特集 2014年11月15日

宇宙人みたいなムラサキダコを食べる

水っぽくておいしくないと評判のムラサキダコを拾ったので、おいしくいただいてみました。
水っぽくておいしくないと評判のムラサキダコを拾ったので、おいしくいただいてみました。
ちょっと前の話になるのだが、富山県氷見市で地元のおっちゃんと海水浴をして遊んでいたところ、水深80センチほどの浅瀬で見たことのない軟体生物を拾った。

調べてみるとそれはムラサキダコという生き物で、食用は可能のようだが、水っぽくておいしくないとの評判だった。しかし調理方法次第ではけっこういけるはずだと信じて、一生に一度しか扱わないであろう食材を料理してみた。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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海岸で拾ったムラサキダコ

海辺にはいろいろな漂着物が落ちているものだが、富山県氷見市の海岸で拾ったそれは、ちょっと意外なものだった。

今年の8月上旬、氷見市在住の岩瀬さんという私にとっては遊びの先生みたいな方と一緒にチャプチャプと海水浴をしていたときのことだ。

足がつくような浅瀬に、それはいたのである。
波打ち際のマーメイド、岩瀬さん。
波打ち際のマーメイド、岩瀬さん。
シュノーケルをつけてちょっと潜ると、タイとかが見られる素敵な海。
シュノーケルをつけてちょっと潜ると、タイとかが見られる素敵な海。
一休みしようと陸に上がろうとしたら、砂浜になにかがいたのだ!
一休みしようと陸に上がろうとしたら、砂浜になにかがいたのだ!
なんだこれは。イカなのかタコなのか。大きさはラグビーボールくらい。
なんだこれは。イカなのかタコなのか。大きさはラグビーボールくらい。
足は8本だから、きっとタコの仲間なのだろう。
足は8本だから、きっとタコの仲間なのだろう。
そのタコの仲間と思われる生き物は、だいぶ弱ってはいるものの、かろうじてこの浅瀬で生きており、テレビの深海生物特集でみるような姿でヨロヨロと泳いでいた。
深海っぽいけど足が付く深さの場所です。
深海っぽいけど足が付く深さの場所です。
しつこく追いかけまわしていたら、大量の墨を吐かれてしまった。
しつこく追いかけまわしていたら、大量の墨を吐かれてしまった。
もしかしたら貴重な生き物なのではと、張り切って動画もとってみました。

ムラサキダコという生き物らしいです

この怪しげな生き物は、どうやら寿命が近づいているようで、もうすぐお亡くなりになる気配である。

とりあえず手でつかんでから少し迷ったのだが、どうせ死んでしまうのならばと、友人が務めるカフェへと持ち帰って、食べられそうであれば食べてみることにした。
さすがにうまいとは思えないけれど、これもまた経験である。
さすがにうまいとは思えないけれど、これもまた経験である。
氷見ではよくいる生き物なのかと聞いてみたら、岩瀬さんも生まれて初めて見るレアな生物らしい。
氷見ではよくいる生き物なのかと聞いてみたら、岩瀬さんも生まれて初めて見るレアな生物らしい。
捕まえたというよりも、ついつい拾ったという感じ。
捕まえたというよりも、ついつい拾ったという感じ。
打ち上げられたダイオウイカみたいなヴィジュアルですね。
打ち上げられたダイオウイカみたいなヴィジュアルですね。
携帯電話でこいつの写真を撮影し、詳しそうな人にメールで聞いてみたところ、どうやらムラサキダコという名前であることが分かった。

ちょっと検索してみると、どうやら深海ではなく海の表中層を泳ぐタコのようで、元気な時は足の間にある黒い膜部分がもっと長いらしい。

問題の味については、普通は食用にしないけれど、食べられないことは無いっぽい。ただし水っぽいのでわざわざ食べる程のものではないのだとか。どのサイトを見てもうまいとは一件も書いていない。
これは今年の9月に粟島で捕まえたマダコ。たしかに比べるとムラサキダコは水っぽそう。ちなみに今年は粟島のタコ捕り大会で準優勝しました。
これは今年の9月に粟島で捕まえたマダコ。たしかに比べるとムラサキダコは水っぽそう。ちなみに今年は粟島のタコ捕り大会で準優勝しました。
こちらは粟島で釣ったアオリイカ。イカのビラビラした部分は脚の間ではなく胴体部分にある。
こちらは粟島で釣ったアオリイカ。イカのビラビラした部分は脚の間ではなく胴体部分にある。
しかし待ってほしい。多少水っぽいといっても、そんなのは調理方法次第でどうにでもなるはずだ。もしかしたら柔らかくておいしいかもしれない。食わず嫌いは良くない。

高級魚で知られるアマダイだって、水っぽい身に塩をして水分を抜くことでその味が開花するのだ。

さあ、ムラサキダコでマイフェアレディごっこをしてみよう。
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ムラサキダコを捌く

海岸で拾ったムラサキダコを台所へと運び、まな板に寝かせる。

「なんだこりゃ」という言葉が口からでた。
怪しさ全開。宇宙人の生首みたいでちょっと怖い。
怪しさ全開。宇宙人の生首みたいでちょっと怖い。
海で見た時も怪しかったが、こうして台所へと食材として持ち込んだ場合、その怪しさは倍増するようだ。

変な臭さなどはないけれど、その存在感はどう見ても地球外生物。
この質感、やっぱり宇宙人だろ。
この質感、やっぱり宇宙人だろ。
とりあえずは内臓を取り出すのだが、調理というよりも宇宙人の解剖みたいな気分である。逆キャトルミューティレーション。

今までに普通のタコなら何匹も捌いているが、やっぱり全然違う。岩場に吸盤でへばりついて暮らしているマダコと違って、海中を優雅に泳いでいるムラサキダコは、吸盤がとても小さく、身がプヨプヨしているのだ。
長いこと浜辺をさまよっていたらしく、大量の砂が詰まっていた。
長いこと浜辺をさまよっていたらしく、大量の砂が詰まっていた。
なんだこの脳味噌みたいな内臓は。
なんだこの脳味噌みたいな内臓は。
とりあえず怪しげな部位は全部はずします。
とりあえず怪しげな部位は全部はずします。
食べられそうな部位だけ残したら、それを塩で揉んで洗い流すこと3回。これで汚れや臭みが消えたはず。

またしっかりと塩もみすることで、心配される水っぽさも少しは減ってくれたかな。
揉み応えが普通のタコと違うんですよ。筋肉感がゼロ。
揉み応えが普通のタコと違うんですよ。筋肉感がゼロ。
仮面ライダーの敵キャラみたいになりました。こういうマントほしい。
仮面ライダーの敵キャラみたいになりました。こういうマントほしい。
ムラサキダコというだけあって、洗ってもムラサキのままですね。
ムラサキダコというだけあって、洗ってもムラサキのままですね。
ここで塩もみしたムラサキダコの匂いを確認。

少しでもやばそうな匂いがするようであれば、安全第一でサヨナラする覚悟だったのだが、嫌な感じはまったくしない。これなら食べても問題なさそうだ。
匂いは……タコの匂いだな。
匂いは……タコの匂いだな。
氷見の怪人、オクトパス・デビル登場!
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ムラサキダコを茹でる

さすがに生で食べる勇気はないので、海水程度の塩水で茹でてみることにした。
ちょっと鍋が小さかったかな。
ちょっと鍋が小さかったかな。
茹で汁がアズキ色に早変わり。
茹で汁がアズキ色に早変わり。
なんだか魔女の食卓みたいになってきた。
なんだか魔女の食卓みたいになってきた。
いわゆる茹でダコ状態なんだけど、身の質感とか吸盤の大きさとか、いろいろとおかしい。
いわゆる茹でダコ状態なんだけど、身の質感とか吸盤の大きさとか、いろいろとおかしい。
茹であがったムラサキダコは、小さな吸盤がおちょぼ口のようにピョンと立っていた。

私の知っているタコとは違う、何か別の生き物である。今にも吸盤から何かが出てきそうだ。
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柔らかくておいしかったです

ここまで下処理が終われば、あとはスーパーなどで売っている茹でダコと同じ扱いでいいだろう。

優しく包丁を入れてみると、やっぱりその身はやわらかく、タコというよりも冷凍イカのほうが近い感じ。

作ったムラサキダコ料理は3品。難しいことはしないで、切って味を付けただけ。

ちなみにムラサキダコのレシピをクックパッドで調べてみたけれど、レシピは見つからなかったので、ちょっと勝った気分がした。
見た目はバッチリにできました。
見た目はバッチリにできました。
ムラサキダコを食べてみると、確かに悪くいえば水っぽいのだが、ここは柔らかくて食べやすい食感と前向きにとらえたい。

歯ごたえという部分では物足りないかもしれないが、老若男女に愛される可能性を秘めた柔らかさだ。

味は変なクセもなく、地物のマダコに比べたらちょっと旨味や香りが薄い感じもあるけれど、輸入物の冷凍茹でダコと比べれば、このムラサキダコのほうがうまいかもしれない。
ムラサキダコ、いける!
ムラサキダコ、いける!
今回は他人様の台所ということもあり、簡単な料理しか試さなかったが、これならタコ焼き、唐揚げ、アヒージョ、酢ダコ、燻製など、何を作ってもおいしそうだ。この柔らかさを生かせる料理を発見したい。

また海岸でムラサキダコを拾うようなことがあれば、今度は自信を持って食材として扱おうと思う。
シンプルにポン酢を掛けてみました。左側が頭で右側が足。
シンプルにポン酢を掛けてみました。左側が頭で右側が足。
オリーブオイルをたっぷりと掛けたカルパッチョ。
オリーブオイルをたっぷりと掛けたカルパッチョ。
胡麻油でピリ辛に和えてもおいしいね。
胡麻油でピリ辛に和えてもおいしいね。
「先輩、どうですか?」「本当にこんなの食うのかと思ったけど、これなら食えるな」
「先輩、どうですか?」「本当にこんなの食うのかと思ったけど、これなら食えるな」

次はダイオウイカを拾いたい

水っぽくてまずいと言われていたムラサキダコだが、調理方法しだいではなかなかおいしい食材だった。おそらく一期一会であろう怪しい生き物こそ、料理をして一番興奮する存在であることを再確認。

さてこうなると次に試してみたいのが、アンモニア臭いと評判のダイオウイカである。もしうっかり浜辺で拾うようなことがあれば、ダイオウイカもおいしくいただいてみたいと思う。
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