特集 2015年4月26日

書き出し小説大賞・第72回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第72回目である。

百円ショップでバネのおもちゃを買った。早速階段から落としてユーモラスな動きを楽しもうとしたが、マンションの階段では奥行きがありすぎて上手く降りてくれない。箱には「ペン立てとしても使えます」とある。手頃な大きさの筒を見ると人はたいていペン立てに利用したがるが、実際に利用することは少ない。バネのおもちゃはいまテレビ台の奥にある。それでは今週もめくるめく書き出しの世界へご招待しょう!

書き出し自由部門

バカが気球を買った。
正夢の3人目
水晶玉をプチプチで包み、引っ越しの準備を終えた。
哲ロマ
重たい剣を持っているのも忘れて魔法で戦い続けた。
俺スナ
「てやんでいっ!」「バーロー!」のリズムであっと言う間に餅は完成した。
茂具田
「このへんでドローンするわ」そう言い残すと部長は上空に消えていった。
えむ毛
探偵は「この中」の範囲を広げ始めた。
紀野珍
貧血で次々と生徒が倒れていく中、校長先生のエクササイズは続いた。
もんぜん
アダルトな笹舟が流れてきた。
マークパン助
休憩をはさんでから、復讐に戻った。
人が生きてる
夕暮れ前のY字路で、いびつに曲がった『スクールゾーン』の白い文字を見ている。
xissa
取り違えるたびに小ぶりになっていくビニール傘はしばしば、転職を繰り返す若者に例えられる。
こらん
彼女の頬を、マウスカーソルで撫でた。
大伴
父のダルマはちっとも燃えないまま、こちらを見続けていた。
義ん母
不意な寒さに、下着を一枚余計に盗んだ。
TOKUNAGA
運転手さん、前のトゥクトゥクを追ってください。
おかめちゃん
その罵倒が告白だと気づいたのは翌日の放課後だった。
suzukishika
手首が寂しいから、輪ゴムで飾った。血が止まった。
いがそ君
泥酔した男は1ページも進まぬ読書を続けている。
まじいい
カメラのレンズに鳩の落し物が付着したまま、ストリートビュー撮影車は街中を駆け抜ける。
仙きち
あらやだ、虹色の芋虫みたいな女の子。
寿寿

今回は規定部門の「大阪」との相乗効果か笑えるネタモノが多かった。正夢の3人目氏の気球、バカに最も似合う乗り物がこの作品決定した。買うにとどめたところもその後の展開が想像できて面白い。茂具田氏の餅、餅は完成したが手の方は複雑骨折してる気がする。えむ毛氏のドローンは旬の作品。明日から使えるギャグ。紀野珍氏の探偵、「この中」同様、笑いもじわじわ広がり始める。マークパン助氏の笹舟、もう笹舟を冷静には見れない。xissa氏、安定の観察眼。こらん氏の傘、最終的には折れた骨だけのビニール傘になってそう。おかめちゃん氏のトゥクトゥク、ロケ地タイの刑事物。緊迫感の無さがいい。いがそ君氏の輪ゴム、止血とオシャレの両立。仙きち氏のストリートビュー、完成した画像が見たい。寿寿氏の芋虫、語呂の良さもありなぜか気になる作品。

今回は採用数が多いこともありひと言ツッコミは省いたが、自由部門も充分作品だけで自立している。皆さんお見事!

書き出し規定部門・モチーフ「大阪」

大阪地裁では、被告人の冒頭陳述が『おもろいか、おもろないか』が最大の争点となる。
タクタクさん
阪神が優勝したので釈放された。
NCハマー
「肺に影がありまんねん」関西弁のお医者さんが言う私の病状は全て冗談に聞こえた。
もんぜん
一匹のチャウチャウを巡って議論は紛糾した。
えむ毛
アメリカ村が発見できないまま、私たちの修学旅行は終わろうとしている。
てこん道
「えっ、このお経、オチないん?」
大伴
どうしたん?雨がザー降ってきてマンホールの蓋でツルーン滑ってお尻ドーン打ったみたいな辛気臭い顔して。
おかめちゃん
吹雪のなか食い倒れていた。
TOKUNAGA
大阪人(遺伝子組み換えではない)
TOKUNAGA
僕の身の上話に感動したのか、おばちゃんに飴を袋ごともらった。
ぴすとる
梅田の地下ダンジョンは毎日地形が変わっているらしい。
shanagi
たかじんを唄うか河島英五を唄うかで揉める客達をママの酒やけした欧陽菲菲が優しく包んだ。
流し目髑髏
京都の下に大阪。プロにあるまじき二府で反則負けを喫した。
west@wind
道頓堀で人は2度死ぬ。
モミシン
動くカニの看板がジェスチャーでボスからの指令を伝える。
うをりんぐ
ビールを掛け合っている狂騒の中、何かが倒れる音と、悲鳴が確かに聞こえた。それが「阪神タイガース優勝記念連続密室殺人事件」の始まりであった。
あつし
寝言は大阪弁じゃなかった。
Mch
朝礼で全校生徒が一斉にコケる練習がある。
g-udon
「ワキガにNOや!」女の子は天王寺駅で言った。
ちくわ
「いいじゃん。マック行こうじゃん」大阪からの転校生は東京に馴染もうとしていた。
山本ゆうご
ビリケン様の向きを変えると、道頓堀の水が引き始めた。
正夢の3人目
ちっとも面白くない大阪出身の優子と、リズム感の悪いカメルーン出身のエムバミが結婚した。
おかめちゃん
銃で武装した警官が5人、警察犬が5匹。上沼相談員が4人。
シリンダー
モールス信号で「キミトハヤッテラレヘンワ」と送ってきた僚艦は、東の方角に行ったまま見えなくなってしまった。
prefab
ガンジス川を見ると道頓堀を思い出す。
もんぜん
「今の精子ん中、医者になれる奴おったんちゃうか」おるわけないやろ。そや、今日髪切らな。
義ん母
「そう、奥が深いねん。」彼の大阪自慢が、いつもの締め括りで終わる。
kjm
今回は規定部門も大量採用。大阪のベタなイメージを使ったネタ作品が光った。もんぜん氏の肺、たしかに(笑)なにかもう病院の売店で売ってる土産物にさえ思える。てこん道氏のアメリカ村、実はアメリカ村にいることに気付いてないような気がする。大伴氏、ラストに参列者のツッコミが聞こえてきそう。TOKUNAGA氏の二作品、いつもながらミニマムは結晶のような秀作。流し目髑髏氏の欧陽菲菲、大阪スナック光景がリアルに浮かぶ。たかじんと言えば例の「殉愛」騒動、地元ではどんな感じなんだろう気になる。west@wind氏の二府、上手い。最近はと(都)金になるという噂もある。モミシン氏の二度死ぬ、カッコイイ(笑)。うをりんぐ氏の看板もスパイものを連想させるパロディとして秀逸。あつし氏の殺人事件、まずなぜビール掛けを密室で? という動機からして謎の新境地。Mch氏の寝言、嘘はいつかバレる。g-udon氏の朝礼、説得力ある嘘。ちくわ氏のワキガ、この「ワキガにNOや!」は実話でしょうか、元ネタがあるんでしょうか、どちらにしろ理屈を越えた笑いのインパクトがある。おかめちゃん氏の面白くない大阪出身、ほんとにこのパブリックイメージで困っている人はたくさんいそうです。義ん母氏の精子ん中、いつもながらのオリジナリティ、この人は発想もシュールだが自作に合格ラインが高い気がする。kjm氏の深いねん、シメを飾るのにふさわしい作品。ご当地シリーズまたやってみたいモチーフである。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「嘘」
次回のモチーフは嘘。すいません、エイプリルフールの時期に出し忘れたモチーフです。ですが小説は年中嘘をついていい世界、もともとがフィクションです。嘘に関する物語の書き出しはもちろん、例えば今回の規定部門の、g-udon氏の作品のように書き出し自体がすぐに分かる嘘でもかまいません。ポイントはそれがただのひと言ネタに収まらず、小説的な味付けがあるかだと思います。もちろんネタ系だけではなくキレイな作品も待っています。嘘から出た誠、つい言ってしまった嘘など、いい話もつくれるモチーフです。
締め切りは5月8日正午、発表は5月10日を予定しています。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択してお送り下さい。力作待ってます!
最終選考通過者

ちゃんえり/スロウ・ダウン/豆ん棒/佐倉まひる/マシマロ/九官鳥級艦長/shanagi/よしおう/ウロ子/ボーフラ/はなまき/遥飛蓮助/東ことり/ウチボリ/甚だ縹/深海魚/ヌートリア/(たま)/みぃさや/ポポポ/松っこ
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