特集 2014年1月27日

ペットボトルキャップは495°回せば開く

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あなたは電話ごしに、出張先で作業中の部下に指示を出している。今日は自販機でお茶を買って飲む作業だ。

あなた「…コインを入れたらボタンのランプがつくから、適当なボタンをひとつ押して」
部下「押しました。下から何か出てきましたよ」
あなた「それボトルだよ。出てきたボトルを拾って、片手で掴んで」
部下「掴みました。」
あなた「もう片方の手でキャップを回して開けて」
部下「キャップを……何周ですか?」
あなた「え?」
部下「何周回すんですか??」
あなた「えっと…」
ここで正確に答えなければ部下からの信頼を失うことになる。あなたは答えられるだろうか。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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何周回せばフタが開くのか

この場面での正解は「いいから開くまで回せ」だろう(そんな作業あるか、とか、そんな部下いるか、とか、そういう些末な話は置いておく)。ただ、たとえば相手がロボットだったらどうだろう。そんなあいまいなプログラムでは動いてくれないかもしれない。そうでなくても、部下が超指示待ち人間ということもありうる。「何周か言ってくれないとできません!」とキレられたらどうしよう。

そんな事態に備え、今のうちに何周回せば開くのか調べておくことにした。

地味な記事ですいません

というわけで、ボトルを開けまくるだけの記事です。
めちゃくちゃ地味な実験を少しでも盛り上げようと部屋をパーティーにしました
めちゃくちゃ地味な実験を少しでも盛り上げようと部屋をパーティーにしました
「験」を書くのが面倒でひらがなにしたところ絶妙な小学生っぽさが出た
「験」を書くのが面倒でひらがなにしたところ絶妙な小学生っぽさが出た
用意したボトルは8本。
水からジュース、酒までひととおり網羅
水からジュース、酒までひととおり網羅
「ペットボトルを開ける」。ふだん何気なくしている動作だけに、その周回数については全く意識したことがない。
事前の予想では、普通のペットボトルで3周くらいだろうか。炭酸は気が抜けないように、もっと多いかもしれない。ボトル缶やビンはすぐ開く印象があるので、2周くらいだろうか。
計測方法。開封前の位置にマジックで印をつけて
計測方法。開封前の位置にマジックで印をつけて
ボトルをあけて
ボトルをあけて
開いた角度を分度器で測るだけの作業
開いた角度を分度器で測るだけの作業
事前に予告したとおり、大変地味な作業である。あえてここで計測の様子を一つ一つ紹介していく必要もなかろうと思うので、結果だけ一覧でご覧いただこう。
ボトルキャップを開けるまでに回す角度一覧(角度が大きい順)
ボトルキャップを開けるまでに回す角度一覧(角度が大きい順)

ペットボトルは一周半

ざっくりいうと、ペットボトルは一周半、ビンは1周、エビアンは半周。これで間違いない。「イチゴがペッとビンゴ一番、賞品はエビ半分 」と覚えよう。(イチゴ(1.5周)がペッと(ペットボトル)ビンゴ(ビン)一番(一周)、賞品はエビ(エビアン)半分(半周))。

これだけ同じ角度が頻出するということは、規格化されているのだ。ペットボトルのフタに関しては、「Alcoa 1716」とか「PCO 1810」とかいう規格があるらしい(ライター馬場さん情報)。今は後者の方が主流のようだ。

キャップ開けは物語である

エビアンを除くペットボトルの中では、トロピカーナだけ角度が違う。実はトロピカーナはそれ以外にも独特な点があって、回し始めて180度くらいのところに引っかかりがあるのだ。
このへん
このへん
ぐっと力を入れて回し始め、その後いちど軽くなりフタ開けは軌道に乗ったように思えるが、半周目で急に重くなる。再びグググと手に力を込めてそこをのり越えるとまたフッと軽くなり、あとは開栓まで一直線。スランプを乗り越えて強くなる、アスリートの人生のようなボトルキャップなのだ。

そう、ボトルキャップには物語がある。

そういう意味ではコーラもひとドラマある。
500mlボトルは回し始めて150度くらいでシューッと気が抜け始め、200度で「プシュッ!」と音を立てて一気に抜ける。開栓の角度495度を平均寿命の80才とすると、それぞれ25才と33才だ。

就職か音楽か悩んだ末に音楽を選んだ若者が、スカウトの目にとまり25才でメジャーデビュー。しかしなかなかヒットは出ずバイトをしながら細々とガスを抜きながら暮らすこと8年。そろそろ音楽はあきらめ時か…と思われた33才、何気なくYoutubeにアップした新曲がネットで話題となり大ブレイク!大金を手にしたことで気持ちのガスも一気に抜けてしまい、音楽は引退、印税で悠々と暮らす…。

そんな人生だ。
偶然ですが筆者も33歳です
偶然ですが筆者も33歳です

いまのは500mlのコーラの話。300mlのコーラにも同じくシュー&プシュッがあるのだが、それぞれ90度、180度と大きいコーラよりタイミングが早い。
大きいコーラとミニコーラは角度が同じなのでキャップは流用かと思ったら、裏の色が違う。
大きいコーラとミニコーラは角度が同じなのでキャップは流用かと思ったら、裏の色が違う。
よく見るとボトル側に残るリングの形も違って、ミニボトルの方が角が丸い
よく見るとボトル側に残るリングの形も違って、ミニボトルの方が角が丸い
300mlボトルのシュー&プシュッは、年齢にすると14歳と29歳。14歳のデビューはシンガーソングライターとしてはちょっと早い気がするし、こちらはアイドルグループのメンバーといったところだろうか。14歳で事務所に入ってから、29歳でブレイクするまでの下積み生活はなんと15年。執念を感じる人生である。

もう一つ、特筆すべきはコーヒー。270度回したあたりから、周囲に一気にコーヒーの香りが広がる。42才。40過ぎて急に色気づく感じは、5年ほど前に流行ったちょいワルオヤジみたいである。

エビアンの秘密

ところで、他のペットボトルが軒並み500度前後で開く中、ひとつだけ200度という驚異的な開きやすさを持つ、エビアン。
ここで既に開いている
ここで既に開いている
一体何でこんなことに。

その秘密は、ボトルの口にあった。
これはコーラ
これはコーラ
こっちはエビアン
こっちはエビアン
ネジの形の違いがわかるだろうか。絵で描くとこうだ。
他のボトルはネジの溝が1本のらせん
他のボトルはネジの溝が1本のらせん
エビアンは短いらせんが3本!
エビアンは短いらせんが3本!
特殊な形状の溝によって、短い回転数でもキャップをしっかりホールドする仕組みになっているようだ。このネジの形を、多条ネジというらしい。すごいなこれ。

……地味な記事で大して書くこともないかと思われたが、調べてみるといろいろと興味深い事実が出てくるものである。
派手な部屋で真顔の調査
派手な部屋で真顔の調査

飲み物以外のボトル

おまけとして、飲み物以外にも家にあるボトルの口をいろいろ調べてみた。
キャップを開けるまでに回す角度一覧(角度が大きい順)
キャップを開けるまでに回す角度一覧(角度が大きい順)
こうして見ると、飲み物はビンやペットボトルなどボトルの種類でだいたい同じ値が出ていたのに対して、こちらはバラバラである。どうやら規格化されているのは飲み物のボトルだけらしい。

なかでもとにかく圧倒的なのは豆板醤。10度回しただけである。ここまで浅いと、回すというよりは「ずらす」という感じだ。中身が液体じゃないからこそ、漏れにくさより開きやすさに注力できた結果だろう。ちなみにこれもエビアンと同じ多条ネジだった。

チューブのショウガもなかなかの浅さだが、豆板醤の前では霞む。ただこちらは70度のあたりに「カチッ」というクリック感がついており、開ける際の快感が高かった。フタの良さもいろいろである。

無意識の数字

いつもたしかに自分の手でキャップを回してるにもかかわらず、その動作があまりに無意識なため、周回数まで覚えていない。そういうことが生活の中にたくさんある。駅の階段の段数、自宅住所の文字数、靴の重さ……。

しかし一度調べてしまうと、ペットボトルを開ける時にいちいち「1周半回すぞ!」と意気込んでしまうなど、妙に意識してしまうものだ。一度意識し始めるとついついそのことを考えてしまう。後戻りもできない。これは恋に似てはいないだろうか。(別に似てないし、似てたところでなんなんだ)
この原稿もパーティールームで書きました
この原稿もパーティールームで書きました
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