特集 2013年5月7日

あらかじめ録音してきたカラオケ大会

あらかじめ家で歌ってきたカラオケ大会
あらかじめ家で歌ってきたカラオケ大会
カラオケってけっこうしんどい。

思ったより体を使うし、宴会中ではうまく歌えないことも多い。人前で歌うことも精神的に消耗する。

もう録音してきたテープをながせばいいんじゃないかとさえ思う。

"さえ思う"ような極端なことを実際にやるのはどうなのだろうと思いながらも、あらかじめ録音してきたカラオケ大会を開催しました。
動画を作ったり明日のアーというコントの舞台をしたりもします。プープーテレビにも登場。2006年より参加。(動画インタビュー)

前の記事:そば打って泣く!熱闘そば打ち甲子園

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

進んだ文明におけるカラオケ

どうやら未来の人間は脳と指だけになるらしい。世の中が便利になるにつれ、私たちの身体性はどんどん失われていくのだ。

未来のカラオケもきっと歌わずに音声ファイルを流して終わりだろう。

今やろうとしているのはその未来のカラオケだ。見向きもしないテレビ電話にしてもそうだが、未来って今やその辺にごろごろ横たわっているのである。
写真からにじみ出るしんどさ、これが現代のカラオケである
写真からにじみ出るしんどさ、これが現代のカラオケである

今やカラオケは携帯で

しかしどうやって自分のカラオケを録ってくればいいのか。悩んでいたら、詳しい人から「スマートフォンでできますよ」と教えてもらった。

iPhoneやAndroidにカラオケアプリがあるらしい。一つ試してみたら思わず熱唱になった。ややっ。こういうの、よくできてる。

有料版だと録音ができるらしくちょうどいい。このアプリを使えば"あらかじめ録音してきたカラオケ大会"が実現できる。

カラオケJOYSOUND+(plus)
今はスマートフォンのアプリでカラオケができる。意外と熱唱にいたる
今はスマートフォンのアプリでカラオケができる。意外と熱唱にいたる

実際にやる面倒さ

使ったアプリのジョイサウンドに記事にしていいかと聞いてみたところ、お店もジョイサウンドをぜひとのこと。ということでジョイサウンドの店を予約した。

店をとり人をあつめてアプリの説明してお店では携帯の音を流すセッティングをしてもらう。……ふつうのカラオケより一手間も二手間も多い。

デイリーポータルZの記事の背景をよくご覧いただきたい。真っ白かとおもいきや、「本末転倒」の四文字がいつもうっすら見えることだろう。
左からデイリーポータルZの藤原、平野、編集者の前田、その友人ヒロエ。右二人は録音してこなかったが知り合ってまもないため断れなかった。
左からデイリーポータルZの藤原、平野、編集者の前田、その友人ヒロエ。右二人は録音してこなかったが知り合ってまもないため断れなかった。

各自歌を入れてきた

デイリーポータルZライターの藤原と平野には歌を入れてきたもらった。

募集をかけたときにおもしろそうだから行きたいと編集者の前田さんとハガキ職人のヒロエトオルさんもついてきた。

彼らは「携帯がアプリに対応していない」「歌を入れてくるヒマがなかった」という無能の二人であったが大人の事情(※)で参加。

※知り合ってまもないのでむげに断れなかった
デイリーのライター平野は嫁さんが会社に行ったあと朝にこっそり録ったらしい
デイリーのライター平野は嫁さんが会社に行ったあと朝にこっそり録ったらしい
パジャマ姿で歌うは藤原。「EPOの『うふふふ』を歌ってたら窓が全開でした」だそうだ
パジャマ姿で歌うは藤原。「EPOの『うふふふ』を歌ってたら窓が全開でした」だそうだ
ピントもあわないほどの熱唱。チャイムが鳴る
ピントもあわないほどの熱唱。チャイムが鳴る
「お荷物で~す」宅急便がやってきた
「お荷物で~す」宅急便がやってきた
ヘッドフォンから流れる自分の歌声
ヘッドフォンから流れる自分の歌声

宅配便がやってくる

歌は各々家で録ってくる。全力で歌う状態はたとえ家でも無防備である。

熱唱してヘッドフォンでチェックしていると宅配便がやってきた。応対している間、ヘッドフォンからは自分の歌声が流れていた。

この恥ずかしさ、B'zの稲葉本人もあじわってるのかしらと思いながら受け取りのサインをした。
こうして録ってきた5曲は育ててきたポケモンのようなもので、携帯が大事に思える
こうして録ってきた5曲は育ててきたポケモンのようなもので、携帯が大事に思える
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スピーカーに携帯をつないで、歌を流す。あらかじめ録音してきたカラオケ大会スタートである
スピーカーに携帯をつないで、歌を流す。あらかじめ録音してきたカラオケ大会スタートである

あらかじめ録音してきたカラオケ大会、スタート

乾杯もそこそこに平野から曲を流すことになった。携帯をスピーカーにつないで録音ファイルを再生する。

音楽がながれると初対面の気遣いからか手拍子が発生した。曲は『北国の春』。予想外の演歌だ。
本人も照れくささからか饒舌になる
本人も照れくささからか饒舌になる
当日一発目。ためしに録ったのでボソボソしてるとのこと 『千昌夫 北国の春』

いいわけが口をついて出る

「(携帯に口をつけて)こうやって録ったんです……」流れると同時にいいわけを言う平野。

「これは最初に録音したやつで……」
「嫁さんが会社に行ったあとひとりで……」
きかれてもないことを一人でしゃべる。

気まずさ。カラオケから歌をとりあげられ、自分の歌を正面から聴くこと。それはむきだしの自意識にふれることに他ならないのだ。
そしてドリンクを飲むペースもはやくなる
そしてドリンクを飲むペースもはやくなる
自分の番、腕組みは基本姿勢だ
自分の番、腕組みは基本姿勢だ
むだに空調をきづかったりもする
むだに空調をきづかったりもする
耐えろ、耐えろ自意識……
耐えろ、耐えろ自意識……

見つめる人びと

あらかじめ録音されたカラオケにおいて定番となる行動が発見された。ドリンクを飲み干したあとにジョッキをしげしげと見つめるのである。
あらかじめカラオケにおいて定番となる行動がひとつ発見された。それがジョッキをしげしげと見つめるというものだ。
あらかじめカラオケにおいて定番となる行動がひとつ発見された。それがジョッキをしげしげと見つめるというものだ。
見る。人は見る。妻の実家に行ったとき、人はお茶菓子の裏の成分表を見る。

(ふむふむ、そば粉は入っていないのか……)

そばアレルギーなど一切ないにも関わらずだ。

手持ちぶさたここに極まれり。カラオケで人から歌をとりあげるとジョッキを見ることがここに判明した。
食品の成分表などと同等のあつかいだと思われる
食品の成分表などと同等のあつかいだと思われる
無言でかわされる視線のやりとり……こうした繊細な人間関係が浮き彫りになるのもあらカラの特徴だ
無言でかわされる視線のやりとり……こうした繊細な人間関係が浮き彫りになるのもあらカラの特徴だ
むき出しの自意識にふれること。はたしてそれは娯楽なのだろうか。修行じゃないのか、修行じゃ。

こうした葛藤は見ている側にも起こる。

テレビ画面に歌詞が出てないのだ。これは盛り上がりづらい。かわりに通信カラオケのおまけ画面として小坂明子(※)の近況報告が出ていたりする。

「……だれだっけ?」
「ほら、『あなた』の」

こうした話の背景として藤原が歌ってきたCoccoがむなしくひびいている。

※『あなた』で有名なシンガーソングライター
信じられないかもしれないがカラオケしている写真がこれだ
信じられないかもしれないがカラオケしている写真がこれだ
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ルルル~♪ スキャットをちゃんと歌う

一方、あらかじめカラオケにおけるメリットとは曲の完成度が高まることだろう。

まず昼間に録れるのでノドの調子が良い。さらに何度も録り直せる。そして家に一人なので萎縮せずに歌えるのだ。

たとえばカラオケには"ルルル~♪といったスキャット部分をちゃんと歌うかどうか"問題がある。

そもそも歌手が調子にのってアドリブを入れた部分である。歌詞が書かれてないこともあるし、"Truru……"といったなぞの歌詞で表記していることもある。

なんなんだTruruって。調べたらイギリスの先っぽが出てきた。そんな知らんとこ歌わされてたのか。

[参考] wikipedia "Truru"
はりきって歌ってきたスキャット部分だが、現場では自意識との戦いとなる 『小沢健二 大人になれば』
そんな得体のしれない地方金輪際歌うか、とお思いだろう。

これがあらかじめ録音してきたカラオケ大会ではみなきっちり歌ってくるのだ。なんせ家に一人だから。

"フェードアウトで終わる曲をどこまで歌う?"問題も同様である。こちらは、曲が終わっても歌いつづけた。

原曲を超えるくらい完成度高めてこれるのはあらカラのメリットである。
曲を用意してこなかった二人は盛り上げ要員でがんばっていた
曲を用意してこなかった二人は盛り上げ要員でがんばっていた
しかしもっとも盛り上がったものでもこんな感じである 『ユニコーン 大迷惑』

満足感も一応ある

こんなカラオケでも歌が評価してもらえるとやはりうれしい。

手拍子やタンバリン、「この歌好きなんですよ」「いい歌だな~」といった言葉はやはり気持ちがいい。

しかし一般的なカラオケとちがい、どこか他人ごと。自分の兄をほめられているような感じがなにかあるのも事実だ。
選曲がいいと評された藤原 『SIAM SHADE 1/3の純情な感情』
歌ってこなかった前田がその場で上着かぶって録音しだした。がなり声のウルフルズが服の下から聞こえる。
歌ってこなかった前田がその場で上着かぶって録音しだした。がなり声のウルフルズが服の下から聞こえる。
部屋には録音されてきた歌と、服をかぶって歌う声がひびく。はたしてこれがカラオケなのかどうか
部屋には録音されてきた歌と、服をかぶって歌う声がひびく。はたしてこれがカラオケなのかどうか
そうして苦労して歌ってきたものにこのリアクション。録音してたときに横にいたので完全に冷めている。 『ウルフルズ ガッツだぜ!!』

作りこんでくる

新しい文化もある。"作りこみ"である。歌の完成度を高めるだけでなく、どんどん足していくのだ。

たとえばものまねがそれだ。ものまねを人前でやるのは恥ずかしい。しかし家で一人ならいくらでもできる。

しかも歌うだけでは飽きたらず、調子に乗ってものまねでセリフを入れたりもする。もはやカラオケではなくてものまね紅白歌合戦スタイルである。
『ハナ肇とクレイジーキャッツ スーダラ節』勝手につけたセリフは以下。
「(Aメロはじまる)アッハッハッハッハッ、ハッハッハッハッ、いや~ね、おかしくってしようがないですよ。そんなしけたことなんて言ってられないでしょ。

この平等(たいらひとし)が来たからには今までの売り上げの二倍、三倍、いや十倍にだってしてみますよ。

えっ!? するってーと、あなたが部長さん? な~んだ、部長さんってのも人がわりいや、イ~ヒッヒッヒッ!! (以降、サビを歌う)や~めら~れない、あ、そ~れ……」

終了後、まったくつかれていない

「のどが全然つかれてない……」

カラオケ大会終了後、さあ帰るかとなったときにみな体の調子がやたらいいことに気づいた。まったく疲れていないのだ。

当然である。BGMを聴きながらドリンクを飲んだだけなのだ。そしてそれは「カラオケがしんどいから」とした当初の目的どおりのものである。

この疲れてなさ、自ら望んだこととはいえ大きな違和感がある。会はおわったというのに、納得のいかなさが茫洋と広がる大海原に漕ぎ出す気分だ。
全くつかれてないうえに遊んだ気もしないので終業時間がきたかのような解散である
全くつかれてないうえに遊んだ気もしないので終業時間がきたかのような解散である

死後のカラオケではないか

参加者の藤原は「となりの部屋のカラオケを聴いている感覚に近い」と言う。

たしかにその感覚はある。自分であって自分でない感覚。これは幽体離脱にちかいのではないか。

たとえばご先祖さまが部屋の隅から自分の子孫のカラオケを見守っているのがこんな感じじゃないのか。7代も8代も前の大北栄左衛門さまが子孫栄人のB'zを聴くのである。それは思わずジョッキを見つめるというものだろう。

早かった、私たちには。あらかじめ録音してきたカラオケ大会は人類には早すぎたのだ。

それはそうとご先祖様も大切に。
トイレで録音しようとしていたが止めた
トイレで録音しようとしていたが止めた

取材協力

JOYSOUND渋谷南口駅前

東京都渋谷区道玄坂1-3-1 渋谷駅前会館 (受付9F)
TEL: 03-5428-6016
営業時間: 全日 11:00~翌6:00
http://shop.joysound.com/shop/joysound-shibuyaminamiguchi/
編集部注:今回の撮影はお店に許可を得て行なってます。

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