特集 2012年2月14日

ごぼうを50時間煮てみた

早い話が丸2日と2時間、ひたすら煮続けました。
早い話が丸2日と2時間、ひたすら煮続けました。
先日、ひょんなことから「ごぼうの梅煮」という料理の存在を知った。ごぼうが甘くフルーティーになるという。

ごぼうが、フルーティー。

野菜の中でも特にモッサリとして土臭く、最も果物っぽさからかけ離れたごぼうが、である。まるで「わかりやすい間違い探し」みたいな文言じゃないか。俄然気になる。しかし売っているのを見たことがない。

となると、やはり自作するしかあるまい。というわけで、ごぼうを煮てみました。しかも50時間。
1968年秋田県生まれ。食べたり飲んだりしていれば概ね幸せ。興味のあることも飲食関係が中心。もっとほかに目を向けるべきだと自覚はしています。

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なぜ50時間か

調べたところによると、ごぼうの梅煮というのは、ごぼうと梅干しを水だけで長時間ひたすら煮続けると完成するらしい。超簡単。

しかし、煮る時間については人によって言うことがマチマチだった。「ごぼうが柔らかくなればオーケー」という人もいれば「12時間くらいでいい」という人もいる。

中には「40時間がベスト。ものすごく甘くなる」という人もおり、どうせ作るなら…と40時間説を採用、さらにもう一声、というわけで50時間、ひたすら煮ることにした。
まさかシンクがごぼうで埋め尽くされる日が来ようとは…。
まさかシンクがごぼうで埋め尽くされる日が来ようとは…。
まずは下準備に取りかかろう。たわしで表面をこすり、水に浸けてアクを抜く。

せっかく50時間も煮るのだから…と張り切って18本ものごぼうを買ってきてしまったが、この時期の水仕事は非常につらい。

「野菜の下処理を任された下っ端の見習いか!」と独りごちながら、たわしで一本ずつゴシゴシとこすり続け、なんとか作業完了。
すべて5センチほどに切り揃えました
すべて5センチほどに切り揃えました
計量したら1キロを超えていた。うわー
計量したら1キロを超えていた。うわー
大鍋にザザーッと入れたら、
大鍋にザザーッと入れたら、
ひたひたの水と、梅干しを4個を入れて、おしまい。
ひたひたの水と、梅干しを4個を入れて、おしまい。
梅干しの量についても、わりと自由というか適当というか、好みの分だけ入れればいいようだ。足りなかったら後で足すことにして、とりあえず4個からスタートしよう。
弱火でコトコト、1時間経過。
弱火でコトコト、1時間経過。
それにしても50時間だ。

外出中は中断しなければならないし、就寝中もなるべく火は止めたい。50時間…。果たして実現可能な数字なのか。完成まで、いったい何日かかるんだ。

とにかく煮続けた

とりあえず、焦げつきだけには気をつけて、タイマーをかけて2~3時間おきに鍋の様子を見ることで、睡眠はなんとか確保できた(もちろん鍋の様子が気になって熟睡できなかったが)。
7時間経過。煮汁が茶色っぽくなってきた。
7時間経過。煮汁が茶色っぽくなってきた。
金曜の夜から始めたため、ぶっ続けで煮たとしても50時間後は日曜の深夜になる。この週末は、とにかく外出しないことに決めた。

まだこれで約5分の1

やっと12時間が経過した。豚の角煮なら十分柔らかく、味がしみ込んだ食べ頃である。果たしてごぼうはどうだろうか。

薄く色づいた程度。見た目は普通の煮物ですね
薄く色づいた程度。見た目は普通の煮物ですね
わ、こんな味なんだ…。
わ、こんな味なんだ…。
さすがに柔らかい。そして味はというと、なんといいますか、今まで食べたことがない味としか言いようがなかった。

ごく簡単に言うと「甘酸っぱいごぼう」である。であるが、決してイヤな味ではないのが不思議といえば不思議なところだ。

12時間で完成とする人もいるので、この時点で終了にしてもいいのだろうが「ごぼうがフルーティー」という状態には程遠い。

私は更なる高みを目指そうぞ。ということで、残すは38時間!
なんとなく味が薄い気がしたので、梅干し2個追加。
なんとなく味が薄い気がしたので、梅干し2個追加。
そして計20時間が経過。ここらで再び試食をば
そして計20時間が経過。ここらで再び試食をば
たまたま集ったデイリーライター陣。左から乙幡、北村、 小堺、土屋の面々。「柔らか~い!」とのことです。
たまたま集ったデイリーライター陣。左から乙幡、北村、 小堺、土屋の面々。「柔らか~い!」とのことです。
「梅干しと水だけで煮たものです」と言うと「へー!」という反応だった。できれば完成品を食べてもらいたかったが、こればっかりは残念としか言いようがない。

ひたすら煮込むのみ

水加減にだけ気を配っていたのだが、それにしても水の減りが早い。

我が家では料理に使う水を近所のスーパーまで汲みに行っているため、家とスーパーとを何往復もするハメになった。

合計20リットル以上は使ってると思う。
ひたひた状態をキープ(ついに24時間経過)
ひたひた状態をキープ(ついに24時間経過)
あれ? なんか急に匂いが甘くなったぞ!(36時間経過)
あれ? なんか急に匂いが甘くなったぞ!(36時間経過)
ごぼうの匂い、完全に消滅。(40時間経過)
ごぼうの匂い、完全に消滅。(40時間経過)
汁を煮詰めて、ついに完成!!(50時間経過)
汁を煮詰めて、ついに完成!!(50時間経過)
最初のうちは土臭かった鍋からの匂いが、なぜか36時間目あたりからしなくなり、最終的には甘くフルーティーなモノへと変化した。出たな、フルーティー!

それにしても、最後の最後までアクが出続けたのには参った。もしやこのアクこそが、ごぼうの主成分なのでは…?と思ってしまうくらい、アクが抜けると共にごぼうの香りがしなくなるのが不思議だった。

これ、ごぼう?

火を止め、しばらくそのままにして味を馴染ませてから、さっそく食べてみた。
醤油で煮詰めたような色をしてますが、正真正銘、梅干しのみ!
醤油で煮詰めたような色をしてますが、正真正銘、梅干しのみ!
柔らかさを通り越して、もうホロホロ。
柔らかさを通り越して、もうホロホロ。
噛んだ瞬間、甘酸っぱい汁がごぼうの繊維の隙間からじんわりと溢れ出てくる。まさか、ごぼうがここまで瑞々しくなるなんて…!

うん、確かにこれはフルーティーとしか言いようがなく、まるっきり新感覚の食べ物だと思う。どちらかと言うと、果物っぽい。

そういえば、梅って「プラム」だ。立派な果物だった…と今さらながら思い出す。

そしてごぼうを飲み込んだ後、鼻からふうっと抜ける香りは、ほぼ和菓子のそれだった。この甘さ、どこから来るんだろう…。

15分で再現できるか

確かにおいしかったが、このためだけに4~50時間もかけるのは馬鹿げているというか、ちょっと現実的ではないだろう。

というわけで、圧力鍋にご登場願った。
というわけで、またごぼうを買ってきた。今度のは太い。
というわけで、またごぼうを買ってきた。今度のは太い。
15分間、圧力をかけたあと放置。色はほぼ変わらず。
15分間、圧力をかけたあと放置。色はほぼ変わらず。
フタを取った途端、強烈にごぼうの匂いのする湯気を顔に浴びてしまい「これは明らかに50時間モノとは違う…」と思わされたが、果たしてどんなもんだろうか。

もしもこれが美味しかったら「私の50時間は何だったの!」という結末になりかねないだけに、思いは複雑だ。

太さもあるし、見た目はこちらの方がよっぽどおいしそう。
太さもあるし、見た目はこちらの方がよっぽどおいしそう。
まるで、高級割烹の上手に炊き上げた煮物のような見てくれだが…。
あ、ジューシー対決では負けた。汁、したたり落ちました。
あ、ジューシー対決では負けた。汁、したたり落ちました。
これはあれだ、12時間目くらいの味の染み込み具合&柔らかさだ。そして分類としては完全に野菜。ごぼうがまだ梅に勝っている。

これをあと20時間くらい火にかけ続けたら煮汁が甘く香り、ごぼうが果物っぽくなると思うのだが、こっちの方が好きだという人も中にはいるかもね…という味だ。

こればっかりは、好きずきですな。
50時間でこうなるか! という黒さ。なにがどうしてこうなった。
50時間でこうなるか! という黒さ。なにがどうしてこうなった。

大事に食べます

「いくらごぼうが固くても、50時間も煮たら溶けてしまうのでは?」と心配だったが、そんなことはなかった。それどころか、箸で持ち上げても崩れることなく形をしっかりキープしているのには驚いた。50時間煮て崩れない野菜って、他にあるか?

どうやら、とても体にいいものらしいので、大事にちびちび食べようと思う。なんたって50時間もかけたのだ。おいしいからとバクバク食べて、一瞬でなくなったら泣ける。
見た目と味のギャップがここまで激しい食べ物って、他に そうない。
見た目と味のギャップがここまで激しい食べ物って、他に そうない。
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