特集 2016年2月16日

タイに惚れこんだ男の立ち飲みタイ料理屋、ひょうたん

近所にできてほしい店をまた見つけました。
近所にできてほしい店をまた見つけました。
先日、東京都北区十条にあるタイ人が経営する居酒屋フォーマットのタイ料理屋「イサーン」を紹介したが(こちらの記事)、練馬区の練馬と江古田には「ひょうたん」という日本人が経営する立ち飲みタイ料理屋があるそうだ。

タイ料理×立ち飲み=ひょうたん。これまた謎が多い方程式だなと、ひょっこり西武池袋線へと乗りこんだ。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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「ひょうたん」という名のタイ料理屋へ

まだ明るい時間に江古田駅へと到着。目指すは漢字で「福道」と書いてひょうたんと読むタイ料理の立ち飲み屋。その名の由来は理解した範囲で後ほど紹介する。

ひょうたんは一号店の練馬店と二号店の江古田店があり、今回やってきたのはオーナーがこの日に出勤していた江古田店。こちらは昨年夏にオープンしたばかりとのこと。
江古田駅で練馬らしい区報をゲット。
江古田駅で練馬らしい区報をゲット。
お店を案内してくれるのは、江古田に20年以上住んでいたことがあり、現在も練馬区在住だというライターの安田理央さん。

練馬店を行きつけにしており、江古田店は今日で2回目。ひょうたんは「タイ料理屋」としてではなく、「居心地の良い飲み屋」として利用しているそうだ。
「昔はコンパっていう形態の店がたくさんあったんだよ。残っているのはここだけかなー」と、風俗史に詳しい安田さんの解説を聞きながら店へと向かう。
「昔はコンパっていう形態の店がたくさんあったんだよ。残っているのはここだけかなー」と、風俗史に詳しい安田さんの解説を聞きながら店へと向かう。
安田さんと会うのはまだ二回目。共通の知り合いの話などで距離感を詰めながらしばらく進むと、日本の文化にはない派手さを放っている店があった。

ここが「福道」と書いて「ひょうたん」と読む、立ち食いスタイルのタイ料理屋のようだ。
居抜き物件感満載!
居抜き物件感満載!
ひょうたんのとっくりから生ビールが出てきたらどうしよう。
ひょうたんのとっくりから生ビールが出てきたらどうしよう。

見慣れた間取りに見慣れぬ内装

異国への扉をくぐる気分で入店すると、そこは確かに日本の立ち飲み屋フォーマットで営業するタイ料理屋だった。

見慣れた間取りなんだけれど全然違う、同じ団地に住む留学生の家みたいな違和感。キンミヤのボトルなど隠しきれない日本っぽさに安らぎを覚える。
壁がピンク!写真を白黒にしたら普通の立ち飲み屋に見えるかもね。
壁がピンク!写真を白黒にしたら普通の立ち飲み屋に見えるかもね。
カウンターに並ぶ大皿料理が、里芋の煮物やポテトサラダじゃないんですよ。
カウンターに並ぶ大皿料理が、里芋の煮物やポテトサラダじゃないんですよ。
でもずらっとキープされているのはキンミヤ焼酎だったりする。
でもずらっとキープされているのはキンミヤ焼酎だったりする。
これでキンミヤ焼酎を割って飲みたい。
これでキンミヤ焼酎を割って飲みたい。
タイにもエイヒレってあるのか!
タイにもエイヒレってあるのか!
味が予想できない海外のスナック菓子で飲めるっていいよね。
味が予想できない海外のスナック菓子で飲めるっていいよね。
日本とタイが国際結婚したみたいな立ち飲み屋である。なんだか聞きたいこと、突っ込みたいことだらけ。

さっそくパクチーが好きそうなオーナーに話を伺ってみた。
タイに惚れこんだオーナーの岡沼さん。ベストがかっこいいですね。
タイに惚れこんだオーナーの岡沼さん。ベストがかっこいいですね。
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タイが好きでタイ人と結婚したオーナー

オーナーさんは……日本人ですよね。タイとの御縁はどこからですか?
28歳のときに観光で初めてタイに行ったら、温かくて、治安も良くて、物価も安かった。それ以来、飛行機代を貯めてはタイに行くようになったの。当時の滞在費なんて一か月3万円くらいかな。
安い!
年に3、4回行っているうちに、現地で知り合ったのが今の女房。いきつけの床屋で毎日シャンプーしてもらってたの。
まさにタイに惚れこんだ訳ですね。
奥にはテーブル席も有り。カウンターがいっぱいでも、こっちは空いてることも多いとか。
奥にはテーブル席も有り。カウンターがいっぱいでも、こっちは空いてることも多いとか。
遅れてやってきたもう1人の練馬区民の大木さんを交えて、ホッピー、トマトサワー、香酎ハイで乾杯。
遅れてやってきたもう1人の練馬区民の大木さんを交えて、ホッピー、トマトサワー、香酎ハイで乾杯。
パクチーの根を漬けた焼酎を割った香酎ハイは、どこか薬膳っぽい香り。
パクチーの根を漬けた焼酎を割った香酎ハイは、どこか薬膳っぽい香り。
この立ち飲みタイ料理店をはじめたきっかけは?
日本のタイレストランって、自分がお客の立場だと1人で入りにくいじゃないですか。一品が高いから、数人で行かないとにいろいろ食べられない。それをなんとか解消できないかなーって。
確かに1人だと一品くらいしか食べられませんね。
なら小皿でだせばいいと。でもレストラン形式だとテーブルが大きいから小さな皿じゃ居心地も効率も悪い。なら日本スタイルの立ち飲みにしちゃったほうがいいんじゃないかなっていう簡単な発想。
なるほどー。もともと飲食業をやられていたんですよね?
いや、この前はタクシーの運転手。
え?
は!
練馬の店を始める直前までね。その前はサラリーマンやったり、古物商やったり。練馬店は今年の6月で丸6年かな。毎年やっているボーリング大会も6回目だよ。
なかなか波乱万丈ですね。失礼ですがおいくつですか?
いま61歳。65歳になったらタイ中心の生活にしたいな。この店はやりたいやつがやればいいから。
オーナーの趣味はボーリングらしい。
オーナーの趣味はボーリングらしい。
飲みではなく食事でもよさそうだ。徒歩圏内にぜひ欲しい。
飲みではなく食事でもよさそうだ。徒歩圏内にぜひ欲しい。
耕運機を注文するボケをするべきか迷うなー。
耕運機を注文するボケをするべきか迷うなー。
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タイ北部の料理も知ってほしいからと江古田店をオープン

練馬店と江古田店の違いって何かあるんですか?
タイも広い国なんで、地域によって味が違う。その違いをなんとか食べてほしいと思って2店目を出したの。練馬店はタイ東北部で、江古田店は北部の料理。
へー。出している料理が違うんですね。
それは知らなかったなー。
もちろん同じ料理もあるけどね。練馬店はイサーン出身のコックで、江古田店はチェンライ出身。バンコクのレストランで出すようなタイ料理ではなく、地方の家庭や屋台で昔から食べている味にこだわっています。
そりゃハシゴしなきゃダメですね。練馬と江古田でタイを半分回れるなんて素敵過ぎます。
たとえばガッパオなら、練馬は鶏の挽肉だけど、江古田は豚の挽肉。レッドカレーは練馬が甘くて江古田が辛い。グリーンカレーはその逆。現地に行かないとわからない味の違いがあるんですよ。
江古田店はタイ北部のチェンライ料理で、練馬店は東北部のイサーン料理。
江古田店はタイ北部のチェンライ料理で、練馬店は東北部のイサーン料理。
江古田店のフードメニュー。「北の」という文字とタイ料理の組み合わせがかわいい。
江古田店のフードメニュー。「北の」という文字とタイ料理の組み合わせがかわいい。
ネームピッカイ。ネームはタイのハムなので、ハム味の手羽先なのかな。食べると確かにハムっぽい味。
ネームピッカイ。ネームはタイのハムなので、ハム味の手羽先なのかな。食べると確かにハムっぽい味。
タイの醤油を使った甘い味付けのスペアリブ。
タイの醤油を使った甘い味付けのスペアリブ。
しっかりと酸っぱくてちょっと辛いパクチーサラダ。
しっかりと酸っぱくてちょっと辛いパクチーサラダ。

お客さんのリクエストで増えていったドリンクメニュー

飲み物はタイのお酒以外にも、ホッピーやら豆乳サワーやら、いろいろありますね。
タイのビールとか焼酎が中心なんだけど、お客さんの好みはいろいろだから、そこはリクエストにお応えしてね。お客さんの立場で考えて、この地に溶け込んで、居やすい空間を作る!
さすが日本の酒飲みの心がわかってる!
俺なんてホッピーしか頼んだことないから!
まあ私は酒を飲まないんで、流行りはお客さんが教えてくれるんですよ。中野でこれ流行っているよとか。
はい?
飲めないの!
売るけど飲まない!
こんな飲み屋を作っておいて!
私は食べる方!甘党!
ドリンクメニューはタイと日本のハーフ。常連ほどタイのドリンクを頼まない。
ドリンクメニューはタイと日本のハーフ。常連ほどタイのドリンクを頼まない。
カレー味の焼き鳥、ガイサテ。こりゃホッピーと相性いいでしょうよ。
カレー味の焼き鳥、ガイサテ。こりゃホッピーと相性いいでしょうよ。
ミルク味の焼き豚串、ムーピンノムソッは屋台の定番だとか。ココナッツミルクかと思ったら豆乳だそうです。
ミルク味の焼き豚串、ムーピンノムソッは屋台の定番だとか。ココナッツミルクかと思ったら豆乳だそうです。
川魚の干物を揚げたプラコーン。カリッカリの歯ごたえとちょっとクセのある風味が好み。
川魚の干物を揚げたプラコーン。カリッカリの歯ごたえとちょっとクセのある風味が好み。
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店名の由来を聞いてみた

ところで「福道」と書いて「ひょうたん」と読むタイっぽくない店名の由来は?
そういえば友人に、「ふくみちっていう飲み屋知ってます?」って聞かれましたよ。それ、俺のよくいくひょうたんだよって。
中国の雲南省に二度ほどいったんですけど、そこの地域は福道でひょうたんって読むんですよ。おもしろいでしょ。
まさかの中国語だ。
あとね、サラリーマン時代の上司の奥さんが、ひらがなで「ひょうたん」っていう居酒屋をやっていたんですよ。そこがすごく雰囲気のいい店で、それにあやかろうと。その二つですね。
どっちもタイと関係ないですね。
ははは。でも迷うことなく福道(ひょうたん)。だからスペイン料理でもなんでも福道になったんだろうね!
辛い料理に備えて豆乳バナナサワーを注文しておこうかな。
辛い料理に備えて豆乳バナナサワーを注文しておこうかな。
安田さんから絶対食べるべきだと勧められた名物のおにぎり。胡麻かと思ったものは唐辛子の種だった。
安田さんから絶対食べるべきだと勧められた名物のおにぎり。胡麻かと思ったものは唐辛子の種だった。
カッライ!オーナーが甘党っていう話はどこへいった!
カッライ!オーナーが甘党っていう話はどこへいった!
大先輩による貴重なリアクション芸。
大先輩による貴重なリアクション芸。
おにぎりよりもさらに辛いというナンピッパヤン。鮭(本来は別の魚)と唐辛子を和えたタイの常備菜的なものだそうです。
おにぎりよりもさらに辛いというナンピッパヤン。鮭(本来は別の魚)と唐辛子を和えたタイの常備菜的なものだそうです。
キムチみたいなものかと思ったら、もはや辛いというよりも痛い。魚の味なんて一切しない。慣れないと胃を壊しそうだが、これを毎回頼んで一人で食べる女性も多いとか。
キムチみたいなものかと思ったら、もはや辛いというよりも痛い。魚の味なんて一切しない。慣れないと胃を壊しそうだが、これを毎回頼んで一人で食べる女性も多いとか。
お口直しに辛くないチャーハン。舌がマヒしていて味がわからん。俺、辛すぎる料理が苦手だということがようやくわかった。
お口直しに辛くないチャーハン。舌がマヒしていて味がわからん。俺、辛すぎる料理が苦手だということがようやくわかった。
安田さんの意見ではポール牧、私はゼンジ―北京に似ていると思った素敵なオーナーと記念写真。
安田さんの意見ではポール牧、私はゼンジ―北京に似ていると思った素敵なオーナーと記念写真。
たっぷりと飲んで食べて、一人あたり二千円ちょっと。なるほど、確かに良い飲み屋だ。

「すごく良い飲み屋なんだけど、店の魅力の半分はあのオヤジだからね。いないと寂しいのよ。」と常連の安田さん。

タイに惚れこんだ日本人が作った立ち飲みタイ料理屋で、なんだか秘密基地にでも迷い込んだ気分になった。
そして二駅先の練馬店へとハシゴ。こちらは5年半の営業によって、さらに濃密な空間に仕上がってました。
そして二駅先の練馬店へとハシゴ。こちらは5年半の営業によって、さらに濃密な空間に仕上がってました。
ホモガイ、おいしかったです。
ホモガイ、おいしかったです。

この店が近所にあればいいのになと思う機会が多い。でも今住んでいる場所にだって、きっと探せばこういう居心地の良い店があるのだろう。

でも、もともとそんなに飲み歩く習慣がないので(好きではあるのだが)、こんな店が近くにあったらいいのになと思える店に、たまのご褒美として行くくらいが自分には合っているのかもしれない。

ということで、どこかいい店あったら教えてください。
マンゴープリンだと思って食べたら、カボチャ入りのココナッツミルクだったぜ。
マンゴープリンだと思って食べたら、カボチャ入りのココナッツミルクだったぜ。
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