興奮するタコを「はいはい、いい子ねー」とあしらっているようにも見える。なかなか懐が深そうだ。

「なかなか面白いのできたね」と言ってくれた妻は、まだ楽しいらしくさらに描いている。
なるほどねー
なるほどねー
強調線つきでダジャレ
強調線つきでダジャレ
豪華な椅子に座っているセイレーン。これも自分には思いつかなかったアプローチだ。

ちょっとしたお姫様のようにも見えるが、言ってることはダジャレ。絵を描くことと共にダジャレも好きな妻の特徴がここに出ている。

ダジャレが伝わるように二重下線まで引く念を押しよう。どうもセイレーンには描き手の個性まで宿るようだ。
いろんな角度に変身したセイレーン
いろんな角度に変身したセイレーン
いよいよ君たちにも協力してもらおう
いよいよ君たちにも協力してもらおう
さて、プリントアウトした紙で練習してきたスタバマークの続き描き。今度はお店でコーヒーを飲んだときに持ち帰って保存してきた、本物の紙コップに続きを描こう。

そして、そのカップを店に持参して使ってみたいと思う。スターバックスでは自分の容器に購入したドリンクを入れてくれるのだ。
がんばり過ぎが心配なショッピングモール
がんばり過ぎが心配なショッピングモール
ここがセイレーンの故郷
ここがセイレーンの故郷
やってきたのは、埼玉県越谷市にあるイオンレイクタウン。わざわざこのショッピングモールにやってきたのには理由がある。その大きさゆえとは言え、ここには合計5つものスターバックスの店舗があるのだ。

描いたカップをいくつか持参してみるわけだが、できれば違う店にしたい。そういうわけでここは都合がよい。

スタバと言えば店員さんのフレンドリーな接客も特徴の一つ。どんな反応をしてくれるだろうか、まずは1階の店に行ってみよう。
有名絵画をモチーフに
有名絵画をモチーフに
ここで投入するのは、「ヴィーナスの誕生」版カップ。ボッティチェリの有名なあれだ。

このカップ、発案は私で制作は妻。思いついたはいいのだが、なかなかうまく描けないでいる私をじれったく思った妻が、ササッと描いてくれた。カップではマークの下にそれほどスペースがないため、足が短くなっていてかわいい。

ではこのカップを店に持って行って、コーヒーを注いでもらおう。
ちょっとの間、我が子を旅に出す感じ
ちょっとの間、我が子を旅に出す感じ
コーヒー満たして無事生還
コーヒー満たして無事生還
レジで飲み物を注文し、「このカップに入れてください」と店員さんに頼む。受け取った男性店員は、カップに目をやり、一瞬「ん?」というような表情。そしてすぐ、ちょっとニコッとしてくれたように見えた。

無事にお願いすることができてホッとする。スタバではマイカップを持ち込むと20円の割引があるので、この試みはちょっとお得でもあるのだ。
天使「ん?…ちょっと違うくない?」
天使「ん?…ちょっと違うくない?」
おしゃれと奇行との境界
おしゃれと奇行との境界
コーヒーを注いだカップを渡すとき、店員さんが「これ、自分で描いたんですか?」と聞いてきた。そうですと答えると、「いい感じですね!」とさわやかに言ってくれる。

最初トレーに乗せたときは店員さん側に絵が向いていたのだが、「じゃあそっちに向けますね」とセイレーンと対面させるように向きを直してくれた。こういうちょっとしたやりとりも楽しい。

まずは成功、と言っていいだろうか。続いての店に行ってみよう。
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姿を変えて店に帰ってきたセイレーン

続いて訪れたのは3階の店。こちらで投入するのは、自分で描いたものだ。
スタバ集中地帯、第2弾
スタバ集中地帯、第2弾
立場を少々変えて登場
立場を少々変えて登場
記事の1ページ目でも紹介した、両手に魚をつかんでいるセイレーンだ。そのときは魚屋のおかみ風に長靴とエプロンをしていたのだが、今回は「困惑した奥さん」というテーマに少し変えてみた。
こういう小技で勝負したい
こういう小技で勝負したい
わかりやすくするため、吹き出しも追加。しましまの魚って、食べるのに少々抵抗がある気もする。そしてやたらとでかい。こんなの丸ごと2匹も送られても、どうしたら…という感じの設定だ。

ではこれにコーヒーを注いでもらおう。
いつもお世話になってるシステム
いつもお世話になってるシステム
困惑奥さん版カップを渡す
困惑奥さん版カップを渡す
多種多様なアレンジメニューがあるスタバだが、私が利用するときはいつも一番シンプルなドリップコーヒーを注文。そしてこのメニューにのみ使える技がある。

それは、購入時のレシートにも書いてある「ワンモアコーヒー」というサービス。ドリップコーヒーだけは、当日内なら同じ商品を100円でおかわりできるのだ。

他の店でも使え、ホットとアイスは変えられるというのも親切。「同一サイズ」というのもポイントで、例えば最大サイズのベンティを最初に買った場合は、100円で591mlもあるコーヒーをおかわりできるのだ。

今回も2店舗目なので、このサービスを利用。さあ、どんなやりとりがあるだろうか。
中身タプンタプンで帰ってきたカップ
中身タプンタプンで帰ってきたカップ
もっとアピールすべきだったか…
もっとアピールすべきだったか…
…結果は、いつも通りのにこやかな接客でありつつも、注文から受け渡しまで特別なやりとりはなし、というもの。

店員さんはカップの絵には気づいていたように見えたが、何と切り出していいかわからなかったのかもしれない。変なセリフがついているカップなので、私がやや自信なく出したことも微妙な空気になった原因だろうか。もっと積極的にこちらから話せばよかったかもしれない。

せっかくなのでコミュニケーションを楽しみたい。反省点として、次の店に行こう。最後の店で出すカップはこれだ。
これは楽しい
これは楽しい
帰宅したらできあがっていた、妻制作のカップ。セイレーンらしく素直に海の中をモチーフとしたもの。今回の中で最もしっくり来て、マークの周りにも広がりがあるものだと思う。
最後の舞台はこの店
最後の舞台はこの店
夜も更けてきたのでディカフェで注文
夜も更けてきたのでディカフェで注文
やってきたのはモール敷地内に別の建物としてある店。ちょっとした庭園風の通りの脇にあり、おしゃれ度も高め。

しかし、この店でコーヒーは3杯目。もう夜だし、あまりたくさん飲むと眠れなくなるのが心配だ。というわけで、ここではカフェインを除去したディカフェのドリップコーヒーを注文。

別料金もなく注文できる。一杯目は普通のコーヒー、ワンモアコーヒーの際にディカフェというのもできる。
さあ、行ってこい!
さあ、行ってこい!
通常のドリップコーヒーはすでに落としてあるので、ランプの下で待つことなくレジですぐ受け取れるが、ディカフェの場合は注文後に淹れるため、5分ほど席で待つようにお願いされる。少々の長旅だが、我が子を送りだそう。
帰ってきました
帰ってきました
こりゃ楽しいわ
こりゃ楽しいわ
しばらくして席にカップを持ってきてくれた店員さん。そのまま戻りそうかな…と思ったところで、「これ、自分で描いたんです」と、妻から話しかけてみた。

すると「やっぱりそうなんですかー、すごいですねー!」と、「実はひとこと言いたかったんです」という表情で返してくれた店員さん。「周りと合ってるし、面白いです!」とも言ってくれた。

「色も合わせてありますよねー」とも。そうそう、いくつかペンを試して一番近いものを選んだので、そこに気づいてくれるのはうれしい。「また新作できたら見せてください」と、ニコニコしながら戻っていく店員さんだった。

新作、一応あるんだけどね
新作、一応あるんだけどね
スタバでコーヒーを飲んでいてぼんやり考えていたことを実行してみた、今回の試み。自分のちょっとした思いつきを、他の人にも見せられて楽しかった。

上の写真は私が描いたタコのデザインを見て、妻が妻のタッチで描いた物。妙にリアルで、お店で出すのには勇気が必要だったため、部屋に飾ってある。
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