特集 2015年9月13日

書き出し小説大賞・第81回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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第81回書き出し小説秀作発表である。

前回ご報告した通り、第三回書き出し小説大賞受賞式が、10月12日(体育の日)お台場カルチャーカルチャーにて開催されます!読者、作家の方はもちろんのこと、最近書き出し小説を知ったという方も是非!チケット情報は次回までには発表できると思います。よろしくお願いします!
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご招待しましょう。

書き出し自由部門

無人の公団であさがおが満開だ。
xissa
月末というのは、悪魔が姿を変えたものだ。
マークパン助
タイムワープした先で開いた弁当が傷んでいる。
TOKUNAGA
「犯人はこの中にいる、いるんだよ……」推理作家は書きかけの原稿を見つめつつ呻吟する。
紀野珍
作家が書き上げる前に死んだために、その本の世界の住人達はみんな幽霊となった。
kwsk
3番ホームで正座をしているあなたの姿が小さくなってゆく。
ヘリコプター
このように巻かれろ、と念じながらスカーフをいじっている。
xissa
誰の顔も思い出せなくなる時刻がある。
ババア伝説
もう二度と訪れることのないような町の公園を、急いではいなかったが、近隣住民みたいに斜めに横切ってみて駅へ向かった。
人が生きてる
ハム塊をナイフで口に運びながら母は思う。
TOKUNAGA
「完璧です!」焼き肉屋が肉を焼く度やかましい。
茂具田
苦労して張った結界のへりに母がびっしりハンガーを掛けていた。
アイアイ
バカが最初に虹を見つけた。
まじいい
てつのりはカバンから遺影を取り出し「この髪型にして下さい。」と告げた。美容師は黙ってリクエストに答えた。てつのりは「モミアゲ切りすぎだ」と怒った。
横尾モスラ
何度コンティニューしても恐竜は絶滅してしまった。
Mch
アパートを出ようとして、ふと、実家に砥石があったことを思いだし、何年も手入れしていない包丁をタオルで巻いてバッグに入れた。
kaori-float
その蛇は脱皮する度に一回り小さくなり、脱皮を終えると宝石を一つ吐き出すという。
prefab
居るはずのない人が写り、あるはずの金がなかった。
マークパン助
ロボットを好きになり愛情諸々ぶつけていると、錆びてきて、それがまた可愛い。
ボーフラ
女神は、48色の斧を全部くれた。
うにねこ
最後の最後に差し歯を外して、野球拳は終了した。
おかめちゃん
またつまらぬイニシアチブを取ってしまった。
ロサンゼルス
xissa氏「無人の公団」もし「あさがお」が「朝顔」なら全体が固くなる。字面の印象にまで気を配った精錬な作品。/マークパン助氏「月末というのは」週明けの悪魔が雑魚なら月末の悪魔はボスキャラだろうか。/紀野珍氏の「犯人はこの中」とkwsk氏の「作家が書き上げる」は共に作家の視点が入ったメタな作品。しかしあざとさはなく、逆にフィクションへの愛情を感じる好感触な作品。/ババア伝説氏「誰の顔も」さらに深い「あるあるネタ」と言ったところだかろうか、共感と同時に静かな恐怖さえ感じる。/人が生きてる氏「もう二度と」こちらも同じ経験のあるなしに関わらず深いレベルで共感できる。ただ公園を横切るだけの行為がここでは確信犯的犯行になっている。/TOKUNAGA氏「ハム塊を」焚き火に照らされた母の横顔。案外考えてることは息子の塾の費用のことだったりする。/茂具田氏「完璧です」すげえウザい。これはウザい。/横尾モスラ氏「てつのりは」いまひとつオチの分からない四コマを見たときのような読後感。個人的には大好きです。/kaori-float氏「アパートを」この後、職務質問される主人公を想像するとドラマは思わぬ展開となる。/ボーフラ氏「ロボットを」「錆びてきて」までの不穏な緊張感が文末で一気に微笑ましいオチに変わる。よかったね、ロボット!/おかめちゃん氏「最後の最後に」この前段階でカツラも義眼もとっている/ロサンゼルス氏「またつまらなぬ」Twitterに投下した自分のネタに少数のフォロワーが出来たときとか、こんな気分だろうか。

つづいては規定部門。今回のモチーフは「セレブ」であった。それでは早速、なりすましセレブたちの偽自慢をご紹介しよう。

書き出し規定部門・モチーフ「セレブ」

寄付も万引きもスケールが違った。
TOKUNAGA
「あと、あれも買うよ」セレブが指差した先にあったのは、満月だった。
柴咲ハコ
オーケストラの生演奏でトイレの音をかき消す。
もんぜん
テーブルの上で、お年玉袋が立っていた。
morin
昔捨てたガラクタが埋蔵金騒ぎを引き起こした。
Mch
付けている指輪は箸より重かった。
えむ毛
藪の中のパパラッチに特上握りの出前が届いた。
g-udon
「ここからここまで全部ください」でこの街の物件は買い占めた。
うにねこ
寿司職人が少し遅れて正門を抜けたそうだ。屋敷に着くまでの30分、執事としりとりに興じる。
g-udon
どうも話がかみ合わないと思ったら、エリカが買ったマンションというのは一棟まるごとのことだった。
おかめちゃん
ドッジボールで最後まで残るのは、黒服のSPに守られた静子ちゃんだ。
タクタクさん
増え続けるパーティーと試写会のために、また影武者を増やさなければいけない。
茂具田
機関銃から色とりどりの宝石が放たれた。
小夜子
「おっまえのかーっちゃんセーレブ!」いじめっ子集団に叫ばれ、僕は蛇柄のバックをギュッと握りしめた。
ノンシュガー
ピラニアだらけの川を、セレブが無事泳ぎ切った。
ヨーヨー大会
旦那様が歩いたあとの赤絨毯を巻き取る仕事についています。
プレミアムバザー高田
ウエッジウッドの皿を頭にのせた河童が、ウォーターベッドの中でくつろいでいる。
松っこ
敷地内にあるコンビニで爺やはとても横柄になる。
ヘリコプター
シェフを気まぐれにサラダ用で雇っている。
松っこ
絶滅危惧種となったセレブは、檻の中で紙幣を食べている。
キリンねこ
セレブの家に遊びに行ったら、布団が敷きっ放しだった。
菅原 aka $UZY
ハカセが暗号を解読し、カラテが見張りを倒し、セレブがお菓子を頬張り、俺がボスを倒す!
正夢の3人目
「あの子のプライベートジェットをロマネコンティでオートクチュールしちゃいな」セレブの隠語がわからない。
流し目髑髏
蛍光灯の紐の先にダイアモンドが括られている。
TOKUNAGA
球児の足もとで召使いが砂をあつめる。
大伴
お金を持つと人間は変わるもので、僕の場合、冷蔵庫の扉を開ける時の角度が10度ほど広がった。
kwsk
セレブとは楽な仕事ではなく例えば歯を磨くだけでもどう散財するか悩まなくてはならぬ。
ボーフラ
私の家に来ると彼女はチキンラーメンをねだる。
山本ゆうご
全世界に見守られながら買い物した。
ババア伝説
長ネギが入りきらず、窓から先端を出したままのフェラーリが、スーパーの駐車場から発進した。
タクタクさん
メイドにもメイドがいた。
Mch
なんだろう、このセレブを意識すればするほどにじみ出る貧乏臭さは。今回は質、量ともに高く採用数もいつもより多い。そしてそこにはセレブに対する嫉妬、怨み、羨望、諦念、無関心などあらゆる感情が透けて見える。濁った色でも花は花、非セレブの背伸びぶりに思わず目頭が熱くなる回であった。
TOKUNAGA氏「寄付も」ミスター書き出しの作品らしくセレブに対する畏怖と軽視をスケール大きくまとめた。/g-udon氏「寿司職人が」セレブにしか許されない優雅な時間。本物は腹が空いても腹は立てない。/小夜子氏「機関銃から」どす黒い作品群にあって珍しくファンタジーな作品。市川春子の「宝石の国」のような世界が浮かびました。/ヘリコプター氏「敷地内に」セレブというお題でこのシーンを創造するセンスがすごい。このディテールだけで全体のセレブぶりとその影まで活写している。/菅原 aka $UZY氏「セレブの家」正夢の3人目氏「ハカセが」流し目髑髏氏「あの子の」バカだ。実際のセレブでは決して書けない(いい意味での)貧しい発想。/kwsk氏「お金を持つと」これも(いい意味で)貧乏人の限界を感じる好感度の高い作品。/Mch氏「メイドにも」強制的にメイド服を着せられた哀れな中年の絵が浮かびました。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ「傷」
肉体的な傷でも精神的な傷でもよい。モノについた傷でもオッケー。傷にまつわる物語をお願いします。傷はなにかの痕跡であり記憶である。そこには個人にしか知り得ない密かなエピソードがある。また他者の傷からは思いのこもったイマジネーションが膨らむだろう。秋の気配を感じるいまの時期にぴったりな感傷的なテーマだと思うがいかがだろうか。もちろん笑える傷エピソードも大歓迎。
締め切りは9月25日、発表は27日を予定しています。下記の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して応募してください。力作待ってます!
最終選考通過者

ら+/義ん母/ビールおかわり/あつし/ウウタルレロ/ノンシュガー/東ことり/(たま)/

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