特集 2015年4月12日

書き出し小説大賞・第71回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第71回目である。

まずは告知。前回お知らせしたように書き出し小説がNHKラジオの朝番組「すっぴん!」のコーナーになります!
月に一回の一時間のコーナー、初回は5月25日月曜日、パーソナリティは宮沢章夫さんです。もちろん私、天久聖一も出演します。募集は自由部門と規定部門(モチーフは『ラジオ』)。後日番組上のHPで募集を行いますのでいましばらくお待ち下さい。

それでは今回もめくるめく書き出しの世界にご案内しよう!

書き出し自由部門

暗闇の中で電灯のヒモは無限に伸び続けた。
こらん
子供の頃ってそういう感覚になった。あと寝るときは「ちっちゃい電球」派もいるよね。
車をこする夢にだけは、リアルな感触がある。
xissa
プチ悪夢。
キミの食べるはずだった菜の花が咲いてしまったよ。
xissa
食べると見れない、見ると食べれない。
雲に乗れないと知った時、水蒸気を呪った。
おかめちゃん
雪の成分は空気中の塵って聞いたときもガッカリした。
冬を設定したままの電気毛布と、唐突な春に蒸される。
人が生きてる
春はフェイント掛けてくる。
砂に書いた文字まで波は届かず、だから自分で消した。
紀野珍
干潮も計算に入れて。
プール帰りの彼らは、スイムバッグを振り回す体力も残っていないようだった。
紀野珍
スイムバック、よく蹴りながら帰ったなあ。
ゾンビは慣れない酒に頬を赤らめ、生前の思い出を語り始めた。
茂具田
ほっぺた(腐肉)落っことしながら。
「これソバ打ちにくい!」妹はトンファーを片手に粉まみれの笑顔で言った。
過疎ブロ
そりゃそーだw
マホガニーの机に向かい、モンブランの万年筆で脅迫状をしたためた。
ウチボリ
ローマ字で。
二階って一階じゃないのか、と疑っていると五階のような六階に着く。
人が生きてる
イライラする読後感がよい。
弁当用の卵焼きを端まで綺麗に巻き終えるまで、飛ぶ夢の感覚が爪先に残っていた。
真夜野ふみ
このまま飛んで出勤できたら……
不法投棄された死体に火をつけると、生えていた鱗は星のように燃え上がった。
小夜子
鱗……人魚の死体?
落下と柿泥棒は同時だった。
TOKUNAGA
犯罪か、ミラクルか?
池の石がぼんやりと光り、パチンコ屋までの道筋を教えてくれた。
もんぜん
で、二万すった。
散り桜が犬の餌皿を覆い隠している。
TOKUNAGA
糞にも付着。

こらん氏の作品、子供の頃の仰向けで寝る暗闇はたしかに「無限」を感じさせた。この作品が幼少期の思い出とは限らないが、イメージの中で伸び続けるヒモにちょっとした無重力感まで感じる秀作。xissa氏の夢、菜の花もイメージの鮮明な作品。紀野珍氏の作品、プール帰りのあの寝起きのようなだるさが蘇る。過疎ブロ氏の作品、トンファーの取っ手がすげえ邪魔。人が生きてる氏の二階~作品、読んでるうちにここが何階か分からなくなる。TOKUNAGA氏の柿泥棒、決定的場面と捕らえた秀作。
今回は読み手がイメージを鮮明にすればするほど面白味のある作品が集まった。

それでは規定部門、今回のモチーフは「変わった仕事」であった。超マニアックな仕事から架空の仕事まで、書き出しハローワークをお楽しみ下さい。

書き出し規定部門・モチーフ「変わった仕事」

人間日時計の朝は早い。
ビールおかわり
私が戦闘員として勤めている地区に、年下の怪人が赴任してきた。
Ryota
軍手を落とし続けてもう三年になる。
毎日、大量のひよこを進学と就職で分けている。
義ん母
今週も各駅におがくずを運んでまわる。
大伴
オフィスが真っ暗になってからが、バックアップおじさんの勤務時間である。
suzukishika
最後に皮をひねって、肉まんに命を吹き込む。
おかめちゃん
流しのオーケストラは、演奏者全員が入れるだけの酒場が少ないのが悩みである。
あつし
偉人の子孫という仕事。
まじいい
俺にもマジシャンが曲げたスプーン戻し職人としての矜持がある。
スロウ・ダウン
「私の分は?」妻が落とし穴を求めてきた。
ビールおかわり
猫避けのペットボトルの水を抜く報酬はもちろん小判だ。
ハラセン
ソに見えるンを箱に詰め、ンに見えるソを捨てている。
松っこ
解散ライブで「やめないで」と叫ぶ口火人の後継者不足が問題になっていた。
東ことり
カレー屋の面接で、キッチンか、ホールか、付け合わせか、選ばされた。
義ん母
地図看板に「現在地」を記して世界をまわる。
大伴
僕と友達は、七人のチームで働いている。僕は体育館でバスケットをする役、彼の担当は音楽室のピアノを弾く係だ。
考えない葦
母の見よう見真似でピンポン玉に穴を開け、革ベルトに固定していく。
kjm
アシカのてかりを抑える仕事だった。
TOKUNAGA
腰の革袋に牛乳を入れ、一日馬と遊ぶと、蒲鉾のようなチーズができる。
ボーフラ
「盗品」と書かれた段ボールから下着を取り出し、一枚一枚並べていく。「この量なら、夜には終わるな」と陳列部長が呟いた。
Ryota
ありそうでない、なさそうである、変わった仕事。
ビールおかわり氏の人間日時計、こんな拷問がありそうな気がする。でももしあったとしたら日時計の人、完全に日焼けしてもう人間の領域を越えた聖人のような存在感があると思う。Ryota氏、ヒーローものに日常性を取り込んだニヤリとさせる作品、蚕氏、これだけ見掛けるということはそういう仕事があるんだろうな、妙に納得。suzukishika氏、バックアップおじさんの姿は各自想像してください。おかめちゃん氏の作品は職人のこだわりを感じる。まじいい氏、まさか子孫が号泣キャラのフィギュア選手になろとは信長も思ってなかっただろう。考えない葦氏、学校の七不思議はこのチームによる仕事だった。kjm氏、これSM用の猿ぐつわだと分かった途端、爆笑してしまった。内職というのがまたいい。ボーフラ氏、相変わらず独自の世界観、モンゴルの草原で革袋をつけ掛けるチーズ職人を妄想した。
実生活でも他人の仕事、職場というのは案外謎に包まれている。ファンタジーは案外、他人の日常の中にあるのかもしれない。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「大阪」
次回のモチーフは地方ネタ、大阪。大阪在住、出身の方は実体験が題材になるだろうし、それ以外の方は大阪に持つイメージを広げて書いて欲しい。大阪というと偏ったイメージがあるが、現実はおそらく違うだろうし、逆にその偏ったイメージを転がすことでも面白い作品が生まれるだろう。大阪以外の方はニセ大阪人の態で書いてみるのも面白いかもしれない。書き出しナニワ文学を楽しみにしてます。
締め切りは4月24日正午、発表は4月26日、下の投稿フォームから自由、規定部門を選択して送っていただきたい。力作待ってます!
最終選考通過者

柴咲ハコ/なんかまのキャシー/AD794/ciezzzy/prefab/pris/夏猫/井沢/ぴすとる/貧血コアラ/巴崎/にら将軍ハルナ/ブラックホール胃袋/いがそ君/
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