特集 2015年9月18日

IoT三兄弟の「ハトの目線を体感できるメガネ」

ハトの目線は体感できるのか?
ハトの目線は体感できるのか?
どうもこんにちは。IoT三兄弟、次男の住です。今、もっとも熱いとされている「IoT=Internet of thing」を追求するために結成された三兄弟です。AR三兄弟にはまだ挨拶していませんが、もう名乗ってしまいました。

長男はデイリーポータルZ編集長の林さん。三男はテクノ手芸部の吉田さんです。血縁はありません。今回、長男たっての希望により、「ハトの目線を体感できるメガネ」を開発しました。その一部始終をご報告いたします。
1970年神奈川県生まれ。デザイン、執筆、映像制作など各種コンテンツ制作に携わる。「どうしたら毎日をご機嫌に過ごせるか」を日々検討中。


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キッカケは一冊の本から

ハトの目線を体感できるカメラが欲しい。言い出したのは長男の林さんだ。何でも、面白い本を読んだのだという。藤田祐樹先生の著作「ハトはなぜ首を振って歩くのか」という本だ。
「ハトはなぜ首を振って歩くのか」
「ハトはなぜ首を振って歩くのか」
普段からハトに対してアンテナを張っている長男である。このタイトルを見逃すはずがない。

この本によると、ハトが首を振って歩くのは「ハトの目の位置」が一つの要因とされている。ハトは左右の目が真横を向いているから、常に真横を見て歩いている。その視線に入るものを良く見ようとうすると首が動き、あのように首を振って歩いているというのだ。

そして、長男は思った。

「ハトの目線を体感したい」

と。

ハトの目線メガネの開発

ハトの目線メガネを作るにあたり、まずは三男の事務所に集合した。ハトの目線メガネを実現することは可能なのか? それは、三男の腕にかかっている。
三男のテクノ手芸部、吉田さん
三男のテクノ手芸部、吉田さん
事前に相談を受けていた三男は、iPhoneのカメラ機能を使用してハトメガネを作ることを考えていた。2つのiPhoneを顔の左右に配置して、そのカメラの映像を見るという構造だ。

それだけ聞いても、長男と次男はピンと来ていない。
iPhoneを2つ使う? 良く分からない長男と次男
iPhoneを2つ使う? 良く分からない長男と次男
長男と次男がやってみたような、iPhoneを合わせ鏡のようにするやり方ではなく、iPhoneのカメラ映像を鏡のようなものに写すという作戦らしい。

試してみたいが、三男の事務所に鏡のようなものはない。

長男は辺りを見渡し、何かを見つけた。
CD-Rの裏で試してみる長男
CD-Rの裏で試してみる長男
機転を利かした長男が、iPhoneのカメラ映像をCD-Rの裏面に写している。それを見た三男も長男に習って真似てみる。
長男を真似る三男(服も似ている)
長男を真似る三男(服も似ている)
CD-Rに写った映像を確かめながら、三男は小さく頷いている。ハトメガネ完成へのロードマップが見えたのだろうか?

「いくつか問題点はありそうですが、1週間あればできるでしょう」

三男の心強い言葉が聞けた。三男のデスクには、ハトメガネの設計図のようなものが出来上がっている。
設計図?
設計図?
三男の設計図を見て少し不安になったが、大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろう。

1週間後に再び会う約束をして、その日は記念写真を撮ってから解散した。
IoT三兄弟の記念写真。体でIoTを表現している
IoT三兄弟の記念写真。体でIoTを表現している

ハトメガネの完成、そして試着

最初の打ち合わせから1週間後、三男はキッチリとハトメガネを作り上げてきた。
ハトメガネ・プロトタイプ
ハトメガネ・プロトタイプ
三男が作り上げたハトメガネの構造は以下のようになっている。

・左右にiPhoneを配置、広角レンズを装着した状態でカメラをオンにする
・iPhoneの画像をハトメガネ内の鏡が受ける
・それを拡大レンズ越しに見る

また、ポイントとしてiPhoneのカメラ画像を反転させるアプリを2台のiPhoneにインストールしている。iPhoneの画像を鏡で受けることにより画像が反転してしまうからだ。

早速、長男がハトメガネを試してみる。この段階ではプロトタイプなので、頭に装着できるようにはなっていない。手で支えながらの検証だ。
長男が試す
長男が試す
「わぁっ、本当に左右が見えている!」

初めてのハトメガネに長男も興奮を抑えきれない様子だ。

「ハトには世の中がこう見えているのか!」

ハトメガネを通して世の中がどのように見えているのか。左右に人が立った状態で、その映像を確かめてみよう。
編集部藤原君に手伝ってもらい
編集部藤原君に手伝ってもらい
左側に三男
左側に三男
右側に長男が立つと
右側に長男が立つと
ハトメガネではこう見える
ハトメガネではこう見える
ハトメガネの仕上がりは完璧だ。

これを使って、我々三兄弟はあることを確かめたいと思っている。

このメガネをかけて歩くと、人もハトのように首を振って歩くようになるのか?

である。

ハトメガネをかけると人も首を振って歩くのか?

ここまで読んでいただいた段階で気付かれた方もいるだろう。ハトメガネは分かったが、どの辺りがIoTなのか? 実は僕も思っていたので、長男に聞いてみた。ハトメガネのどの辺がIoTなのか。

「iPhoneを使っているから、IoTって言っていいと思います」

なるほど。さすがは長男だ。ハトメガネは(iPhoneのおかげで)ネットに繋がっている。

話を戻そう。

ハトメガネをかけると人も首を振って歩くようになるのか?

その検証のために、スーパーマーケットでキャベツとレタスを調達する長男。
キャベツとレタスを調達した長男
キャベツとレタスを調達した長男
ハトメガネをかけて歩き、途中でキャベツとレタスの見分けに挑戦する。そうすることで、対象物を良くみようとするから、ハトのように首が動くのでは? という仮説である。

長男がキャベツとレタスを購入している間、僕はスーパーの陳列棚でハトメガネを試してみた。
陳列棚で
陳列棚で
ハトメガネを試す
ハトメガネを試す
両サイドの棚が一変に見えて便利だと思ったのだが、両目に入ってくる映像の処理に脳が間に合わないことが分かった。片方ずつ見ないと物の判別ができない。

三男に相談すると、

「上下反転カメラも慣れるとそれが普通になるようですから、慣れれば両方見えるようになるのかも」

との見解が。ハトメガネに慣れる。そこにどんな意味があるのか、僕にはよく分からない。

公園で検証する

ハトメガネをかけて歩く。その検証のために公園にやってきた。
公園で検証。キャベツとレタスを持つ三男
公園で検証。キャベツとレタスを持つ三男
長男がハトメガネをかけて僕と三男の横を通過する。その際、僕たちが持っているのはキャベツなのかレタスなのか、当ててもらうのだ。
キャベツレタス判定スタート
キャベツレタス判定スタート
次男と三男の横を通過する長男
次男と三男の横を通過する長男
正解はレタス
正解はレタス
逆サイドからも確認
逆サイドからも確認
レタスの前を往復する間、長男の動きに変化が見られるようになった。
体が反った
体が反った
キャベツなのかレタスなのか、良く見ようとして体を反らすような動きをしてみせたのだ。結果、僕が持っているのがレタスであることを当て、動きもハトっぽくなってきた。

続いて三男が挑戦する。
正解はキャベツ
正解はキャベツ
反対側では長男が謎のポーズを取っている
反対側では長男が謎のポーズを取っている
三男の右側にはレタス、左側にはキャベツ
三男の右側にはレタス、左側にはキャベツ
両サイドにキャベツとレタスを配置して難易度を上げてみたが、次男も見事キャベツレタス判定に成功した。そして、やはり動きがハトっぽくなっている。

僕も試してみた。
次男も挑戦
次男も挑戦
キャベツとレタスの横を通る際、首を前後に振ることにより左右の対象物が見易くなることが分かった。また、いつもと違う視界で歩くことで、普段よりも臆病になることも分かった。もちろん僕も正解して、動きがハトっぽくなった。

ハトが首を振って歩くのは左右の対象物を良く見るため。ハトメガネをかけると人も首を振って歩くようになる。

そう結論づける前に、我々は沖縄へ飛んだ。

このハトメガネをある人に見てもらうために。
沖縄へ
沖縄へ
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ハトの首振りの第一人者に会う

我々IoT三兄弟は、沖縄にいる藤田祐樹先生に会いに行った。そう、冒頭で紹介した「ハトはなぜ首を振って歩くのか」の著者である。藤田先生は、沖縄県立博物館・美術館で人類学の主任を務めていて、ハトの首振りにおける第一人者だ。

そんな人にこのハトメガネを見せて大丈夫なのだろうか?

先生は著作の中で、

「正直にいって、遊び半分だったことは否定しない。遊び半分に始めた研究を、10年以上も続けることになるとは思ってもいなかった」

とハトの首振りの研究について語っている。遊び半分で始めた研究が10年以上。デイリーポータルZと一致する所があるじゃないか! 勝手にシンパシーを感じ、先生とアポイントメントを取らせていただいた。
先生が務める沖縄県立博物館・美術館
先生が務める沖縄県立博物館・美術館
訪れたのは月曜日。博物館・美術館は休館日であるが先生は時間を作ってくれた。

怒られるんじゃないか?

シンパシーを感じていたものの、不安がないと言えば嘘になる。しかし、先生は満面の笑みで我々を受け入れてくれた。
藤田祐樹先生
藤田祐樹先生
満面の笑みが消えないうちに、長男が先生へのお土産を渡す。
お土産にハトマスクを
お土産にハトマスクを
長男が差し出したハトマスクを喜んで被ってくれた藤田先生。そして、間髪を入れずにハトメガネをかけていただいた。
続いてハトメガネを
続いてハトメガネを
この日のために、三男はハトメガネをゴーグルと組み合わせて頭に装着できるように仕上げてきていた。

先生の両サイドに長男と三男が立ち、ハトメガネの視界を体感していただく。
先生の両サイドに立つ長男と三男
先生の両サイドに立つ長男と三男
ハトメガネをかけた藤田先生は、

「これは凄い。本当にハトの視界を再現できていると思います」

と絶賛してくれた。

ハトメガネを制作した三男は、先生のその言葉を心から喜んでいる。開発者として、これほどの至福はないだろう。

しかし、

この後、三男はタクシーにデジカメを忘れ、空港でノートパソコンを失くすことになる。人が何かを得る時、同じだけ何かを失うことになる。三男は沖縄でそれを学び、また一つ大人になった。
交番でお巡りさんに問い合わせる三男(後日、デジカメ、パソコンとも無事にみつかった)
交番でお巡りさんに問い合わせる三男(後日、デジカメ、パソコンとも無事にみつかった)
ひとしきりハトメガネを体感してくれた藤田先生の顔に異変が。
先生の顔にハトメガネの跡が
先生の顔にハトメガネの跡が
ゴーグルのバンドがきつかったようだ。この点は今後の改善点である。

常設展示室でハト歩きの実験

先生の事務室から、常設展示室へと移動した。
沖縄県立博物館の常設展示室
沖縄県立博物館の常設展示室
沖縄に生息するハトについて説明してくれた藤田先生
沖縄に生息するハトについて説明してくれた藤田先生
約2万年前に沖縄で生活していた港川人の精巧な復元模型
約2万年前に沖縄で生活していた港川人の精巧な復元模型
この展示室の一角をお借りして、ハトメガネをかけての歩行を先生に見てもらう。

今回も似た野菜の見分けを行うわけだが、用意したのはキャベツとレタスではない。キャベツとグリーンボールのサンプル。公園での実験よりも難易度が上がっている。
用意したのはキャベツとグリーンボールのサンプル
用意したのはキャベツとグリーンボールのサンプル
藤田先生の前で、長男が歩く。
長男が歩く
長男が歩く
三男が持っているのはグリーンボール
三男が持っているのはグリーンボール
上体が反った
上体が反った
長男は見事にグリーンボールを見分けることが出来たが、その歩きを見て先生からアドバイスが入った。
先生からのアドバイス
先生からのアドバイス
対象物が視界に入った際、首を残すようにしたらどうでしょうか?

先生はそう言うと、自らハトメガネをかけて歩き始めた。
まずは普通に
まずは普通に
歩く
歩く
藤田先生
藤田先生
首を振らず、直立の姿勢で歩いてみた藤田先生。

続いて少し屈んだ姿勢で対象物の横を歩いて見せた。
徐々にハトの姿勢に近づいていく
徐々にハトの姿勢に近づいていく
藤田先生
藤田先生
やっぱりそうだ!

少し屈んで歩いた後、藤田先生は何かを閃いたようだった。

そしてハトになっていく

「なるべくハトの動きに近づけた方が見易くなるようです」

そう言って、ハトの動きをレクチャーしてくれた。
ハトの動きをレクチャーする
ハトの動きをレクチャーする
藤田先生
藤田先生
長男への個人レッスン
長男への個人レッスン
さすがはハトの首振りの第一人者である。ハトの動きがうまいのだ。

先生からハトの動きを伝授された長男が、もう一度ハトメガネをかけて歩いてみる。
どんどんハト化していく
どんどんハト化していく
長男
長男
「わぁー、本当だ! こっちの方が良く見える。キャベツですよね!」

僕の目の前を歩く長男は、すっかりハトになっていた。

そして僕は、生まれて初めて人がハトになる瞬間を目の当たりにしていた。
沖縄で記念撮影するIoT三兄弟
沖縄で記念撮影するIoT三兄弟
今後とも宜しくお願いいたします
今後とも宜しくお願いいたします


そんな藤田先生のトークイベントが10月3日、ジュンク堂書店那覇店で開催される。

岩波書店科学ライブラリー刊「ハトはなぜ首を振って歩くのか」発売記念トークイベント 「ハトの“首ふり”の謎にせまる!

今回のハトメガネの話をしてくれるかもしれないので、興味のある方は是非足をお運びください。
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