特集 2012年1月14日

カニかまぼこじゃなくてカニのかまぼこを作る

見た目は普通のかまぼこですが…
見た目は普通のかまぼこですが…
幼い頃、かまぼこが魚のすり身で出来ていると知ってたいそう驚いた。
魚ってかまぼこにするとこんなに味や食感が変わっちゃうのかと。

さらにはカニカマも魚のすり身で出来ていると知ってやはり驚いた。
あんなに見た目も味もカニっぽいのに魚なのかと。
じゃあカニでかまぼこを作ったらどんな味になるんだろうか。

たぶんたいていの人が一生に一度は思いつき、一生に一度も実践しない料理を試してみた。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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カニ、採れず。

僕が生まれ育った長崎県ではかまぼこ工場がたびたび小学生の社会科見学の場となる。
そこで普通かまぼこにはエソやらサメやら、美味しいんだけどちょっと見た目が悪かったりしてそのまま魚屋に並ぶことは無い安めの魚を用いることが多いとかまぼこ工場のおじさんに教わった。
紅白かまぼこなんかはおめでたい席の常連だが、やはり高級魚が使われることは少ない。
紅白かまぼこなんかはおめでたい席の常連だが、やはり高級魚が使われることは少ない。
たしかに高級魚をすり身にしてしまうのは惜しい気がする。特に見た目が立派な魚は。

カニなんてもってのほかだ。かまぼこにしてしまうのに(そもそも出来るかわからないのに)高いお金を出してカニを買うのにはちょっと勇気がいる。

じゃあ捕まえてしまおう。それなら元手がかからないぜ!と意気込んで川へカニ釣りに出かけたのだが…
モクズガニ。その辺の川にけっこういたりするが実は上海ガニの仲間。
モクズガニ。その辺の川にけっこういたりするが実は上海ガニの仲間。
一晩粘って手のひらサイズが一パイしか捕れなかった。これじゃあスズメの涙ほどしか肉が取れない。とてもかまぼこにするには足りないので川へお帰りいただいた。
代わりになぜか大きなスズキが釣れた。カニ釣りの外道でスズキを釣った人間は僕くらいのものではないだろうか。
代わりになぜか大きなスズキが釣れた。カニを釣りに行ってスズキを釣って帰って来た人間は日本広しと言えど僕くらいのものではないだろうか。
というわけで結局スーパーで買うはめになってしまった。ケチなことを考えずに最初からこうすればよかったのだ。
季節外れで、加熱されていないカニはなかなか売られていなかったが、なんとか冷凍のワタリガニを手に入れた。本当は肉が多くて取り出しやすそうなズワイガニが欲しかったのだが。
季節外れで、加熱されていないカニはなかなか売られていなかったが、なんとか冷凍のワタリガニを手に入れた。本当は肉が多くて取り出しやすそうなズワイガニが欲しかったのだが。

まずは魚で練習

さて、材料が用意できたところでリアルカニかま作りに挑むわけだが、実は僕はかまぼこを作ったことがない。まあおそらく日本人の大半が作った経験の無い料理だと思うので、別段恥じているわけでもない。
とはいえ、いきなり挑んで失敗してせっかくのカニが台無しになってしまうの避けたい。
そこで先ほど釣ってきたスズキを使って練習することにした。
三枚におろして細切れにして水にさらし、
三枚におろして細切れにして水にさらし、
すり身にして
すり身にして
成形して蒸し上げると…
成形して蒸し上げると…
完成!表面に焼き色を付けたのと、スがたくさん入ったので見た目がパンみたいになってしまった。
完成!表面に焼き色を付けたのと、スがたくさん入ったので見た目がパンみたいになってしまった。
細かい工程は省略したがネットで検索したレシピに従って調理したところ、見た目は悪いが美味しいかまぼこができた。初めてにしては上出来だろう。冬場のスズキは身に脂がのっていない(繁殖のため精巣や卵巣に脂をもっていかれている)のでかまぼこにはちょうど良かった。

いよいよカニで作ります。

前置きが長くなってしまったが、これでようやく安心してカニを使ってかまぼこが作れる。
その前に蒸してつまみ食い。屋内なのに帽子をかぶっているのはボサボサの髪を整えるのが面倒くさかったためです。
その前に蒸してつまみ食い。屋内なのに帽子をかぶっているのはボサボサの髪を整えるのが面倒くさかったためです。
うん、うまい。そりゃうまいよな。カニだもん。これはかまぼこにしても相当美味しいに違いない。
しかしつくづく旨みの塊みたいな食材だと思う。あの堅牢な殻も実は身を守るためじゃなく、おいしく食べてもらえるよう旨みを逃がさないために装備してるんじゃなかろうか。
カニの肉をほじくり出す。この作業を生のカニで行うのは初めての経験だ。
カニの肉をほじくり出す。この作業を生のカニで行うのは初めての経験だ。
1キロのカニからシチュー皿一杯分の肉が取れた。これを多いと思うか少ないと思うかは人によるだろうが、とりあえず板かまぼこを一枚作るのには十分な量だろう。
1キロのカニからシチュー皿一杯分の肉が取れた。これを多いと思うか少ないと思うかは人によるだろうが、とりあえず板かまぼこを一枚作るのには十分な量だろう。
生のカニの肉は思っていたよりもずっと水っぽかった。ああ、なるほど。こりゃカニの刺身をほとんど見ないわけだ。生のままでは扱いにくすぎるのだ。
カニをすり身にする背徳感
カニをすり身にする背徳感
キッチンペーパーでよく水分を切ってからすり鉢でする。肉は柔らかく、魚よりずっと楽にすり身にすることができた。
ちなみに味が抜けてしまうのが怖かったので、水にさらす工程は省いた。
板に盛って蒸し上げる。
板に盛って蒸し上げる。
蒸すこと15分。いよいよ完成したリアルカニかまとの対面である。緊張しつつ蒸し器のふたを開けると…
なんかすごくふくらんでる!
なんかすごくふくらんでる!
写真だと分かりにくいが、モッコモコにふくらんで板からはみ出していた。
カニの肉って加熱するとふくらむのか?実はボイルされたり蒸されたりされている時、カニの肉は硬い殻の中でふくらみたいけどふくらめずにいつも窮屈な思いをしていたのだろうか。なんだか隠されていた事実を知ってしまったような気持である。天才肌だと思っていたアイツが、陰で血のにじむような努力をしているのを見てしまった時のような。

フワフワ&濃厚!

まずはまだ熱いうちにいただきます!
まずはまだ熱いうちにいただきます!
!!フワフワ!そして超濃厚!!
!!フワフワ!そして超濃厚!!
柔らかい!ふわふわと軽く、舌の上で溶けるように崩れていく。例えようのない食感である。少なくとも普通想像するかまぼこのそれではない。
衝撃的なのは食感だけではない。味だ。味がものすごく濃い!口の中が「カニィィィィィィィッ!!」という感じになった。自分で書いててわけがわからない表現だが、実際そう感じたのだから仕方がない。
強いて分かりやすく言うと、先ほど食べた蒸しガニの風味を倍の密度に凝縮したような味であった。ひとことで言うと、ウマい!!

熱いうちに食べるのがオススメ!

ではカマボコらしく冷まして食べるのはどうだろうか。
冷ますとさっきまでフワフワっぷりが嘘のように縮んでしまった。
冷ますとさっきまでフワフワっぷりが嘘のように縮んでしまった。
なんだか一気に残念な見た目になってしまった。
切り分けると肉汁(?)があふれ出す。これ本当にかまぼこか?
切り分けると肉汁(?)があふれ出す。これ本当にかまぼこか?
見た目は先ほどとかなり変わってしまったが味はどうだろうか。
口の中でほどけよる!
口の中でほどけよる!
冷めても柔らかい!ものすごく滑らかな食感。噛む必要がないほどだ。ますますこれをかまぼこと呼んでいいものかどうか悩む。

カニのかまぼこはおいしいことがわかった。ただし、個人的には熱いうちに食べる方が好みであった。
食感は熱くても冷めても面白いのだが、味自体はやはりカニのそれなので、なんだか調理して時間が経ち、冷たくなってしまったカニを食べているような感じがしてどうにも気持ちが悪かったのだ。

間違いなくおいしい。

今回は板かまぼこしか作らなかったが、すり身にしてしまえばさつま揚げにしたりと応用が利く。熱いうちに食べるには団子やつみれにして鍋の具にするのがいいかもしれない。
とりあえず確実に美味しいことがわかったので、好奇心や食への探求心が旺盛な方にはお勧めできそうだ。

でもカニはただ茹でたり蒸したりして食べるだけでも十分おいしいので、僕はもう当分作らないと思います。
最近のカニカマってリアルですごいよね。
最近のカニカマってリアルですごいよね。
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