石仏が好きだ。 いきなりの告白だが、最近すっかり石仏の魅力にはまってしまっている。 木彫りや金属の仏像は、そりゃもちろん美しいと思うが、石でできた仏像の、シンプルなたたずまいがまたいいのだ。 石仏は屋外で長年風雨にさらされて、苔むしたりすり減ったり破損したりしているのだが、それが表情に味わいを出している。 そんな石仏にぞっこんなのだ。 というわけで本日は、東京都内で石仏散策をしてきた。
(工藤 考浩)
石仏とは
石仏に正確な定義があるのかどうかよくわからないが、僕は「石でできた信仰の対象」というふうに認識している。 「仏」という字がついているが、仏教に限らず、広い範囲でとらえている。 なぜならその方がおもしろいから。 なので、僕の中では神社にある狛犬も「石仏」だし、石材店の前なんかにあるアンパンマンやドラえもんの石像も、それがたとえば小さな子供が亡くなったお墓のそばに供えられれば石仏だと解釈する。
きっかけ
僕が石仏に興味を持ったきっかけは、今から6年くらい前に、長野県下諏訪町にある「万治の石仏」というのを見た時だ。 かの岡本太郎がこれを見て絶賛したというので、何となく行ったのだが、その姿に圧倒されてしまった。 上の写真がそれだが、どこかコミカルなバランスで、一度見たら一生忘れないようなインパクトがある。 このときに「すげーな、石仏」と感動したのだが、その熱に再び火をつけたのが、昨年取材した安曇野の道祖神だ(→こちら)。 庶民が信仰する石仏の、独特の親しみやすさにすっかりまいってしまった。
東京にもあったんだ
取材からかえっていろいろ調べていたら、東京にもたくさんの石仏が残っていることがわかった。 それが「江戸・東京 石仏ウォーキング(日本石仏協会編・ごま書房)」という本に紹介されているので、それを手に石仏散歩をしてみた。
東京タワーと石仏
まず最初に向かったのは、東京タワーのすぐそばにある徳川家の菩提寺「増上寺」だ。 取材の日はまだ松の内で、初詣の人で賑わっていたが、石仏のあるという人気のない裏手の方にまわった。
本堂の向かって右手に西向観音という立派な仏像があるのだが その隣に石仏があった。 三体並んでいるが、真ん中の大きいのは、先ほどの本によると大変珍しい物らしい。 何が珍しいのかはよくわからないが、知ったかぶりして「ふーむ」と眺めた。 左のいちばん小さい石仏は「享保」という刻印が読めるので1700年代前半の石仏だろうか。 小柄なのにくわっとした、濃い顔だ。 真剣みがある表情なので、御利益がありそうだ。 ちなみに僕はそんなに困っていないのに困っているふりをするときに、こういう顔になる。
崖に石仏
増上寺から東京タワーに向かった。 本には載っていなかったのだが、タワーのすぐ下にも石仏があった。 タワーの土台の脇にちいさな崖があり、そこに服を着せられた石仏が数体並んでいる。 最初はホームレスの人がたたずんでいるのかと思ったが、それにしては小さすぎるのでよく見ると石仏だった。
石仏には屋外にあって誰でも間近に見られるという良さがあるのだが、外は寒いということなのだろうか、服を着ている物も多い。 服を着ていると姿が見えないので鑑賞する側としては困った物だが、そもそも鑑賞対象の前に信仰の対象なので仕方がない。 それに、服を着ているが故の楽しさもある。 下の写真右側の石仏は、なぜか毛皮のコートを着ていて、美川憲一さんみたいになっている。 そう思ってみてみると、髪型とか表情まで似て思えてくる。