特集 2016年1月24日

書き出し小説大賞・第90回秀作発表

!
書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


前の記事:書き出し小説大賞・第89回秀作発表

> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

今年の芸能界は立て続けに大事件が起きる。SMAP生謝罪の件では、翌日のワイドショーで聞いた七十代男性の感想が印象に残った。「こんなにテレビに釘付けになったのは浅間山荘以来!」……死者が出なくてよかったと思う。

それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう!

書き出し自由部門

嘘つき村は実質的に正直村だ。
くのゐち
赤ちゃんの頃から腹筋で起き上がっていた。
くのゐち
これは、あの時告白できた、もう一人のあなたの物語。
よしおう
意識が戻った。母にかけられたのはジャーマンスープレックスだったと思う。
空想庭園
あいつは他人の心象風景に土足で上がり込んで、わけの分からない種を蒔いていった。
Mch
どの平行世界でも公園のごみ箱だけは変わらなかった。
Mch
悪意をくるめば、オブラートも苦かった。
山ノ木千代子
壊されるためだけのものを作り、お金を頂いている。
たこフェリー
園内にアナウンスが響く。15時から象が糞をするらしい。
義ん母
黙ったと思ったら、今度は咀嚼音がうるさい。
xissa
父の心電図をみて、再び週刊誌に目をおとした。
TOKUNAGA
彼女は寂しげにWと打った。
TOKUNAGA
痰の味が変わり、風邪がもうすぐおわってしまうことに気づいた。
ocamo
終わりを拒絶するように女子高生のおしゃべりは続く。
正夢の3人目
重要な局面において、繊維が目に入った。
まじいい
耳元の生ヨーデルで目覚めた。
茂具田
彼女がする四等分ほど、不平等な物を見たことがない。
ねもっ血風クン
失業したばかりのサラリーマンの放尿が、雪を溶かしていく。
ボーフラ
こんなドブ川にも小魚がいる。大量の義歯が沈んでいる。
ボーフラ
春はまだ来ない。蛙は無い首を長くして待っていた。
嶋夏子
くのゐち氏「赤ちゃんが~」すごくシンプルなネタながら想像すると面白い、というか怖い。この調子なら小学校へ上がる前にひとり暮らしできるだろう。空想庭園氏「意識が戻った~」映画や小説には失った記憶を取り戻すという物語は多くある。長編にもなりえるテーマを極力コンパクトに、しかもくだらなく仕上げた秀作。Mch氏「あいつは~」他人の心象風景に土足で上がり込み~こういう言い回しがひらめくとしめたものだと思う。たこフェリー氏「壊されるためだけ~」撮影用のビール瓶とかだろうか。読み手の想像によっては深い話になる。TOKUNAGA氏「父の心電図~」ドラマに出てくる心電図がいつも異常を示すとは限らない。ふつうは省略するくだりにこそリアリティは潜んでいる。まじいい氏「重要な局面~」重要な局面において研ぎ澄まされた感覚が、まったく関係ない方向に向けられたようだ。ボーフラ氏「こんなドブ川にも~」ドブ川と義歯だけならただ気持ち悪い文章で終わっていたと思う。そこに小魚を生息させることで忘れがたい不快さを生んでいる。
今回の自由部門はくのゐち氏、Mch氏、TOKUNAGA氏、ボーフラ氏が二本採用。ふたつ並べるとより作家の個性がより浮き出る。

続いては規定部門。今回のモチーフは「四国」であった。出身者の私でさえあいまいな四国のイメージに、書き出し作家たちはどんな形を与えたのだろうか。ご覧頂きたい。

規定部門・モチーフ「四国」

電話中、何気なくメモに書いた模様は四国と一致した。
偶数の指達
縁起が悪いのでもう一国作ろうかという話も出ている。
くのゐち
形だけのオーストラリア旅行は、うどんが美味かった。
やまと
私はふと我に返り、足元のうどんを啜った。
足元のうどん。
香川のカウボーイが振り回しているのは縄ではなくうどんだ。
伊勢崎おかめ
「こんぴらふねふね」の真ん中あたりは、誰しも声がちいさくなる難所である。
xissa
助手席の彼女に一瞬目をやった。彼女にとってこれが最後のうどんになるだろう。
9号室
俳句ポストの中から街を見ている。
バイン
ぼっちゃんぼっちゃんうるさい。
xissa
妻の語尾がぜよに変わったが、まだ愛媛だ。
義ん母
四万十川を泳ぐ人魚に、生き別れの妹の面影を見出した。
あつし
安本が「日本の夜明けぜよ」と叫ぶたびに暗い朝が始まる。
もんぜん
メスの土佐犬雅姫号の月経が突然始まり、闘犬大会第二試合は中断された。
伊勢崎おかめ
夜も更け、テンポが落ち、阿波踊りはチークになった。
アイアイ
ニート連。阿波踊りに、今どきっぽい連が加わる。
カイパン
「死国のお土産楽しみにしてて」彼女のメールは僕を震えあがらせた。
小夜子
「瀬戸大橋、封鎖できません!!」コートの襟を立てて叫んでみた。
あだんそん
札所巡りのDVDを、八十八のチャプターに分ける。
紀野珍
勢いで八十九箇所目を巡っていた。
g-udon
「SHIKOKU NO OWARI」というコピーバンドのボーカルが下の階に住んでいる。
prefab
たぶん、いいところだ。
まじいい
出身者としては口惜しいが、キャラが薄いことがキャラ、四国のポジションは結局そこに落ち着くことが再確認できた。それでもなんとか作品をヒネり出してくれた書き出し作家の諸君に感謝したい。偶数の指達氏「電話中~」神様の電話中の落書きが四国を生んだのかもしれない。足もとのうどん氏「私はふと~」香川県の道には軍手以上にうどん玉が落ちている。バイン氏「俳句ポスト~」正岡子規を生んだ愛媛には各所に俳句ポストなるものが設置され、思いついた俳句を投函できるという。妖怪ポスト、赤ちゃんポストと並ぶ、郵便以外の三大ポストと言える。もんぜん氏「安本が~」高知県民すべてが龍馬的なキャラではないはず。夜型のニートだっていると思う。アイアイ氏「夜も更け~」踊る阿呆と見る阿呆が寄り添って……。紀野珍氏「札所巡りの~」それ以外考えられないチャプター分けだと思います(笑)prefab氏「SHIKOKU NO OWARI」ピエロ役はお遍路姿で。まじいい氏「たぶん~」いいところです。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
芸能人
冒頭でも書いた通り、今年の芸能界は立て続けに事件が起こった。そこで次回のモチーフは「芸能人」とした。実在の芸能人をモチーフにするもよし、架空の芸能人でもよし。ただし実在の芸能人を揶揄する作品は控えて欲しい。とはいえ次回はネタ大会になるのは間違いないだろう。笑える作品を期待しています!締め切りは2月5日正午、発表は2月7日を予定しています。下の応募フォームから規定、自由を選びご応募下さい。力作待ってます!
最終選考通過者
Puzzzle/東ことり/TL125/かずしげ/ミミズグチュグチュ/kokei/公共の八尾/松っこ/EVI'S/マメピー/おうぇ/たくま/ヘリコプター/ゆりやま/亜子/ぴり/morin/KoReKiYo。/にら将軍ハルナ/
▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←
ひと段落(広告)

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ