特集 2012年10月19日

シンガポールNo.1の珍スポットに行ってきた

心ふるわすオブジェがいっぱい
心ふるわすオブジェがいっぱい
日本各地の様々な珍スポットを刈りつくしてきた当サイト。しかし、海外に行くとまだまだ未知なる傑珍(傑出した珍スポット)がウヨウヨしていることに気づかされる。

今回は、先日シンガポールで見つけたワールドクラスの珍スポットを紹介しよう。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

前の記事:少ない量でもバイキングっぽくなる方法

> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

セレブがつくった珍スポット

その珍スポットの名は「ハウパーヴィラ」。またの名を「タイガーバームガーデン」という。軟膏薬のタイガーバームでたんまり儲けた胡兄弟が、その儲けた金を惜しみなく注ぎ込んだブルジョアジーな珍スポットなのである。

日本の珍スポットといえば、ちょっと変わり者のおっちゃんが手作りで運営しているイメージだが、ここは逆にセレブリティな珍。とにかく珍なるモノに対し、金に糸目をつけない感じが逆に清々しい。

珍スポットのワールドカップがあったら、おそらくシンガポール代表はここだろう。
シンガポール国旗が舞う入口の岩山
シンガポール国旗が舞う入口の岩山
「free admission」すなわち入場無料という気前の良さ
「free admission」すなわち入場無料という気前の良さ
少林少年たちも訪れるほどの人気スポットでもある
少林少年たちも訪れるほどの人気スポットでもある

地元も太鼓判の珍スポット

ちなみに、タクシーの運転手に「ハウパーヴィラ」に行きたい旨を伝えたところ、とても怪訝な顔をされた。「お前さんも酔狂なやつだな」とでも言いたげな顔だ。

その運転手以外にも、現地の人に「ハウパーヴィラ」に行ったという話をすると、もれなく怪訝な顔を頂戴できる。近年、発展目覚ましいシンガポールにはカジノやユニバーサルスタジオ、オシャレなショッピングモールなどなど、魅力的な観光スポットがいくらでもあるのに、わざわざそんなところに行く日本人が珍しかったのだろう。現地の人にとってもここが珍スポットであるという認識はあるようだ。

シンガポール人の怪訝な顔がみたい人はハウパーヴィラの話をするといいですよ。
これまた立派な門
これまた立派な門
富の象徴である虎があしらわれている
富の象徴である虎があしらわれている
けっこうしっかりした案内図
けっこうしっかりした案内図
テーマによってエリアが分かれているらしい
テーマによってエリアが分かれているらしい
園内には無数のコンクリート像が配置されている。胡兄弟の出身国である中国風味の銅像が多いのだが、そのどれもがカラフルで豪華だ。

ただ、間近でよく見ると若干仕上げが甘かったりして、その仕事の甘さが微笑ましかったりする。

仙人っぽい人や
仙人っぽい人や
三国志っぽい人など色んな像がある
三国志っぽい人など色んな像がある
赤い唇がセクシー
赤い唇がセクシー
いったん広告です

一貫性がない

驚くのはコンクリート像のバリエーション。漢の将軍の像から親子パンダ、ちょっと目がイッっちゃてる巨大エビ、さらには日本の力士まで、まったく一貫性がなく、それがカオスを生み出している。
シャープなスタイルのパンダ
シャープなスタイルのパンダ
穴蔵にはキモい笑顔の子パンダ
穴蔵にはキモい笑顔の子パンダ
やたら造形のクオリティが高いエビ。でかい
やたら造形のクオリティが高いエビ。でかい
中国を代表する仙人のひとり鍾離権
中国を代表する仙人のひとり鍾離権

あの名横綱のオブジェも

鍾離権は中国八仙(日本でいう七福神みたいな存在)のひとりであり、漢の将軍でもあったという偉人。その後ろにはなぜか日本の力士の姿が。うーん、コンセプトがまったく分からない。

それにしてもこの力士、なんとなく見覚えのある顔をしていると思ったら、何でも初代若乃花こと花田勝治がモデルらしい。土俵の鬼と呼ばれた往年の名横綱にこんなところで会えるとは思わなかった。
シンガポール巡業に来た若乃花
シンガポール巡業に来た若乃花
見事なソップ型
見事なソップ型
力士が守るのはもちろん、胡財閥の富の象徴であるタイガーバーム
力士が守るのはもちろん、胡財閥の富の象徴であるタイガーバーム
まあ力士は唐突だが、胡財閥3代目総裁・胡一虎氏の妻である胡暁子さんは日本生まれなので、奥さんのためにつくったと考えればまだ説明がつく。しかし力士像の北側にある湖のほとりには、なぜか自由の女神が鎮座していたりしてグローバルにも程がある。
かと思えばドラクエのモンスターみたいなのもいたり
かと思えばドラクエのモンスターみたいなのもいたり
園内のベンチにFUJIFILMが出広していたり。情報量が多くて混乱する
園内のベンチにFUJIFILMが出広していたり。情報量が多くて混乱する

ただふざけているだけじゃない

とはいえ、じつはここ単なるおふざけスポットではない。

そもそもここがどんな目的で作られたかをちゃんと説明しないまま2ページ目まで来てしまったが、「ハウパーヴィラ」は中国の神話や道教の教えを再現するという、れっきとしたコンセプトをもっている。中国古来の説話や有難い教えを後世に伝えたいという胡兄弟の願いが詰まっているのだ。ただ、その伝え方がちょっぴりユーモラスなだけなのだ。
また胡兄弟はとっても家族思い。園内には両親を弔う巨大な記念碑も建立されている
また胡兄弟はとっても家族思い。園内には両親を弔う巨大な記念碑も建立されている
園内で最も巨大な記念碑は、両親への尊敬の証
園内で最も巨大な記念碑は、両親への尊敬の証
例えばこの「白蛇伝」という説話は、白蛇の化身である白素貞とその夫・許仙の恋物語。2人の幸せな結婚生活を妬んだ僧の法海は許仙を牢獄に幽閉。あらゆる苦難を乗り越え夫を救出する白素貞の勇気や意志を描き、中国の伝統的な美徳を伝える、という素晴らしいお話。

…なのだが、その表現方法がどうにもコミカルなので、笑わそうとしているようにしか思えないのだ。
ちなみに日本語の案内板もあります
ちなみに日本語の案内板もあります
夫を救出する道中、多くの人々が犠牲になった。そんな悲しいシーンもあれば
夫を救出する道中、多くの人々が犠牲になった。そんな悲しいシーンもあれば
一点、ザ・修羅場なこんなシーンも
一点、ザ・修羅場なこんなシーンも
「おい、やめとけって!」
「おい、やめとけって!」
「こいよ!」
「こいよ!」
元の物語を知らないのでこれがどんなシーンなのかはよく分からないのだが、刃物を振りあげられているほうの女が微妙にコミカルなポーズなのが腹立つ。
一方、こちらは「カメの恩返し」というお話
一方、こちらは「カメの恩返し」というお話

青年の優しさが伝わらないオブジェ

「カメの恩返し」は中国ではかなり人気のある物語。動物好きの優しい青年が市場に売られていたカメを不憫に思い、そのカメを買って海に放してやる。それから数年後、青年が乗った船が沈没し乗客の大部分が溺れる中、助けたカメが現れ青年の命を救う。その後、青年は大金持ちの女性と結婚し、ずっと幸福に暮らしましたとさ、というお話。

この浦島太郎と鶴の恩返しを合わせたような物語は、善行に対しては必ず報酬が与えられることを伝えている。
船が沈没、あら大変
船が沈没、あら大変
そのうえサメも現れるわで、ふんだりけったりのなか
そのうえサメも現れるわで、ふんだりけったりのなか
カメが現れ青年だけを救出
カメが現れ青年だけを救出
「悪いね~みんな~」
「悪いね~みんな~」
カメを助けたのは偉いが、みんな溺れてるのにうかれすぎだ。なんだそのおちょけたポーズ。だいたいそのカメ、もう2~3人乗れるだろ!
いったん広告です

メジャーな物語も

なかには日本人にとっても馴染み深いメジャーな物語もある。昔ジャンプで連載されていた「封神演義」や、言わずと知れた「西遊記」である。
大人気漫画のモチーフになった物語
大人気漫画のモチーフになった物語
だが漫画のようなポップなキャラクターは一切見当たらず、登場人物はほぼおっさん
だが漫画のようなポップなキャラクターは一切見当たらず、登場人物はほぼおっさん

充実の西遊記コーナー

ちなみに当園が最も力を入れているのが「西遊記」。かなりのスペースを使って、様々な名シーンをおもしろ彫刻で再現している。
西遊記コーナー
西遊記コーナー
西遊記は唐の高層・玄奘三蔵が仙猿・孫悟空と共に天竺を目指す日本でも人気の物語だが、筆者自身は漫☆画太郎先生の『珍遊記』を読んだ程度なので物語の詳細はよく知らない。

せっかくなのでここで学んでみよう。
牛魔王の息子「紅孩児」と闘う孫悟空
牛魔王の息子「紅孩児」と闘う孫悟空
テンションの上がる猪八戒
テンションの上がる猪八戒
妖怪の色仕掛けにハマり、木に縛り付けられる猪八戒
妖怪の色仕掛けにハマり、木に縛り付けられる猪八戒
蜘蛛の妖怪に殺されそうになる沙悟浄
蜘蛛の妖怪に殺されそうになる沙悟浄
色地掛けに遭う三蔵法師
色地掛けに遭う三蔵法師
見どころは、三蔵法師を守るため命がけで闘う孫悟空の勇猛さ。一方で、他の3人はやたら殺されそうになったり、色仕掛けにあったりしている。とくにブタは度々色仕掛けにはまる、うっかり八兵衛みたいな役回りだ。どこにでもうっかりしたやつはいるものである。

なお、西遊記をモチーフにした日本のドラマなどではカッパとして描かれがちな沙悟浄はカッパじゃなくて砂の妖怪らしい。容姿はふつうのおっさんだった。
ちなみに、孫悟空の王国である「花果山」も再現するなど、どうやら胡兄弟の推しメンは孫悟空
ちなみに、孫悟空の王国である「花果山」も再現するなど、どうやら胡兄弟の推しメンは孫悟空
猿の王として君臨する孫悟空
猿の王として君臨する孫悟空
配下の猿に武器を持たせ軍隊としてまとめあげた
配下の猿に武器を持たせ軍隊としてまとめあげた
花果山のエリアでは、三蔵法師と出合う前の孫悟空が猿山でブイブイいわせていた時代の姿も見ることができる。珍スポットファンだけでなく、西遊記ならびに孫悟空ファンにもたまらない場所といえそうだ。
いったん広告です

歩を進めるほどにカオス

奥へ足を踏み入れるほどに、ハウパーヴィラのカオスっぷりは加速する。不気味なオブジェが次々と来場者を出迎えるのだ。
森林のカゲに浮かび上がる不気味な面3つ
森林のカゲに浮かび上がる不気味な面3つ
なかには思わず目をそむけたくなるような恐怖のジオラマも。
ホステス風のニワトリ女に連れ込まれる鳥男。THE・シュール
ホステス風のニワトリ女に連れ込まれる鳥男。THE・シュール
貝に食われそうになる女。見なかったことにしよう
貝に食われそうになる女。見なかったことにしよう
かと思えば、シンプルにゴリラが登場したり
かと思えば、シンプルにゴリラが登場したり
こんなやつに呼び止められたら失禁するだろう
こんなやつに呼び止められたら失禁するだろう

トップレスマーメードのセクシー攻撃

貝女から目をそらし、ゴリラに恐怖した後はセクシーなマーメイドたちが出迎えてくれる。やっと安息の時が訪れるのだ。
いや、そうでもないか
いや、そうでもないか
トップレスで太陽を浴びる開放的なマーメイドたち。人魚のヌーディストビーチである。

さて、そろそろ頭がクラクラしてきた読者もいることと思うので、最後に最も衝撃的な作品を紹介して終わりにしよう。
この不憫な姿を直視できるか?
この不憫な姿を直視できるか?
でも、なぜかちょっと嬉しそう
でも、なぜかちょっと嬉しそう
カニ女である。いったいどんな悪さをしたらこんな姿になってしまうというのだろう。ただ、本人がちょっと嬉しそうなのが救いかもしれない。

かつては香港もハウパーヴィラはあったが2000年に閉園。よって、これら珍奇な彫刻群が見られるのは世界でここだけなのだ。

なくならないうちにぜひ訪れておきたいスポットである。
人魚の曲芸
人魚の曲芸
▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←
ひと段落(広告)

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ