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ロマンの木曜日
 
たのしい肥薩線

おじさんも浮かれてしまう楽しさ

先日、ちょっと用事があって九州に行きました。まず鹿児島に行き、午前中で用事が済んだので、その日の宿がある博多に向かうことにしました。

できたばかりの九州新幹線に乗ることも考えたのですが、時間もあったのでどこか寄り道しようと時刻表を見ていたら、おもしろそうな列車を見つけたので乗ってみることに。

そして、それは本当に楽しい特急列車と各駅停車でした。

萩原 雅紀



新幹線で50分のところを4時間かけて回り道

鹿児島中央駅から博多駅に向かうとき、九州新幹線に乗ればいまのところの終点である新八代駅までおよそ50分、新幹線がまだ工事中の新八代駅と博多駅の間は「リレーつばめ」という特急で1時間40分。合計して2時間半で移動できます。ふつうに「路線検索」したら、それ以外の選択肢は出てこないでしょう。

そこを新幹線を使わずに、ローカル線の特急と普通を乗り継いで、新八代まで4時間かけて向かうルートがあるのです。

それが今回乗った肥薩線(ひさつせん)で、特急「はやとの風」、普通「しんぺい」、特急「くまがわ」を乗り継ぐというもの。


4時間の方、いかにも楽しそうじゃないですか?
地図素材提供:CraftMap

切符を買ってホームに行くと、真っ黒に塗装された列車が停まっていました。車体に書かれた番号や列車名などの文字は金色です。かっこいい!

車内は木をふんだんに使ってあり、でも今風の内装。驚いたのは、車両の真ん中に天井から足下まで窓があって、テーブルとイスが窓側を向いている席があること。ここは自由席で誰でも座っていいみたいです。平日で空いていたこともあり、さっそく買い込んだ駅弁を持ってこの席に移動。

ここから、この「はやとの風」という特急で新幹線とは逆向きに発車。海沿いの日豊本線を走り、途中から肥薩線という山越えのルートに入って、終点の吉松駅に向かいます。


黒酢、黒豚、黒特急 テーブルとイスが窓側を向いている展望席
こういうのモダンって言いますよね 写真欄が余ったのでうまかった黒豚弁当の写真を

さて、新幹線が開通した現在、なぜわざわざ遠まわりのローカル線を通る特急が走っているのでしょうか。

このルートが単なるローカル線と違うのは「はやとの風」が発車してから気づきました。


はとバスツアーのような特急列車

列車に乗り込むときに制服を着たお姉さんが挨拶してくれたので、女性の車掌さんなのかと思ったらこの方はいわゆる客室乗務員。切符のチェックだけでなく沿線の案内やお土産の販売までしていました。

近くの席に酔っぱらったおじさんのグループがいて、「姉ちゃんどこの人なの」なんてちょっかいを出していたのですが、笑顔で応えながら全員にビールとおつまみ、あと「限定なんです」と畳み掛けてプリンまで売っていました。さすが1枚上手だ!

発車してしばらく快走していましたが、列車がブレーキをかけて徐行しました。そのとき「右手をご覧ください」とさっきのお姉さんのアナウンスが。すると目の前には青い錦江湾、そして雄大な桜島がそびえていました。


ガラス越しなので変な色ですが、絶景

しばらくして列車はまた加速。つまり桜島のビュースポットでわざと徐行していたのです。これは粋なサービス!

その後、隼人駅から肥薩線に入ると上り坂が続くようになり、山岳路線の色合いが濃くなってきました。

やがて、肥薩線に入って最初の停車駅、嘉例川(かれいがわ)駅に到着。アナウンスによると古い駅舎が有名で、5分ほど停まるようなので列車の外に出てみることにしました。


ほかの乗客もみなホームに降りていた かなり年代を感じさせる駅舎の中

乗客ほとんど全員が写真を撮っていた嘉例川駅舎

嘉例川駅は1903年(明治36年)の肥薩線開業と同時に造られました。駅舎も開業当時のもので登録有形文化財に指定されているそうです。現在は無人駅ですが、駅の清掃などは地元のボランティアが行なっているとか。

あと、実は鹿児島空港がものすごく近く、直線距離で2km程度しか離れていません。が、列車は1時間に1本以下なので、空港から各地へはバスの方が便利だと思います。

そうこうするうち、発車時間になりました。ところでこういったローカル線で列車が駅に5分も停まるときは、たいてい向かいから来る列車と行き違うためだったりするのですが、よく見たらこの駅は線路が1本しかありません!つまり駅舎や周辺を見学するための「観光停車」だったのです。

ポイントポイントで停まって降りて写真撮って、ってこれ、はとバスツアーじゃん!


こちらも嘉例川駅と同じく1903年開業の大隅横川駅

プリンのおじさん達は2ショットを撮って益々ご機嫌 太平洋戦争中の機銃掃射の跡

その後、嘉例川駅と同じ歴史を持つ大隅横川駅でも5分停車。この駅は、なんと第二次大戦中にアメリカ軍機から受けた機銃掃射でホームの柱に開いた穴がいまだに残されています。

そうして、寄り道しながら1時間半かけてゆっくり進んできた「はやとの風」は終点の吉松駅に到着しました。なんだか楽しかった!


どう撮っても脳が勝手にセピア色の写真に変換してしまう(大隅横川駅にて)

ここで「はやとの風」とはお別れ。この先は1日5往復しか列車が通らない区間で、そのうち2往復走る特別な各駅停車「しんぺい」に乗り換えます。


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