特集 2012年2月21日

今年は2555年?カレンダー専門の博物館が面白い!

世界各国の卓上カレンダー
世界各国の卓上カレンダー
当サイトでも度々取り上げてきた「墨田区の小さな博物館」には、ブレーキや金庫といったニッチな分野の博物館がたくさんあることでご存知の方も多いと思う。
そんな小さな博物館に「カレンダー専門」の博物館があるらしい。くしくも今月は閏年の2月。四年に一度の2月29日がある月だ。行ってみなければなるまい。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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懐かしい昭和のカレンダーがお出迎え

解説してくださったのは新藤暦展示館の尾身さん
解説してくださったのは新藤暦展示館の尾身さん
両国にあるカレンダー専門の博物館「新藤暦展示館」。館内でまず目に飛び込んできたのは懐かしい昭和のカレンダーの数々だ。
モノクロの写真に人工着色したカラーのカレンダー
モノクロの写真に人工着色したカラーのカレンダー
後楽園遊園地のポスターだ! 後ろにまだ新しい丸ノ内線後楽園駅が見える
後楽園遊園地のポスターだ! 後ろにまだ新しい丸ノ内線後楽園駅が見える
解説してくださった尾身さんの話によると、テレビ放送が始まった1953年当時は、まだカラー写真というものが一般的ではなく、これらのカラー写真はすべてモノクロの写真に彩色したものらしい。
さらに日付の数字も、フォントという概念がまだなく、すべて手描きのレタリング文字らしい。

昭和の大女優たちがみんな若い!

当時から人気があったのは、やはり女優のポスターだ。今でもアイドルのポスターは人気が高いけれど、今から60年前は映画女優がその役を担っていたのだ。
ソフトバンクのCMでお馴染みの若尾文子
ソフトバンクのCMでお馴染みの若尾文子
なぜか校倉造の前で微笑む山本富士子
なぜか校倉造の前で微笑む山本富士子
なぜかススキを咥えさせられる佐久間良子
なぜかススキを咥えさせられる佐久間良子
校倉造の前でポーズをとっていたり、ススキを咥えていたりなど「なぜその構図?」と若干の疑問と不安を感じるものもあるけれど、やはりみんな若くて可愛い。
日めくりカレンダー用の台紙。浅丘ルリ子と石原裕次郎だ。
日めくりカレンダー用の台紙。浅丘ルリ子と石原裕次郎だ。

映画の小道具として貸出もしている

これらの女優ポスターは印刷会社が企画し、映画会社所属の女優を撮影して大量に印刷して売るのだけど、後で会社や店の名前を刷り込むための余白が下に残してある。
ポスターの下にお店の名前を印刷するための余白が残してある
ポスターの下にお店の名前を印刷するための余白が残してある
このような昔のカレンダーをまとめて保存しているところは、大手の印刷会社でもあまり無いらしく、大変貴重なものらしい。
そのため「ALWAYS 三丁目の夕日」などの映画撮影に、小道具としてカレンダーを貸し出したそうだ。映画を見る機会があったらどのへんに映っているか確認してみたい。

昔は1年355日ぐらいだった

展示館には、太陽暦が導入される以前に日本で使っていた太陰暦(旧暦)の暦もたくさん展示してある。
幕末のものが多い
幕末のものが多い
中には縁起の良い方角や大の月、小の月などの情報が書いてある
中には縁起の良い方角や大の月、小の月などの情報が書いてある
「三嶋暦」と呼ばれるこれらの暦は、静岡県三島市にある三嶋大社が製造販売をおこなっており、幕末ごろは130文(約3000円)ほどで売られていたそうだ。
今でも、ちょっといいカレンダーを買おうと思ったら3000円ぐらいはするかもしれない。
この三嶋暦を見ていておもしろかったのは1年の日数だ。
一年の日数が少ない!
一年の日数が少ない!
「三百五十五日」今より10日ほど少ない! 旧暦は29日の小の月と30日の大の月が、複雑なきまりに基づいて決定されており、その年によって毎年違う。この三嶋暦はその年の大の月と小の月を知らせてくれる貴重なメディアだったのだ。

さらに、旧暦はそのまま使い続けていると、日付と季節がズレてくるので、約3年に1回程度「閏月」とよばれる月を挿入して調整する。閏月のある年は1年が13ヶ月あり、その年は1年が383日~385日になる。

閏月が入るタイミングはこれまた複雑なきまりに基づいて決まっているらしいけど、例えば5月が終わったと思ったら、もういちど閏5月がある。といった感じだったらしい。

月がもう一回増えるのは、うれしいのかうれしくないのかよくわからないサプライズだ。
閏月の入っている暦、1年の日数が384日だ
閏月の入っている暦、1年の日数が384日だ
ちなみに「閏月生まれの人はいつ歳をとるのか?」という問題は、そもそも昔は「1月1日に生きてた人は全員1つ歳をとる」というざっくりした“数え年”システムになっていたので問題はない。
正月が1年で1番めでたい感じがするのは、そのとき生きてる人全員の誕生日だったからなのだ。

祝日が微妙に違ってきている

明治6年、日本に太陽暦が導入されて以降もしばらくは旧暦と新暦を併記したカレンダーが出回っていた。
明治34年のカレンダー
明治34年のカレンダー
縁起が良すぎる絵柄
縁起が良すぎる絵柄
これは「諸江商店」という金沢の酒店で配っていたノベルティのカレンダーのようだ。恵比寿さんの経営する酒店に残りの六福神が買い物に来ているという、「縁起がいい」を絵に描いたような(実際に絵だけど)絵柄だ。

カレンダー部分に目をやると、今のカレンダーとはまったく違う。まず、左に新暦、右に旧暦のそれぞれ大の月と小の月や恵方の情報が細かく記載されている。
日曜表として日曜日の日にちしか載ってない
日曜表として日曜日の日にちしか載ってない
面白いのは「日曜表」の部分。各月の日曜日の日付が書いてあるだけだ。あっさりすぎる。このころは月曜から土曜までの平日はどうでもよかったのだ。
曜日が日曜日しか描いてない。
曜日が日曜日しか描いてない。
尾身さんの話によると、昔の商店は休みを現在のような七曜の周期じゃなく「1のつく日」とか「4のつく日」といった、神社や寺の縁日のような周期でとっているところも多かったそうなので、曜日はあまり必要な情報じゃなかったのだ。

そしてもう一つ注目したいのは祝日。
聞いたことのない祝日だらけ!
聞いたことのない祝日だらけ!
今と比べて見慣れない祝日が多い。
まず、1月1日が元日ではなく「四方拝」という聞きなれない祝日になっている。これは天皇が元日に行う一年最初の儀式だそうだ。
さらに時代が進み、大正時代になると微妙に変わってくる。
大正時代の暦
大正時代の暦
孝明天皇のご命日だった1月30日の祝日が消えて、こんどは明治天皇のご命日である7月30日と大正天皇のお誕生日の8月31日(8月31日は夏で暑いため、各種式典を行うのは10月31日)が新しく祝日に加わった。
そして、戦後になると宮中儀式由来の祝日が大幅に削減されて休みがガクッと減る。
楽しくないカレンダー
楽しくないカレンダー
たった9日。しかも、この頃は「休日と休日の間に挟まれた日は国民の休日にする」なんて決まりもなかったので、5月4日は平日だ。
「今年は土曜日に祝日が重なる日が多い」なんて不平不満を言ってる場合じゃない。今は土曜日に休めるだけでもずいぶんありがたいのかも知れない。

旧暦ピンチ!「2033年問題」

尾身さんの口から衝撃的な事実が
尾身さんの口から衝撃的な事実が
旧暦と新暦の話を聞いている中で、尾身さんが衝撃的なことを教えてくれた。

--暦って例えば春分の日や秋分の日って天文台が決めてるんですよね
「ですね、昔は旧暦の暦も国がちゃんと決めてたんだけど、今は国が決めたりしないんですよ、だから2033年に旧暦が決められなくなってる」

--え?暦が決められないってどういうことですか?
「今のままのルールでいくと、1年12ヶ月の年に閏月が入ってしまって、月が決められないという事態が2033年に起こるんです、この前どこかの大学に暦の専門家が集まってどうするか話し合ったんだけど、結局決まらなかったらしいですからね」

解決方法はいくつかあるそうなのだが、権威のある人が「こうします」という風にいわないと、混乱が生じるのだ。

--じゃあ、早く決めないと大変なことになりますね
「そうですねー、でもまあその時は私生きてないから、アハハハ」

とっさに「そんなこと無いですよ! あと20年ぐらいすぐですよ!」とフォローしたものの、お互い「無理あるな」という感じになって、なんだかちょっと変な感じになってしまった。
中高年のギャグはこわい!
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2階は世界各国のカレンダー展示室

新藤暦展示館の2階は世界各国のカレンダーが展示してある。
ニヤケながらカレンダー鑑賞
ニヤケながらカレンダー鑑賞
このコレクションは、各国大使館にお願いして分けて貰ったり、旅行に行った人のおみやげで寄贈してもらった世界のカレンダーがズラリと展示してある。
世界のカレンダーは全部で2000点以上あるそうだけど、展示してあるのはそのごく一部だ。

お国柄がにじみ出ているカレンダー

ここにあるカレンダーはどれもそれぞれの国のお国柄が出ていてとても面白いのだけど、とにかく数が多い。いちいち全部紹介していると、とてもじゃないけれど終わらないので気になったものをいくつか紹介したいと思う。
タイの国王さま。小泉チルドレンのピンクのおばちゃんではない
タイの国王さま。小泉チルドレンのピンクのおばちゃんではない
キューバのカレンダー。チェ・ゲバラ。尾身さん曰く「若くして死んだから裕次郎みたいなもんだな」
キューバのカレンダー。チェ・ゲバラ。尾身さん曰く「若くして死んだから裕次郎みたいなもんだな」
めくってもめくってもひたすらパブのドアしかうつってないアイルランドのカレンダー
めくってもめくってもひたすらパブのドアしかうつってないアイルランドのカレンダー
ロシアアバンギャルドな感じのロシアのカレンダー。ちょっと欲しい
ロシアアバンギャルドな感じのロシアのカレンダー。ちょっと欲しい
北朝鮮のカレンダー。よく見ると左胸に金日成バッジがついている
北朝鮮のカレンダー。よく見ると左胸に金日成バッジがついている
めくってもめくってもひたすら石しかうつってないドイツのカレンダー
めくってもめくってもひたすら石しかうつってないドイツのカレンダー

新年は国によってさまざま

ところで、日本で新年といえば1月1日と決まっている。しかし、世界では必ずしも1月1日が新年とは限らないのだ。
付箋のヒジュラ暦は間違い。正しくは1432年だ
付箋のヒジュラ暦は間違い。正しくは1432年だ
例えばイスラムの国で使われるヒジュラ暦。とても複雑な決まりによって暦が決まっているけれど上の写真、西暦2010年は12月8日がヒジュラ暦1432年の1月1日にあたる。ということを示している。付箋に1433年と書いてあるけれど、これは1432年の間違いのようだ。
仏暦2554年、すごい未来っぽいけど、去年だ
仏暦2554年、すごい未来っぽいけど、去年だ
他にも、タイやカンボジアなどの仏教国では仏暦が併記されているカレンダーも多い。仏暦とはお釈迦さまが入滅した年を紀元とした紀年法だ。
タイの「ソンクラーン」と呼ばれる旧正月は4月らしいので、1月1日に日本の正月、1月終わりに韓国、中国の旧正月、4月にタイに行けば、半年のうちに何回も正月気分が味わえてお得かもしれない。

シンボルカラーのある誕生日

タイでもう一つ面白かったのは、タイの誕生日には生まれた曜日によって守護色が決まっているということだ。
曜日ごとの守り神と守護色
曜日ごとの守り神と守護色
自分の生まれた曜日を調べると守護色がわかる
自分の生まれた曜日を調べると守護色がわかる
尾身さんの解説によると、少し前にタイで国王派とタクシン派の国民が衝突した時に、シンボルカラーとなってた黄色と赤色のシャツは、この誕生日の守護色が元になっているらしい。

ちなみにぼくは木曜日生まれだったのでオレンジ。同行してくれた編集部の古賀さんは火曜日生まれなのでピンク色だった。

だからなんだと言われればそれまでなのだけど、ただ、自分の守護色がオレンジ色だと分かった途端、なんだかオレンジ色が気になる存在になってくる。

今「お前アイツのこと好きなんだろー」と茶化されてからはじめて気がつく恋心、みたいな心境になっている。

ちなみに、自分の生まれた曜日と守護色を知りたい方はこちらをどうぞ。
各曜日の守護色
日曜日…赤色
月曜日…黄色
火曜日…ピンク色
水曜日…緑色
木曜日…オレンジ色
金曜日…青色
土曜日…紫色

アイヌの月の名前がちょっと面白い

月名のパネル展示が面白い
月名のパネル展示が面白い
ところで、日本で1月のことを睦月、2月を如月、3月を弥生というように、各民族でさまざまな月の別名がある。
そのことを解説したパネル展示があるのだけど、その中にあったアイヌの月名が一部、妙な具合になっているのだ。
1月は「神を祈る月」なるほど
1月は「神を祈る月」なるほど
2月が「日が長くなる」、3月が「黒百合の根」
2月が「日が長くなる」、3月が「黒百合の根」
1月から3月まではそれっぽくてなるほどと思える名前なのだが、4月からの様子がちょっとおかしくなってくる。
そろそろやると言っておいて
そろそろやると言っておいて
さっきの嘘かよ!
さっきの嘘かよ!
4月「そろそろウバユリの根を掘る」と宣言しておいて、5月が「本当にウバユリの根を掘る」。え、なに? 4月のやつはフェイント?

伝統や文化っぽいところで、ボケていいの? とちょっとびっくりしてしまうのだけど、さらに、6月を見てみると。
6月「そろそろハマナスの実を採る」って、あれ?このパターン……
6月「そろそろハマナスの実を採る」って、あれ?このパターン……
やっぱり……7月「本当にハマナスの実を採る」
やっぱり……7月「本当にハマナスの実を採る」
おそらく、ウバユリやハマナスの季節が長いことのあらわれなんだけろうけど、日本語に翻訳するとちょっとユーモアのある月名になってしまうのが面白い。

カレンダーがこんなに面白いとは!

展示館にはまだまだ沢山のカレンダーが展示してあり、そのどれもが面白いのだけれど、キリがないのでこの辺で締めたい。

ただ一つ残念なのはこの展示館、火曜日と木曜日しか開館していないのだ。
行こうと思った方は十分ご注意下さい。

最後に「カレンダーにはそんなに興味ないです」と言っていた古賀さんの、展示館を訪れてからの感想を引用させていただいて終わりたいと思う。

カレンダーとか日にち、曜日の概念というのはもう完全にしみついてしまって疑うこともないのですが、展示館に行ってそのあたりまえの感覚(太陽暦、西暦、曜日、正月は1月などなど)が一瞬だけちゃらになって、ぼんやりですが、日にちも曜日もなく太陽とともに生活していた大昔の感覚に触れた気がします。
なんか荘厳なこと言い出してすみません。
古賀さんが一番グッと来たという曜日の伝播地図
古賀さんが一番グッと来たという曜日の伝播地図

新藤暦展示館

〒130-0015 東京都墨田区横網1-12-21
開館日……火曜日、木曜日
開館時間……10時~16時
http://www.shindo.co.jp/shindo/koyomi/index.html
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